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弁護士による交通事故研究会

制度研究
Vol.30

労災の適用ができる場合の、任意保険及び自賠責保険との関係

本件の担当
羽賀弁護士

2019年11月18日

事例の概要

交通事故で、労災の適用ができる場合に、任意保険及び自賠責保険との関係がどうなるか検討しました。

議題内容

  • 最高裁の判示と保険会社の運用。
  • 弁護士がついたときとつかないときの、運用の違いと注意点
  • 労災支給の不当利得の可能性について
議題内容

・労災からの支給が先行した場合の、任意保険からの賠償金への充当について

・任意保険からの賠償金の支払いが先行した場合の、労災給付について

・平成30年最高裁の判示内容の検討

1.自賠責保険に対する被害者請求と労災の代位請求の優先順位について

2.自賠責保険金の遅延損害金が発生する時点の解釈

参加メンバー
澤田弁護士、伊藤弁護士、小川弁護士、羽賀弁護士、吉山弁護士、田村弁護士、石田弁護士、山本弁護士、加藤弁護士、松弁護士
羽賀弁護士
「今回は、『交通事故で労災の適用ができる場合の、任意保険及び自賠責保険との関係』について、お話したいと思います」
具体的には、労災からの支給が先行した場合に、保険会社からの賠償金の支払いがどうなるか。逆に保険会社からの賠償金の支払いが先行した場合に、労災給付がどうなるか。以上の2点と、2018年に出た、労災からの代位請求と自賠責への被害者請求の優先関係に関する最高裁の判示がありますので、それも簡単にご紹介したいと思います」
羽賀弁護士
「まず最初に、労災からの支給が任意保険からの支払いに先行した場合どうなるかという問題です。これは平成22年の最高裁判決で、『原則として、過失相殺の後に、費目を制限して元本に充当される』という形で判示がされています」
加藤弁護士
「最高裁の判断はそういうことですが、実際問題として、保険会社の運用が違う場合があるような感じがしています」
羽賀弁護士
「同感ですね。保険会社から示談提示される際は、労災分について過失相殺前充当をしていることがあるのではないか・・・というのが実感です。こちらの方でやると、過失相殺前の大きい損害額の所に充当しますので、被害者側にとっては最高裁の考え方より有利な計算方法になる、という事になります」
澤田弁護士
「保険会社は、先に引いてから過失相殺するって、何故、そういう計算方法をとることがあるのでしょうか?」
羽賀弁護士
「正直、私もよく判らないんです。ただ、加害者側(保険会社側)に弁護士がつくと、そこはきっちり、過失相殺後費目制限元本充当で計算してくることがありますね。なお、特別支給金は、損益相殺の対象外です」
倉田弁護士
「計算の違いを、具体的に説明していただけますか?」
羽賀弁護士
「例えば、休業損害が100万円ある事例で比較してみます。
その場合、実際には労災からは60万円支給されないと思いますが、簡単に説明するために6割の60万円が労災から支給されて、過失相殺が20%あるという事案の場合なら、最高裁の考え方ですと、休業損害100万円に80%掛けて、60万円払われたので、あと20万だけ払います、という考え方になります。」
【・最高裁の考え方による残賠償額 100万円×0.8-60万円=20万円 】 
羽賀弁護士
「一方、保険会社の運用になりますと、100万円そのものから、過失相殺前に60万円を控除して、残った40万円に80%を掛けるので、32万円支払います、という提案をして来ることが結構あります。」
【・保険会社の運用による残賠償額 (100万円-60万円)×0.8=32万円 】 
加藤弁護士
「でも、実際には保険会社がどう提示してくるのかわからない…」
羽賀弁護士
「そうなんです。保険会社の出方によっては、実は示談の方が有利になってしまう、というパターンもある様ですので、その辺はよく見ておいた方が良いと思います。
以上が労災からの支給が先行した場合です」
羽賀弁護士
「次は、賠償金の支払いが先行した場合に、労災給付はどうなるかについて説明します。」
倉田弁護士
「弁護士の立場からすると、賠償金の支払いが終わると手続きが終了してしまい、労災の方はあまりタッチしないので、それほど意識はしていませんでしたね」
羽賀弁護士
「そうですよね。とりあえず順番に行きますと、一時金での給付の場合、つまり後遺障害等級が8級以下の場合です、この場合は、保険の給付の種類毎に、受領済みの損害賠償額が控除された金額が、労災の方で支給される、という事になります」
羽賀弁護士
「次に、年金で労災が給付される場合。7級以上の場合という事ですけれども、これは簡単に言うとしばらくの間、年金給付が停止されるという形になります」
吉山弁護士
「しばらくって、どの位ですか?」
羽賀弁護士
「支給されるべき額が、受領済みの損害賠償額に達するまでの間、ということです。
但し、災害発生後7年以内に支給理由の生じた労災保険給付であって、災害発生後7年以内に支払うべき労災保険給付が限度となります。それ以降については控除されません。平成25年4月1日以降に発生した事故についてはこうなりますということで、平成25年3月31日以前に発生した事故に関しては3年間しか控除になりません。
また、これは保険会社側の問題ですけれども、労災から加害者側への求償期間は3年間のままで変更はありません」
吉山弁護士
「特別支給金はどうなりますか?」
羽賀弁護士
「受領済みの賠償金を控除されずに受け取ることができます」
羽賀弁護士
「最後に、弁護士業務で実際にどれ位使う機会があるかは判りませんが、平成30年に出た最高裁の判示内容を、簡単にご紹介します」
羽賀弁護士
「一つ目は、自賠責保険に対して、被害者請求と、労災からの支給が先行して代位請求が同時に行われた場合、被害者請求に対する支払いが優先される、というものです」
加藤弁護士
「被害者側にとって重要ですね」
