高次脳機能障害の症状固定時期
監修者: 交通事故チーム主任弁護士
羽賀 倫樹 (はが ともき)
交通事故の問題は、当事務所のホームページをご覧になられた被害者の方が、無料相談にお越しになった後、そのままご依頼いただくというケースがよくあります。 記事をお読みになられて弁護士に相談をしたくなりましたら、お気軽にお問合せください。
- 相談者
- 高次脳機能障害の症状固定時期はどのように判断されるのでしょうか?
- 羽賀弁護士
- 症状固定時期は、症状の回復が見込めなくなる時点で決定されます。
ただし、子どもや高齢者の場合、特別な考慮が必要です。
また、びまん性軸索損傷の場合、回復過程の特徴も考慮して判断する必要があります。
具体的な基準について詳しくお話しします。
- この記事でわかること
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- 高次脳機能障害の症状固定時期の判断時期について
- 子どもの場合の症状固定時期における考慮事項
- 高齢者の症状固定時期における考慮事項
- びまん性軸索損傷の場合の症状固定時期の特徴
- 弁護士に相談する必要性について
- こんな方が対象の記事です
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- 高次脳機能障害の後遺障害等級申請を考えている方やそのご家族の方
- 子どもや高齢者の症状固定時期について知りたい方
- びまん性軸索損傷の症状固定時期の考え方について知りたい方
はじめに
交通事故では、治療を継続しても症状の改善が見込めなくなると、症状固定となり、後遺障害の申請を行うことになります。高次脳機能障害でも基本的には同じで、急性期からの症状回復が進んだ後は、目立った回復が見られなくなり、症状固定・後遺障害申請に至ります。高次脳機能障害の場合、一般的には、受傷後1年以上の治療を経て症状固定となることが多いと言えます。
しかし、子どもや高齢者が高次脳機能障害になった場合は、症状固定時期について特別な考え方が必要とされています。また、びまん性軸索損傷の場合、回復過程の特徴も考慮して判断する必要があります。ここでは、子ども・高齢者・びまん性軸索損傷の場合の症状固定時期について見ていきます。
子どもの場合
子どもの場合でも、後遺障害等級1級か2級に該当するほどの重度の症状があれば、受傷後1年程度で症状固定・後遺障害申請としても、特に問題がないことが多いと言えます。
しかし、後遺障害等級3級以下が見込まれる場合、別途の考慮が必要です。就学前の子どもの場合、以下の点が不明確であり、後遺障害等級や労働能力喪失率の判断が困難であるためです。
No | 後遺障害等級が3級以下が見込まれる場合の考慮事項 |
---|---|
① | 学校における人間関係構築がどの程度可能か |
② | どの程度の学習が可能か |
③ | 仕事における対人関係の構築がどの程度可能か(学校と異なり対人関係が非選択的なものであることが多い) |
④ | 実際の就業がどの程度可能か |
また、被害者が高校生くらいであったとしても、上記の③④の点は不明確であり、後遺障害等級や労働能力喪失率の判断は困難を伴います。
以上から、就学前の子どもであれば、幼稚園・保育園などで集団生活を開始する時期まで、幼児であれば、就学期まで、後遺障害等級認定を行わないという考え方があります。また、高校生くらいでも、就職時期まで様子を見た方が、より適切な後遺障害等級・労働能力喪失を認定できる可能性があります。
ただ、実際には、迅速な示談を求める被害者・家族が多く、成人と同じように受傷から1年を超えて症状が安定していれば、症状固定・後遺障害申請となる事案が多いように思われます。一方で、学校などにおける集団生活への適応困難の有無を確認するため、事故から時間をあけて症状固定をする事案もあるのが子どもの高次脳機能障害の特徴と言えます。
なお、症状固定時期とは直接関連しませんが、最高裁判所令和2年7月9日第1小法廷判決(民集74巻4号1204頁)は、事故当時4歳、高次脳機能障害3級という事案について、後遺障害逸失利益の定期金賠償を認めています。これは、子どもの3級以下の高次脳機能障害について、被害者の発達過程の中で症状の変化が想定しうることが前提になっていると言えます。
高齢者の場合
高齢者の場合、高次脳機能障害が発生した原因として、被害者の加齢による認知機能の障害の進行が同時に存在していることがよくあります。そのため、自賠責保険の障害認定手続きにおいては、症状固定後一定期間が経過し、状態が安定した時点の障害程度をもって障害等級の認定を行うものとされています。また、時間が経過する過程で症状が悪化した場合については、交通事故による受傷が通常の加齢による変化を超えて悪化の原因になっていることが明白でない限り、上位等級への認定変更の対象とはしないものと取り扱われています。
びまん性軸索損傷の場合
交通事故では、衝撃の程度が大きく、頭部への衝撃により脳に回転加速度が及びます。脳に回転加速度が及ぶと、大脳が揺さぶられ、脳の中の神経細胞である軸索が伸長したり、裂けたりして損傷します(びまん性軸索損傷)。そのため、交通事故ではびまん性軸索損傷という傷病名がつけられることがよくあります。
軸索部分は細胞体と比較すると回復しやすく、時間の経過とともに軸索が修復・伸長し、新たな神経回路を形成します。症状固定頃でも修復・伸長が完全に止まるわけではなく、5年・10年単位でみると、徐々に回復します。
そうすると、びまん性軸索損傷では、厳密に考えるとなかなか症状固定に至らないようにも思えます。しかし、症状固定頃になると回復の程度は緩やかになりますので、交通事故から1年を超えると症状固定して問題ないと言えます。また、リハビリを継続するなどして症状が回復することは歓迎すべきことと言えますが、交通事故の賠償との関係では、治療期間を伸ばし過ぎると認定される後遺障害等級に影響が出る可能性が否定できません。その意味でも、1年を超えて症状が安定していれば、症状固定して問題ないと言えます。
弁護士によるまとめ
高次脳機能障害の症状固定時期の特徴として、少なくとも1年程度の治療期間が必要になることがあげられます。また、子どもや高齢者の場合、治療期間以外に、別途の考慮要素もあります。症状固定時期は、最終的に主治医の先生が判断する事項になりますが、賠償との兼ね合いもありますので、弁護士にも相談しながら進めることが重要です。
更新日:2023年5月27日
交通事故チームの主任として、事務所内で定期的に研究会を開いて、最新の判例研究や医学情報の収集に努めている。研究会で得た情報や知識が、交渉などの交通事故の手続きで役立つことが多く、交通事故チームで依頼者にとっての最高の利益を実現している。
また羽賀弁護士が解決した複数の事例が、画期的な裁判例を獲得したとして法律専門誌に掲載されている。
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