交通事故で顔や身体に傷が残ったら?醜状障害の内容と損害賠償について。

監修者: 交通事故チーム主任弁護士
羽賀 倫樹 (はが ともき)
交通事故の問題は、当事務所のホームページをご覧になられた被害者の方が、無料相談にお越しになった後、そのままご依頼いただくというケースがよくあります。 記事をお読みになられて弁護士に相談をしたくなりましたら、お気軽にお問合せください。

- 相談者
- 交通事故に遭ってしまい、顔に傷が残ってしまいました。
後遺障害や示談金の手続きはどうすればいいですか。
- 羽賀弁護士
- 傷の程度や位置によりますが、醜状(しゅうじょう)障害に該当する場合、慰謝料の請求が可能です。
逸失利益は難しいことが多いですが、請求を検討できることもあります。一緒に詳細について確認しましょう。
この記事では、醜状障害とは何か、どのように認定されるか、さらに慰謝料の基準や逸失利益の認定の可否について解説します。
- この記事でわかること
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- 醜状障害の定義と認定基準
- 醜状障害における逸失利益の基準と逸失利益認定の可否について
- 醜状障害の後遺障害認定のポイント
- こんな方が対象の記事です
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- 交通事故で傷が残り、示談金交渉が必要になっている方
- 醜状障害に関する慰謝料や示談金の請求方法を知りたい方
- 交通事故による傷について、後遺障害の認定基準を知りたい方
はじめに
交通事故による受傷やその後の手術などの結果として、顔や身体に人目につくほどの傷が残ってしまうことがありますが、このような後遺障害の類型を醜状障害といいます。
他の障害と同様に、醜状障害も自賠責保険において後遺障害としての認定等級が定められていますので、まずは、どういったものが醜状障害といえるか、具体的にどういった症状が後遺障害として認定されるのかが問題となります。
そのうえで、後遺障害として認定されるほどの傷跡が残ってしまった場合、それによる精神的苦痛が発生しますし、普段の就労にも悪影響が出る場合がありますから、慰謝料や将来にわたっての労働能力喪失に伴う逸失利益を損害として請求することになります。しかしながら、醜状障害に関しては、特に後者の逸失利益の有無及びその程度が保険会社との示談交渉等で争点となることが少なくありません。
そこで、このサイトでは、醜状障害の内容や後遺障害の等級について紹介した後に、逸失利益が問題となる理由とこれに対する対応をご説明していきます。
醜状障害の内容と等級認定の概要
1)醜状障害の内容
醜状障害のうち自賠責保険の障害等級表に定められているものは下記の通りです。
区分 | 等級 | 障害の程度 |
---|---|---|
外貌 |
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上・下肢 |
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このなかで「外貌」とは、頭部、顔面部、頸部のように、上下肢以外の日常露出する部分、端的に言えば、首から上の普段から人目に触れる部位のことをいいます。
そして「醜状」「醜いあと」とは、例えば、瘢痕(はんこん、いわゆるあばた)、切り傷や手術痕のような線状痕、ケロイドや欠損などが含まれますが、後遺障害として認定されるためには、人目につく程度以上のものである必要があります。
また、上肢・下肢の醜状障害として等級認定表に定められているのは、人目につきやすい「露出面」に醜状が残った場合です。この露出面とは、自賠責の基準では、上肢については上腕(肩関節以下)から指先まで、下肢については大腿(股関節以下から足の背までをいうものとされています。
2)等級認定の概要
自賠責保険の障害等級表に定められているのは、上記外貌醜状の3区分、上肢・下肢の1区分ですが、醜状障害又はその関連の後遺障害として認定される症状は他にもありますので注意が必要です。これらについては後にその一部を紹介します。
また、既に述べた通り、醜状障害として認定されるには、人目につく程度以上の傷跡であることが必要です。したがって、一般的に次のような留意点があります。
- 外貌醜状の場合、瘢痕、線状痕、組織陥没などがあったとしても、眉毛や頭髪等で隠れる部分については、醜状として取り扱われません。例えば、顔に4センチの切り傷が残ったとしても、傷が眉毛の走行に一致していて、そのうちの2センチが眉毛で隠れるという場合には、後遺障害評価の対象となるのは、残り2センチの部分ということになります。
- 2個以上の瘢痕又は線状痕が相隣接し、又は相まって1個の瘢痕又は線状痕と同程度の醜状を呈する場合は、それらの面積、長さ等を合算して等級認定されることになります。
- 醜状障害についても、後遺障害診断書の記載欄に症状の程度(傷跡の部位や大きさ)を正確に記載してもらうことがまずは重要です。しかしながら、醜状障害については上記の通り、「人目に付く程度以上」か否かという観点が入るため、後遺障害として該当する可能性がある場合には、書面審査だけでなく自賠責調査事務所で面接調査を行い、症状の程度、部位、形態などの確認が行われるのが特徴です。
