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弁護士による交通事故研究会

事例研究
Vol.45

後遺障害併合4級のAさんの解決事例

本件の担当
山本弁護士

2021年08月11日

事例の概要

平成23年、加害車両のセンターオーバーによる正面衝突で大怪我を負い、後遺障害は併合4級の認定。示談交渉がまとまらなかったために訴訟に移行、令和3年にほぼ請求通りの金額で判決が確定しました。

議題内容

事故発生から判決確定までの流れと、相手方と争点になった点と解決方法、注意ポイントなどを紹介しました。

議題内容

・自賠責と労災の後遺障害等級について

・JA共済との示談交渉・訴訟・判決に至るまで

・逸失利益等の争点についての主張・立証

参加メンバー
澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、羽賀弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、大畑弁護士、西村弁護士、石田弁護士
山本弁護士
令和3年に判決があった、Aさんの解決事例について報告したいと思います。
まず事故の概要ですが、
平成23年に、兵庫県で片側1車線道路のトンネル内での、加害車両のセンターオーバーによる正面衝突事故です。加害者の人はこの事故で亡くなっています。
被害者のAさんは重傷を負い、平成28年に症状固定。人工肛門、腹壁ヘルニア、左手関節硬直、右下肢可動域制限などの後遺障害で、自賠責も労災も、併合4級が認定されました。
山本弁護士
労災も自賠責も等級は併合4級になりましたが、認定の中身は異なっています。しかし、どちらの等級であっても損害額の観点では変わらないため、異議申立はしませんでした。Aさんが労災年金を受給されているので、交渉を急ぐ必要もありました。
それぞれの認定内容は、お配りしている資料をご覧ください。
山本弁護士
後遺障害等級認定後、加害者の加入していたJAの自動車共済との示談交渉を開始しましたが、JAは労災年金の元金充当は主張する一方で、遅延損害金は認めないという姿勢でした。労災年金は引かれるのに、遅延損害金が0円となると、どうしても示談金額が小さくなりますので、示談解決はできず、訴訟を提起することになりました。
澤田弁護士
加害者が死亡しているから、訴訟準備も少し手間がかかりますね。
山本弁護士
訴訟準備をするにあたっては、加害者の相続人調査が必要になります。
交通事故証明書記載の住所から辿っていくのが定石ですが、今回は、JA共済から相続人の氏名と住所を聞いて、住民票と戸籍を取得し、さらに、相続放棄の申述がないか家裁に照会して確認しました。
山本弁護士
裁判の大まかな流れですが、平成30年に訴訟提起しました。本来の管轄は神戸地裁豊岡支部で、京都事務所からは遠いため、応訴管轄見込みで大阪地裁に提訴し、大阪地裁での係属になりました。
山本弁護士
裁判では、病院からのカルテ開示に時間がかかり、提訴から約1年でやっと開示されました。
吉山弁護士
大怪我でしたからね。しかしこんなに時間がかかると、遅延損害金による増額と、労災年金による減額と、どちらが大きいか、ですね。
山本弁護士
そうなんです。労災年金は元本充当という問題がありますから。途中までは増額の方が大きいですが、ある時点から逆転します。
山本弁護士
令和2年に、裁判所から、既払い金を除いて5,300万円の和解案が提示されました。損害額の認定は概ね当方の主張どおりでしたが、遅延損害金があまり入っておらず、判決の場合の見込額との差が大きいので和解には至りませんでした。
判決では、遅延損害金が全額加算される一方、損害額自体は和解案より低くなる可能性もありましたが、全体としては判決の方が高くなる可能性が高いと思われたため、判決に進むことになりました。
山本弁護士
和解不成立の後、尋問を経て結審。判決では、遅延損害金も含めて約7560万円が認容されました。双方とも控訴することなく、判決が確定し、JAから賠償金が支払われました。
山本弁護士
裁判の中で争点がいくつかありましたので、順に説明していきます。
1つ目は家賃について。JA共済は、私が受任する前から、Aさんが通院のために転居した賃貸マンションの家賃をずっと支払っていました。
これについては、そもそも事故がなくても住居費は必要なので、因果関係を欠くと判断される可能性があるところですが、Aさんのご希望もあり請求に加算していました。
山本弁護士
さらに、家屋改造費も、駄目もとでいいから請求してほしいとのご希望でした。
身体が不自由になったので家の改造をしたとのことでしたが、改造は実際には住んでいない実家で行っている点が大きな問題でした。家屋改造費は認められたとしても、家族の便益があるとして全額が認められにくい点も問題です。
山本弁護士
