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弁護士による交通事故研究会

裁判例研究
Vol.80

脳挫傷痕(12級13号)の労働能力喪失率

本件の担当
羽賀弁護士

2024年10月26日

事例の概要

脳挫傷痕の労働能力喪失率の認定について、自保ジャーナル掲載の事例と当事務所での解決事例を対象に検討しました。

議題内容

議題内容

・検討議題選定の理由

・自保ジャーナル掲載事例についての検討

・みお綜合法律事務所の解決事例についての検討

参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士、西村弁護士、原口弁護士、青井弁護士
羽賀弁護士
今回は、「脳挫傷痕の労働能力喪失率」について検討します。
このテーマを検討する理由ですが、脳挫傷痕で後遺障害12級13号が認定された事案は、示談交渉の場面で、保険会社から「労働能力の喪失はないのではないか」と主張されることがあり、また、自保ジャーナルでも、労働能力喪失を認めていない裁判例がいくつか紹介されているので、全体的な傾向を見ておきたいと考えたためです。
一方、脳挫傷痕については、14%の労働能力喪失率をそのまま認めている裁判例もあり、判断が分かれる理由についても検討が必要と言えます。労働能力喪失率の認定については、ばらつきがある印象がありますが、脳挫傷痕についてどの程度の労働能力喪失率を認めるべきかについては、赤い本の講演録でテーマとして取り上げられていないため、自保ジャーナルと当事務所の解決事案の傾向について調査しました。
山本弁護士
脳挫傷痕で12級が認定される事案は、脳挫傷痕があるものの特段の症状がない事案と、脳挫傷があり、脳に関連する症状があるものの、脳室拡大や脳萎縮がなく高次脳機能障害が認定されなかった事案が考えられますね。
羽賀弁護士
そうですね。山本先生のご指摘の部分が、脳挫傷痕12級の労働能力喪失認定上重要になるところがあると思います。
今回の検討対象は、脳挫傷痕単体で12級が認定された事案と、脳挫傷痕以外の後遺障害が認定され併合等級が認定されている事案です。
羽賀弁護士
自保ジャーナルで紹介されている事案は、9件ありました。なお、ここ10年くらいのものしか検索ができなかったのですが、他にも脳挫傷痕で12級が認定された事案はあるのではないかと思います。
上記事案における労働能力の認定ですが、労働能力の喪失率と喪失期間のいずれも制限しなかった事案が2件、労働能力喪失率または喪失期間を制限している事案は3件、労働能力喪失を認めない事案が4件ありました。
羽賀弁護士
当事務所で示談解決した事案は6件あります。
労働能力喪失率と喪失期間のいずれも制限しなかった事案が1件、喪失率または喪失期間のどちらかまたは両方を制限した事案が5件、労働能力喪失を明確に否定した事案はありませんでした。
羽賀弁護士
参考程度の紹介ですが、当事務所のご依頼者から、ご自身の既存障害の説明の際にいただいた資料の中に、過去の交通事故で脳挫傷痕の後遺障害を負った際の紛センの裁定の資料がありました。これについては後でお話ししますが、労働能力喪失率と喪失期間の両方を制限して認定しています。
羽賀弁護士
まず、自保ジャーナル掲載の9件を順番に見ていきます。
最初は、東京高裁令和4年の事案は、顔面醜状7級と脳挫傷痕12級で、併合6級ですが、脳挫傷痕に関わる症状はないとの認定で、労働能力喪失率は14%で喪失期間45年とされています。
被告から、喪失率について14%は認めるとの主張が出ていたようで、それに合わせて14%が認定されているように思います。
羽賀弁護士
次は前橋地裁令和4年の事案です。脳挫傷痕12級以外に複視13級で、併合11級の認定で、脳挫症痕に関わる症状として、左外転神経麻痺、右抹消性顔面神経麻痺が出ています。
結論として、喪失率20%、喪失期間は45年で上限の認定になっていますが、判決文を読むとちょっと微妙な感じになっています。つまり、脳挫傷痕に関連する症状で仕事に影響が出ているという理由付けではなく、脳挫傷痕とは関連しないと思われる部分、すなわち、補聴器を付けた状態で仕事をすることが困難であることを理由に上限の喪失率・喪失期間を認定していると思われます。
羽賀弁護士
それから、京都地裁令和4年の事案です。脳挫傷痕12級以外に手関節14級で、併合12級。脳挫症痕に関わる症状として、イライラしやすいとか短気になってしまった点があげられています。これについて、喪失率10%、喪失期間10年となっており、どちらも若干制限して認定されています。
制限して認定された理由ですが、現時点では具体的な仕事への支障はないが、将来的に支障が生じる可能性は否定できない点があげられています。
羽賀弁護士
令和4年の神戸地裁の事案、こちらは、脳挫傷痕12級、頭部醜状12級で、併合11級。脳挫傷痕に関わる症状はなしで、労働能力喪失は否定されています。