羽賀弁護士
「2件目は、自賠法16条の9第1項の、『保険会社は、第16条第1項(被害者請求)の規定による損害賠償額の支払の請求があった後、当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間が経過するまでは、遅滞の責任を負わない』の、”期間”の解釈についてです。簡単に言うと、どの時点から自賠責保険金に遅延損害金が発生するかという、そういう判示事項です。普段は特に意識しない部分ですが…」
加藤弁護士
「最高裁はどういう解釈をしているんですか?」
羽賀弁護士
「はい。その期間とは、『事故または損害賠償額に関して保険会社が取得した資料の内容及びその取得時期、損害賠償額についての争いの有無およびその内容、被害者と保険会社との間の交渉の経過等の個々の事案における具体的事情を考慮して判断するのが相当である』という事で、結局、総合的に考慮してくださいという内容です」
山本弁護士
「この2つの判示は、交通事故問題の処理に、具体的にどういう影響がありますか?」
羽賀弁護士
「例えば、①労災で給付を受けていて、なおかつ、これはなかなか難しい所ですけれども、②加害者が任意保険を契約していないか、色々問題があって任意保険の請求に至らない、という事案の場合に、被害者請求をすれば、労災からの代位請求と按分して支払われる事が無く、全額の支払いを受ける事ができます」
羽賀弁護士
「実際の事案では、傷害部分120万円と後遺傷害部分224万円が、全額、被害者側に支払われたという結果になっています」
山本弁護士
「この判決以前はそうじゃなかったんですか?」
羽賀弁護士
「いくつかの文献に当たりましたが、この判決が出た事で、被害者請求を優先するという取扱いに変更になっているようです。労災からの代位が先行した場合は、支払いを保留し、被害者請求の有無を確認してからの支払いになるようです。
結論としては、被害者側の弁護士としては、こういった事案では、労災の方を先に請求すべき、という事になりますね」
石田弁護士
「その理由は?」
羽賀弁護士
「労災保険法12条の4第2項に『保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる』との規定があり、自賠責に先に請求した場合は、労災について支給制限される可能性があるためです。つまり、自賠責を先に請求してしまうと、労災の方の支給が一部制限される可能性があるという事です。」
羽賀弁護士
「健康保険からの代位についても、同じく被害者請求が優先されるという判示が、平成20年2月19日の最高裁判決にありました」
羽賀弁護士
「任意保険が使えない事案というのはあまり無いと思いますし、そういった事件は弁護士費用の問題等から弁護士として受けることはあまりないと思いますので、実際問題として、この最高裁判決を意識することはあまりないと思います。
あと、遅延損害金の判示事項については、結局、実務的には被害者請求をして、自賠責保険の判断が出た日を遅延損害金の起算点とすれば、不要な争いは避けられるのではないかという、赤本の指摘がありました」
澤田弁護士
「先程の、労災からの支給が先行した場合に、保険会社の運用で、先に引いてから過失相殺する件ですが、保険会社の計算の方が正しいということはないですか?」
羽賀弁護士
「最高裁の判示内容とは異なりますし、保険会社側に弁護士がついたら、過失相殺を先やってから引いてますので、そっちの方が正しいですね」
澤田弁護士
「なんかモヤモヤしますねえ」
羽賀弁護士
「こっちから提案する時は、そもそも過失相殺せずに出す事が多いので、あまり充当関係までは意識していません。ただ過失相殺する場合は、過失相殺前充当で提案しています。相手側がそういう風に提案してくる可能性がありますので。」
澤田弁護士
「加害者側に弁護士がついたら、最高裁の考え方を採用するんですか?」
羽賀弁護士
「そうですね、その方が多いですね」
山本弁護士
「提案書類自体、通常、弁護士が作って、全然違う書式で送って来ますので」
山本弁護士
「あと、これと関連して、保険会社と示談した時に労災の処理を誤ったら、労災から被害者の方に、二重払いになってるから支給した分返せっていう請求が来るパターンありませんか?」
羽賀弁護士
「そうなりそうな案件はありましたんで、事前に色々と処置はしたりはします。」
小川弁護士
「羽賀先生が処置をしたって言うのはどういう事案ですか?」
羽賀弁護士
「保険会社が治療費の支払いを終わらせてきたので、その後は労災で治療費を支払った事案です。そして示談交渉の時も、保険会社が治療費は保険会社が支払った分しか認めない、みたいな言い方を続けていました。その場合、それを示談書に明示すると、労災から支払った治療費を戻せと言われてしまうので、示談書は示談時の支払総額だけを記載することにしました。」
小川弁護士
「示談書には症状固定時を書かなかったということですか?」
羽賀弁護士
「示談書には症状固定時を記載しなくても問題ありません。そのときは、示談時の支払総額と、労災から保険会社への求償については、労災と保険会社間で別途協議するとの条項を入れました。」
澤田弁護士
「こういったケースの場合など、後になって被害者の方がトラブルに巻き込まれないよう、我々が先を読みながら適切な対応をしていく必要がありますね」

「みお」のまとめ

労災適用の要件を満たす交通事故の場合、加害者側の保険だけでなく、労災保険を使うこともできます。一般的に、労災保険を使う方が有利なことが多いと言えますが、今回の議題で取り上げたような他の保険との関係や、手続きの煩雑さなど、注意が必要な部分が色々あります。労災適用の交通事故に遭われたら、ぜひ一度、労災と交通事故の両方に詳しい「みお綜合法律事務所(大阪・京都・神戸)」にご相談ください。初回相談は無料です。

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