家賃と家屋改造費について、Aさんからご事情をおうかがいすると下記のようなものでした。
①事故前は、県外の親族所有の家に無償で住んでいた。勤務地も県外であった。
②Aさんが事故に遭い、妻の家事・育児・介護負担を軽減するため、Aさんの実家に転居した。
③実家に転居した際に、Aさんが問題なく生活できるように、家屋の改造を施した。
④その後、親と折り合いが悪くなり、Aさん一家は出て行くことにしたが、元の自宅からでは通院が難しいので、近くの賃貸マンションを借りた。
⑤仕事に復帰後、勤務地変更があったため、治療が終わってもそのまま賃貸マンションに住むことになった。
羽賀弁護士
この内容であれば、賃料についてある程度まで因果関係が説明できそうですが、親との折り合いが悪くなったために出ていったとなると、やはり因果関係の立証には至っていないように思います。
山本弁護士
そこで何か立証を補充できないかと調査していると、カルテには、Aさんが入院している時の妻の様子の記載がありました。看護師がAさんの妻の様子を心配して事情を聞きとったようです。
羽賀弁護士
わざわざ詳細を記載しているということは、看護師から見てもかなり心配な状態だったということでしょうね。
山本弁護士
そうですね。カルテにはさらに、Aさんの母親も不安でストレスが増大している旨のコメントも添えられていました。
山本弁護士
カルテの記載も含めてAさんに改めて事実関係をうかがった結果、次のことがわかりました。
①妻と両親は同居を始めたものの、折り合いが悪くストレスが増加。
②Aさん自身は入院中は、両者の仲を取り持つことができなかった。
③Aさんは退院後、妻や両親と同居したが、妻と両親の関係は回復せず、同居が不可能になった。
④一家は実家から出ざるを得なくなり、近くの賃貸マンションに転居。治療が落ち着いてからは、転勤になったので、そのまま賃貸マンションに住むことになった。
以上の聴き取りから、
「仮に交通事故がなければ、Aさんは旧自宅に無償で居住を続けていたはずだが、交通事故のため、最終的に賃貸マンションを借りざるを得なくなったので,賃料の発生は交通事故による損害であり、相当因果関係が認められる」との主張を行いました。
山本弁護士
最終的には、カルテの記載、Aさんの当事者尋問、Aさんの妻の陳述書などで立証することにしました。カルテの記載が大きかったと思います。あとは内容の合理性ですね。
判決では、事実関係を引用の上、「原告の妻と原告の両親の関係性を考慮すれば、原告の両親宅に居住しなくなったことに正当な理由がある」として、相当因果関係が認められました。
山本弁護士
次は家屋改造費の問題です。
家屋改造の中身は、主に実家の浴室への暖房設備の設置に伴う浴室の改装などですが、実はAさん一家の住む離れと、母屋の両方を工事していたんです。
山本弁護士
改装の内容は必要不可欠とは言い難く、微妙でしたが、Aさんの希望に添って、駄目もとで請求対象に加えました。
実家を改造したのに転居したことについては、前述の同居ができなくなった理由と同様の主張で対応しました。
JAの担当者からは、一旦支払うとの回答を得ていたのに、工事が終わってから、支払えないと言い出したとのことでした。これは、JAから書面で回答があったものです。
吉山弁護士
裁判所の判断はどうなりましたか?
山本弁護士
判決では家屋改造費のうち50%が損害として認定されました。後遺障害の問題以外での利便性や快適性の向上などもあるので、50%でも多い方だと思います。やや高い金額が認定されたのは、JA側の連絡書面が影響しているのではないかと思われます。
山本弁護士
争点の3番目は、転院先での入院の必要性についてです。
Aさんは、当初入院していたB病院から、C病院に転院して入院リハビリを行っているんですが、B病院のカルテには「現段階で入院の必要性はない」との記載があり、JAはそれを根拠に転院後の入院治療について必要性がないと主張していました。
しかしカルテをよく読むと、入院の必要性はないと記載した医師自身が、C病院への転院調整を行っていました。
山本弁護士
そこで、当方からは次のように主張しました。
医師のカルテ記載の意味は、「入院を続けなければならない」という意味での入院の必要性ではなく、「退院も可能だが、状況によっては、入院継続も相当性がある」ということである。だからこそ、「入院の必要性はない」というカルテの記載にもかかわらず、医師はC病院への転院調整を行ったのである。
山本弁護士
AさんがB病院を退院した時の状況は、普段は車椅子だが、短時間であれば片手は杖、もう一方は松葉杖の状態で歩行可能というものでした。しかし実家は廊下が狭く、車椅子が使えず、生活できなかった。ところが、C病院でのリハビリの結果、普段も片手杖歩行が可能になったので、実家に戻ることができた、ということです。
山本弁護士
こういった成果があったので、C病院への入院の必要性が認められ、判決では、問題なく因果関係が肯定されました。