後遺障害等級について
ここでは、⑴外貌の醜状、⑵上肢・下肢の露出面の醜状、⑶その他の部位の醜状について、後遺障害等級とその認定基準についてご説明します。(なお、これらは自動車損害賠償保障法施行令別表の改定により、平成22年6月10日以降に発生した事故に適用される基準です。これより前に発生した事故の場合はご相談時に弁護士にご確認ください)
1)外貌
貌醜状に関しては、7級12号「著しい醜状」、9級16号「相当程度の醜状」、12級14号「醜状」の3区分が設けられていますが、その認定基準は①頭部、②顔面部、③頸部という部位ごとに次のように定められています。
等級 | 障害の程度 | 認定基準 | ①頭部 | ②顔面部 | ③頸部 |
---|---|---|---|---|---|
7級12号 | 著しい醜状 | 左のいずれかに 該当する場合で、 人目につく 程度以上のもの |
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てのひら大以上の瘢痕 |
9級16号 | 相当程度の醜状 |
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12級14号 | 醜状 |
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鶏卵大面以上の瘢痕 |
2)上肢・下肢
上肢及び下肢の露出面の醜状については、等級認定表では次のとおりそれぞれ14級のみが定められています。なお、上下肢の露出面にてのひらの大きさの3倍程度以上の瘢痕が残る場合には、後遺障害12級相当と判断されます(準用)。
等級 | 障害の程度 |
---|---|
14級4号 | 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの |
14級5号 | 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの |
3)その他
等級認定表に記載されているもの以外に醜状障害又はその関連として認定される症状としては、例えば次のようなものがあります(これが全てではありませんので、弁護士への相談時には症状を漏れなくお伝えいただき、該当の可能性がないかご確認ください)。
顔面神経麻痺 | 顔面神経麻痺は神経系統の機能の障害ですが、それによって現れる口の歪みは「単なる醜状」として取り扱われます。 |
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上肢・下肢の 露出面以外の醜状 |
胸部又は腹部にあっては各々の全域、背部及び臀部にあっては、その全面積の2分の1程度を超えるものは12級相当となります。 胸部又は腹部にあってはそれぞれ各部の2分の1程度、背部及び臀部にあってはその全面積の4分の1程度を超えるものは14級相当となります。 |
醜状障害による後遺障害逸失利益について
問題となる理由
後遺障害が残ってしまった場合、一般にそれに伴う精神的苦痛を填補するための慰謝料(後遺障害慰謝料)のほかに、後遺障害の影響で将来にわたって労働能力が低下するものとして、それによって失った収入相当額(後遺障害逸失利益)を請求します。
しかし、このうち、醜状障害の場合の逸失利益の請求に対しては、保険会社から、逸失利益はそもそも損害として否定する、あるいは自賠責保険や労災で定められている各等級ごとの労働能力喪失率よりも相当低い喪失率に基づく金額しか認めない、といった回答がなされることが非常に多く、逸失利益の有無及び労働能力喪失率が重大な争点となることが多々見受けられます。
これは、醜状障害が一般的にそれ自体が身体的機能を左右するものではなく、それゆえに、現在も将来も具体的な労働能力の喪失、それに伴う減収をもたらすものではない、という考え方によるものです。
確かに、例えば「外貌に著しい醜状を残す」場合には後遺障害7級12号が認定されますが、その場合でも、肉体労働であれば労働に直接的な影響が出るわけではありません。仮に労働能力の喪失が想定できたとしても、同じ7級である「1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの」(1号)、「両足の足指の全部の用を廃したもの」(11号)などと比較した場合、これらと同様に(身体的な)労働能力が喪失したものと考えてよいかは難しい面があります(7級の労働能力喪失率は56%です)。
そのため、裁判例においても、醜状障害による逸失利益は否定されることが少なくないのが実情です。
逸失利益として認められる可能性
しかしながら、現実的には、被害者の職業は必ずしも肉体労働に限られず、モデルや接客業など、見た目が決定的又は相応に重視される職種があることは明らかです。それに、全く他人との交流なしに職業生活を送っている人はおそらくまれであり、通常の就労者は、いわゆるホワイトカラーかブルーカラーかを問わず、程度の差はあれ他人との直接的接触・交流の中で就労しています。そして、人目につくような醜状障害があれば、対人関係の構築維持や円滑な意思疎通の妨げになることは容易に想像できるところです。
