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弁護士による交通事故研究会

裁判例研究
Vol.50

重度後遺障害の将来介護費の算定に関する諸問題

本件の担当
羽賀弁護士

2022年01月05日

事例の概要

重度後遺障害が残った方の将来介護費算定の際の、介護にかかわる諸費用と介護保険給付金の扱いについて、赤い本2021年版裁判官講演録掲載の裁判官講演を基に検討しました

議題内容

重度後遺障害が残った場合の将来介護費の認定について

議題内容

・居住費や食費に相当する費用が損害として認められる場合

・施設入所後に近親者介護費用が損害として認められる場合

・入所一時金の考え方

・介護保険等を利用する場合の将来介護費の算定について

参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士 、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士、西村弁護士
羽賀弁護士
今回は赤い本2021年版の「裁判官講演録」が題材です。テーマは、「重度後遺障害の将来介護費の算定に関する諸問題」です。
ここで、将来介護費が必要となる重度後遺障害は、代表的なところでは、高次脳機能障害・脊髄損傷・遷延性意識障害が挙げられます。
交通事故で、このような重度後遺障害が残存した場合について、以下の2点が今回の検討対象です。
羽賀弁護士
1つ目は、「重度後遺障害を有する被害者が、症状固定後病院や介護施設で介護を受けることになった場合、介護にかかわる諸費用が損害として認められるか」です。
今回検討対象になる諸費用は、①居住費や食費に相当する費用、②介護施設等に入所した後の近親者介護費用、③入所に際して支払う入所一時金、の3つです。
羽賀弁護士
2つ目は、「重度後遺障害を有する被害者が、将来にわたり介護保険給付を受給することが見込まれる事案において、どのような点を考慮して将来介護費を算定すべきか」との問題点です。
加藤弁護士
将来介護費を自己負担分だけで考えるべきか、保険負担分も考慮して考えるべきかとの問題点ですね。
羽賀弁護士
そういうことです。
では、それぞれについて、裁判官講演録の内容をご紹介していきます。
まず1つ目の検討事項の、①「居住費や食費に相当する費用」を損害として認定するかどうかですが、裁判官としては基本的には損害としては認めないとの考えです。その理由は、事故に遭わなかったとしても生じていたであろう生活費に該当するためです。
羽賀弁護士
講演録で、この問題点について判示した裁判例が紹介されています。
仙台地裁平成26年の判決では、被害者の施設利用料が毎月139,000円で、食費42,000円と住居費60,000円が含まれていますが、食費は元々かかるものなので損害とは認定されていません。住居費も今回の事故が無くても40,000円ぐらいはかかると思われるので、3分の1の20,000円は認定せず、請求額から62,000円を差し引きして、77,000円を損害と認定しています。
名古屋地裁平成30年の判決と東京地裁平成28年の判決も、被害者は事故に遭わなかったとしても一定の食費を負担していたはずであるとして、損害とは認定しないとの判断をしています。
羽賀弁護士
一方で、京都地裁平成30年の判決では、胃瘻(いろう)をすることになった方について、胃瘻にかかわる費用を損害として認めるとの判断をしています。
「原告は本件の事故により遷延性意識障害の後遺障害が残存し、胃瘻から栄養を摂取することとなったのであるが、これは事故前と異なる観点から必要な治療として行われているものである」ことが理由です。
羽賀弁護士
それぞれについての裁判官のコメントをご紹介します。
まず居住費については、「事故前に賃借していた自宅を引き払ったのであれば、施設利用費のうち居住費は損害とは認められない方向になる。しかし、持ち家であるとか、賃貸であっても同居人が症状固定後も居住しているなどといった事情があれば、居住費部分も損害として認められるのではないか」とされています。
羽賀弁護士
食費については、上記の通り原則は損害として認定されませんが、一方で「症状固定前の入院中の食費については、一般的には保険会社が病院から請求されて、基本的には問題なく払っているのではないか」ともされています。確かに入院中の食費は、治療費とともに保険会社が支払っているように思います。
小川弁護士
しかし理論的には入院中の食費は損害として請求できるものなのでしょうか?
羽賀弁護士
厳密に考えると、通常の食費より高くなった部分を請求できることになりそうですが、実際の取り扱いはそうではなく、症状固定前は、入院中の食費全額が損害として認定されているように思います。