認定理由は、「医学的な入院の必要性は認められないが、身体の状態等から、両親宅等の準備の必要性が認められるので、因果関係を肯定できる」ということでした。
山本弁護士
次に、付添看護費の要否です。
付添2名分として、1日12,000円×入院日数150日=180万円を請求しました。
JA側は、完全看護の病棟であることを理由に全額否定してきましたが、カルテに記載されたAさんの不穏状況をまとめて主張し、陳述書にもお世話の内容を詳しく記載しました。カルテの記載によると、リハビリのため、看護師はあまり世話をしないという方針だったので、家族があれこれ世話をしなければならないという状態であったこともあり、判決では1名分×90日で認定されました。
山本弁護士
逸失利益についてですが、併合4級なので労働能力喪失率の基準は92%になります。しかし事故前の年収は約400万円、事故後は約100万円ということで、実際はそこまでは減少していません。そうなると、92%も喪失率が認められないのではないかということになります。
大畑弁護士
主張の方針はどうされましたか?
山本弁護士
事故がなければ昇給するはずだったがそれがなくなった、転職の可能性もなくなった、との主張で進めることにしました。
各後遺障害によってどのような支障が発生しているか整理して提出しました。また、事故がなかった場合の昇給の可能性について主張を組み立てました。
さらに、現在の減収の原因と今後も昇給の見込みがないこととの関係で、現在の業務での支障についても主張しました。
Aさんは後遺障害の影響で、力仕事ができない、車の運転やパソコン入力が困難であるなどの支障がでており、仕事に大きな影響があります。Aさんは、営業職で、顧客訪問が中心ですが、ルート営業では交換品なども同時に運搬することが多かったとのことです。
山本弁護士
復職時は倉庫管理業務として時給制で勤務しましたが、荷物の搬入・搬出があり、後遺障害のため、一人では対応できないことが多くありました。営業担当者にも手伝ってもらって何とかしているが、外見上は後遺障害の内容が分からないため、説明してもなかなか受け入れてもらえないという問題もありました。業務内容と実際に対応可能な作業からすれば,解雇されてもやむを得なかったということです。
山本弁護士
裁判中にAさんが離職されましたので、離職はやむを得ないものであることと、後遺障害の影響で再就職は困難であることを追加主張しました。
判決では、①後遺障害の程度、②本人の努力と職場の配慮、③事故前は昇給の可能性があったこと、④離職したことなどを指摘して、喪失率92%での計算になりました。
山本弁護士
次に過失相殺です。センターオーバー案件なのに、相手方は過失相殺を主張してきました。万一5%でも相殺されると影響が大きいので、反論せざるを得ませんでした。
澤田弁護士
被告はどういう主張をしてきましたか?
山本弁護士
要約すると、①見通しのよい直線道路なので、事故直前まで発見できなかった原告には前方不注視の過失がある、②被告車両の端とトンネルの端との間は、原告車両の幅員よりも大きいので、十分に回避可能である。というものでした。
問題は、Aさんが事故直前の様子を全く覚えおらず、加害者は死亡しており、事情が全く分からないことでした。そこで刑事記録を精査して反論しました。
山本弁護士
①については、地図上では直線に見えるが実際にはトンネル内が坂とカーブになっており、高速で走行して対向車を見る場合には見通し距離が長いとは言い難い。そもそも、追い越し禁止で自動車道全体で中央線上にポストコーンが設置されているのだから、センターオーバー車両の存在自体が予測不可能である等の点を主張しました。
山本弁護士
②についても、実際の運転に即した詳細な検討を行って反論しました。①②の反論の詳しい内容はお配りした資料をご覧ください。
山本弁護士
以上の反論の結果、判決では過失相殺は認められませんでした。
山本弁護士
判決後の対応ですが、判決内容を検討した結果、控訴しないことにしました。相手方も控訴しなかったため、判決が確定しました。

「みお」のまとめ

交通事故の問題解決を弁護士に依頼するタイミングとしては、治療中、症状固定前後、後遺障害等級認定後、保険会社が示談金額を提案してきた後などが考えられますが、今回ご紹介したAさんのように大怪我を負った方は特に、できるだけ早く弁護士に相談されることをお勧めします。大怪我で長期の治療をしていると、ご本人もご家族も今後の見通しが立たず、治療の負担に加え、保険会社とのやりとりや様々な手続きも重なって、精神的にも大きなストレスを抱えることになります。そのようなとき、経験豊富な「みお」の弁護士なら、面倒な手続きや複雑な交渉をお任せいただけます。

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