こういった考え方から、近時の裁判例では、具体的事案によっては、醜状障害による逸失利益の発生を肯定されることがあります。その際には、被害者の性別、年齢、職業等を考慮した上で労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれがあるか否かによって判断するとした見解がありますが、考慮要素としては次のような点を指摘できます。
醜状障害の内容 及び程度 |
失利益の有無を考える上では、第一に、醜状障害の内容及び程度を実質的に検討する必要があります。 例えば、外貌の醜状が「著しい」程度に達していれば、既に述べた対人関係などに相当程度影響を与えるものと考えるのが自然ですから、これに伴う労働能力の喪失が肯定される蓋然性も高まるものといえます。 反対に、上下肢の醜状障害は、たとえ露出面に残ったものであっても服装などで隠せる場合も多いでしょうし、外貌に比べると他人に与える印象も薄いと思われるので、(当然その程度や被害者の職業にもよりますが)労働能力の喪失が認められる可能性は低くなるように思われます。 |
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被害者の職業 | 次に、被害者の実際の職業も重要な要素となります。 例えば、モデルや芸能人など容姿が最重要視される職業であれば、醜状障害の内容や程度によっては、就労の継続そのものが不可能になることも考えられます(この場合には、標準以上の喪失率が認められる可能性もあります)。 そうでなくとも、接客業や営業担当者など、対人関係や意思疎通が重要と考えられる職業では労働能力に対する具体的影響が肯定される可能性がありますし、反対に、肉体労働者や家事労働者などでは、労働能力を喪失したとは評価しづらいものと思われます。 |
被害者の性別、年齢 | 被害者の性別に関しては、これまでの裁判例では、女子の事例で広く逸失利益が肯定される傾向があります。したがって、現在、自賠責の後遺障害認定の基準は男女共通のものに統一されており、就労している職業の傾向のために男女差が生じているだけだと説明することも可能とは思われますが、被害者が女性の場合はその点を指摘しておくことは重要と思われます。 また、被害者の年齢は、現に具体的職業に就いている場合には大きな影響はないように思われますが、将来の就職、転職、配転等において選択の幅が狭められる、といった主張を行う場合には指摘するべき場面がありえます。 |
労働能力喪失率 について |
逸失利益の発生を認めてもらうには、以上のような観点から労働能力や収入に影響が生じるということを具体的に主張立証していく必要があります。 その結果、逸失利益の発生が認められたとしても、次には労働能力喪失率をどのように評価するかが問題となります。そして、裁判例では、喪失率については事例ごとの個別具体的判断がされており、自賠責保険や労災で定められた等級ごとの喪失率を単純に当てはめることはされていません。 これは、事例ごとに障害の内容や程度が大きく異なること、どの程度労働能力が失われたかは被害者の職業や性別など他の要素の影響が大きいことによるもので、全体的な傾向としては、身体的機能を左右するものではないことから、等級ごとの喪失率よりも低めの認定がなされることが多いのが実情です。 |
慰謝料における考慮
なお、労働能力への直接的な影響が認めがたく、逸失利益の発生が否定される場合でも、対人関係や対外的な活動に消極的になるなどの形で間接的に労働能力に影響を及ぼすおそれがある場合や、醜状障害による日常生活における支障など、特に考慮すべき事情があるという場合には、後遺障害慰謝料の金額算定の中で考慮されることがあります。
したがって、それに備える意味でも、逸失利益に関して述べた考慮要素は丁寧に主張立証する必要がありますし、それ以外の事情(例えば、未婚の女性であれば、事実上婚姻の機会、選択の幅が狭まるといったことなど)についても適切に指摘しておくことが重要です。
まとめ
以上に述べてきたとおり、醜状障害が後遺障害に該当するか否かの判断には専門的知識が必要となります。また、後遺障害として認められた場合でも、それによる逸失利益の発生が認められるかどうかは、様々な要素を総合的に考慮して判断される問題です。したがって、適正な損害賠償(特に後遺障害逸失利益、慰謝料)を獲得するためには、交通事故事件の経験が豊富な弁護士に早期にご相談されることをお勧めします。
当事務所では、顔や体の傷が残った場合の後遺障害手続きや示談交渉を数多く行っています。豊富な解決事例を参考にしてみてください。
次のページでは、後遺障害慰謝料の算定の基準となる「自賠責基準」と「弁護士基準」の違いと、適正な後遺障害慰謝料を得るためのポイントを解説しています。
更新日:2016年11月29日

交通事故チームの主任として、事務所内で定期的に研究会を開いて、最新の判例研究や医学情報の収集に努めている。研究会で得た情報や知識が、交渉などの交通事故の手続きで役立つことが多く、交通事故チームで依頼者にとっての最高の利益を実現している。
また羽賀弁護士が解決した複数の事例が、画期的な裁判例を獲得したとして法律専門誌に掲載されている。

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