一方、症状固定後の、施設介護費に含まれる食費については、治療の一環ではなく、元々食事は必要なのだから損害とは認められにくいと言えます。
それから平成30年の京都地裁の判決ですね。こちらは、あくまで胃瘻なので食費とは違う面もある点を重視して、損害として認めているのですが、コメントされている裁判官としては、損害と認めるのは難しいと考えているように思います。
羽賀弁護士
次に、諸費用の②の「介護施設等に入所した後の近親者介護費用」ですが、基本的に認められないとの結論になっています。
「基本的には施設で全てやってくれるはずで、例えばスタッフによる介護では不足があるなどの理由で施設側から付き添いの指示があり、将来においても近親者の付き添いを継続する蓋然性があるなどの特段の事情がない限りは、仮に近親者が一定の頻度で施設を訪問するとしても、損害賠償請求の対象となる付添いと認めるのは基本的には困難と思われる」と記載されています。
吉山弁護士
ただ、近親者に付添や介護を指示をする施設は聞いたことがないです。
羽賀弁護士
基本的に施設で介護体制を整えますので、近親者介護を指示することはあまりないと思います。裁判官としても、基本的には施設に入った後の近親者付き添い費は認めないとの結論だと思います。
その理由は、症状固定後は、身体の支障の程度はほぼ一定になり、それを前提に、施設スタッフが被害者を介護する体制を整え、施設利用費はその点も含めて定められていると考えられるためです。
羽賀弁護士
判例は、もともと施設介護開始後の近親者介護費を請求した事案が少ないんだと思いますが、1例だけ仙台地裁平成28年の判決がありました。被害者のお子さんが週1回施設を訪問し、好物を差し入れたり会話に付き合ったりしているとの事実は認めたものの、あくまで親族としての情に留まり、付き添い看護が必要であることを認めるに足りないとして、近親者介護費を否定しています。
羽賀弁護士
施設ではなく、病院で入院を継続している事案は2例ありました。
広島地裁平成29年と、名古屋地裁一宮支部平成30年の判決ですが、こちらは付添費を認めています。
広島の件は、治療費月130,000円と将来の入院雑費1日1,500円を請求通り認め、途中までは付き添い看護費1日6,500円で週3回、病院を変わってからは週1回分を損害として認定しています。
名古屋の判決も、将来の治療費月8,000円と将来の入院雑費月10,000円を請求通り認め、それ以外に、近親者介護費として1日4,500円を毎日認めるとの内容になっています。
以上からすると、裁判例の傾向としては、施設介護か入院を継続しているかで、近親者介護費用認定の傾向が違うと思われます。
羽賀弁護士
3番目は、施設入所に際して支払う入所一時金です。
これについて、「後遺障害の内容・程度と、どういう施設に入所が可能か、地域圏の特性などを考慮して、例えば入所一時金を必要としない特別養護老人ホームへの待機状況を踏まえて、入所一時金を定める有料老人ホームへ入所せざるを得ないといった場合であれば、これを損害として考慮する必要がある。損害の範囲については、何年ぐらいの入居期間が想定されているかとか、入所一時金の中身が具体的に何であるかを確認して、損害として認定する」と記載されています。
羽賀弁護士
東京地裁平成25年の判決が紹介されています。口頭弁論終結時にはまだ入院継続中の方で、施設を探している途中であることを前提に、施設によって入所一時金が1000万円を下回るところから2000万円を上回るところまであることを認定し、1500万円を認定した事案です。入所一時金を実際に支払ったわけではないのに、損害として認容している点は珍しい判決と言えるかもしれません。
羽賀弁護士
それから、神戸地裁平成26年の判決ですが、こちらは入所一時金2,096万円を支払い済みの事案です。内訳は308万円が介護サービス料などに相当するもの、1,788万円が家賃相当額です。
これは結局、最初にお話しした、居住費を損害として認めるかの部分に関わってきます。居住費は事故に遭わなくても生活に必要な費用ではあるが、施設での生活を余儀なくされたことにより、本来必要な額を大きく超える居住費が必要になったことから、1,788万円の7割を損害と認定し、介護サービス料は全額認定されています。
入所一時金が問題になる場合は、中身をきっちり見ていく必要があることになります。
羽賀弁護士
4番目が、「重度後遺障害を擁する被害者が、将来にわたる介護保険給付を受給することが見込まれる事案において、どのような点を考慮して将来介護費を算定すべきか」との問題点です。将来介護費を、自己負担分のみで認定すべきか、保険負担分も考慮すべきかが問題になります。
裁判官が講演の中で紹介されているのは、最高裁平成5年の判決内容と、介護保険の場合と障害者総合支援法利用の場合についてです。
羽賀弁護士
最高裁判決の詳細はお配りした資料を読んでいただくとして、要は法律上、代位の規定がある場合は、基本的口頭弁論終結前の分は、自己負担分のみを損害とし保険負担分は含まない。口頭弁論終結後の分は、保険給付が確実であるとは言えないため、保険負担分も考慮して損害額を算定することになります。
それを前提に、介護保険利用の場合は代位規定がありますので、今の話をそのまま使うことができます。そのため、「口頭弁論終結前の分は、自己負担分のみを損害として認定するのを基本とし、口頭弁論終結後は、10割分の金額を踏まえて、相当な金額の認定をする」ことになります。
羽賀弁護士
介護に必要になる金額はは、障害者総合支援法に比べて、介護保険の方が安いケースが多いようです。10割負担分で、月額30万~40万円程度になるケースが結構あり、おそらくその額ですと1日で10,000~13,000円位ですので、1級とか2級の認定であれば全額が損害として認定されるケースもあるのではないか思います。
羽賀弁護士
次に、障害者総合支援法には代位規定が無いので、最高裁の判断はそのまま使えないんですが、基本的には同じ考え方になるのではないかと思います。
つまり口頭弁論終結前には、自己負担分のみを損害として認定するかについて、そもそも原告が自己負担分しか請求していないことが多いようですが、仮に原告が自己負担分に限定しないで請求しても、自己負担分を考慮して相当な日額を認定する。口頭弁論終結後は10割分の金額を踏まえつつ、相当な金額で認定するべきだとの結論です。
羽賀弁護士
障害者総合支援法を使う場合は、介護費用は高くなることが多く、10割分で月80万~100万円程度になるケースが結構あります。それだと、1日に27,000円から33,000円くらいの金額になりますが、1日当たりの将来介護費が30,000円前後になるケースは多くないと思いますので、全額ではなく一部だけ認定するケースが多いのではないかと思います。
羽賀弁護士
裁判例のうち、介護保険利用の場合について判示した大阪地裁平成24年の判決では、口頭弁論終結前は自己負担額が日額600円で、近親者介護もされているため、日額6,000円が認定されています。それから口頭弁論終結後は、10割分が6,000円であることを考慮し、近親者介護と併せて13,333円と認定されています。
羽賀弁護士
次に名古屋地裁平成30年の判決。口頭弁論終結前は、自己負担1割分を基に実額で計算し、口頭弁論終結後は、10割分を前提として日額12,000円で認定されています。
羽賀弁護士
それから、障害者総合支援法を利用している事案で、東京地裁平成28年の判決。こちらは、口頭弁論終結前は日額10,000円、口頭弁論終結後の日額は20,000円と、口頭弁論終結の前と後で金額を変えています。
内容は、原告は職業介護費用の9割について給付を受けており、10割分にすると日額25,000円~27,000円であることを認定した上で、口頭弁論終結前は1割が自己負担であることと、実母による近親者介護分等を考慮して、合計日額10,000円相当と認定。それから口頭弁論終結後は、10割分そのままなら25,000円とか27,000円になりますが、20,000円の認定になっています。
羽賀弁護士
最後は横浜地裁平成29年の判決です。口頭弁論終結前の訪問看護費などについては、自己負担が月45,000円なので、日額はその30分の1である1,500円を認定しています。それ以外に妻による介護費を日額8,000円と認定しています。
口頭弁論終結後は、障害者総合支援法に基づく給付が今後も継続するか明らかとは言えないことと、家屋改造などにより介護負担の軽減が考えられることを理由として、妻が65歳になるまでは日額15,000円、65歳以降は日額20,000円で認定されています。

以上です。将来介護費用に関わる事案が出てきたときに参考にしていただければと思います。
吉山弁護士
介護保険給付を受けるときの将来介護費は、介護保険利用の場合と障害者総合支援法利用の場合とで考え方が変わってくるんですね。
羽賀弁護士
そうですね、考え方は法律上代位規定があるかどうかで違うのですが、算定される介護費は基本的にあまり変わらないと言えそうです。

「みお」のまとめ

交通事故で、遷延性意識障害・脊髄損傷・高次脳機能障害等の重度の後遺障害が残った場合、将来にわたっての介護が必要になります。ご家族が介護する、職業介護人を頼む、施設に入所するなどの選択肢がありますが、いずれの場合でも、ご家族の肉体的・精神的負担は大変大きいので、金銭面だけはしっかりと保険会社に請求したいところです。ただ、長期に及ぶ介護費は高額になり、算定にあたり様々な問題点がありますので、重度後遺障害が残った方の事例を多く扱い、専門的知識が豊富な法律事務所に相談されることをお勧めします。

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