続いて、令和2年判決の新潟地裁の事案は、脳挫傷痕12級以外に、顔面醜状12級、顔面痺れ14級で、併合11級。こちらも脳挫傷痕に関わる症状はなく、労働能力喪失は否定されています。
羽賀弁護士
令和元年の大阪地裁の事案では、脳挫傷痕12級以外に、頚部痛、腰部痛14級があって、併合12級。脳挫傷痕に関わる症状としては、頭痛やふらつきで、こちらの方は労働能力喪失率14%、喪失期間30年の全期間の認定です。
同じく令和元年の名古屋地裁の事案は、脳挫傷痕12級に嗅覚脱失12級で、併合11級。脳挫傷痕に関わる症状として、軽度の記憶障害が残っています。こちらは喪失期間14%、喪失期間は5年の認定ですが、原告が、どういった事情か分からないですが、喪失率14%、喪失期間5年と主張しており、それがそのまま採用された形です。
羽賀弁護士
次に大阪地裁平成31年の事案。脳挫傷痕12級と背部痛12級で、併合11級。脳挫傷痕に関わる症状はなく、脳挫傷痕による労働能力喪失は否定されています。
大阪地裁平成26年の事案は、脳挫傷痕12級と下腿部痛14級で、併合12級。脳挫傷痕に関わる症状はなく、脳挫傷痕による労働能力喪失は否定されています。
山本弁護士
自保ジャーナルに掲載された事案はあまり多くないですが、何となく傾向が分かるように思います。やはり、脳挫傷痕に関わる症状があるかどうかが重要ということでしょうか。
羽賀弁護士
そうなります。労働能力喪失を否定しているものが4件で、いずれも脳挫傷痕による症状がない事案です。労働能力喪失を肯定している5件のうち、4件は脳挫傷痕に関連する症状が出ている事案で、残りの1件は症状は出ていないものの、被告が労働能力喪失を一部認めていたものです。裁判上はやはり、脳挫傷痕に関連する症状が出ているかどうかが重視されているようです。
脳挫傷痕は、症状がないケースも多いため、具体的な症状を確認する必要があると思います。詳しい判決内容については、お配りした資料をご覧ください。
羽賀弁護士
次に、当事務所で解決した事案について、最終的にどういう認定になったかを紹介します。
順番に行きますと、最初の方は、脳挫傷痕12級で、支障はほぼありませんが全くないわけではありません。喪失率は11%程度、喪失期間は49年の全期間で最終的に示談解決しています。
保険会社は、脳挫傷痕に関わる支障がほぼ出ていないので喪失率はもっと低く、喪失率9%、13級相当主張していました。そこを交渉して11%になり、示談解決しました。
羽賀弁護士
2番目は脳挫傷痕12級で、頭痛が残っている方です。
喪失率14%で、喪失期間を全期間19年のうち10年認定で解決しています。
3番目の方は、脳挫傷痕に関わる症状はありませんが、喪失率は14%、ただし、喪失期間は約半分、49年中24年で解決しています。
4番目の方は、脳挫傷痕12級と嗅覚脱失12級で、併合11級。事故後怒りっぽくなったなどの症状がでていますが、脳室拡大と脳萎縮はなく、高次脳機能障害は自賠責で否定されています。保険会社は特に喪失率や喪失期間を争ってこず、喪失率20%、喪失期間は全期間の46年で解決しています。
5番目は、脊柱変形11級と脳挫傷痕12級で、併合10級の方です。脳挫傷痕に関わる症状は特にないため、保険会社は当初、喪失率5%と主張していました。最終的に、喪失率14%、喪失期間は全期間の28年になりました。この事案は脳挫傷痕で労働能力喪失を認めたかははっきりせず、脊柱変形の方で認定した可能性もあります。
羽賀弁護士
6番目の方も後遺障害の内容は同じで、脊柱変形11級、脳挫傷痕12級の、併合10級で、支障は特にありません。こちらは、保険会社から、喪失率は14%程度と主張がありましたが、最終的に喪失率が20%、喪失期間は全期間の11年で解決しました。
羽賀弁護士
7番目の方は当事務所が関与した事案ではなく、昔こういった事故があって紛争処理センターで認定を受けましたと言って、依頼者からもらった資料です。脳挫傷痕12級と嗅覚脱失12級の併合11級で、脳挫傷痕に関連する症状は、睡眠障害が少し出ています。これについて、紛争処理センターの裁定での判断は、当初5年間は喪失率20%で、次の5年間は喪失率14%になっています。なお、保険会社側は、脳挫傷痕について、喪失率14%、喪失期間は3~5年程度との主張していました。
吉山弁護士
示談交渉でも労働能力喪失を制限している事案が多くなっていますね。少し特徴的なのは、労働能力喪失を明確に否定する事案がないことでしょうか。
羽賀弁護士
そうなります。示談交渉事案の傾向をまとめますと、 6件中5件は労働能力喪失を制限していますが、喪失を明確に否定した事案はありません。
ただ、5番目の事案は、脊柱変形のみ労働能力喪失を認め、脳挫傷痕に関しては労働能力喪失を否定している可能性も考えられます。
制限せずにそのまま認めている事案がありますが、高次脳機能障害のような症状が出ていることが考慮されたのかなと思います。
労働能力喪失を明確に否定する事案がないのは、裁判例上判断が分かれている部分があるのと、否定すると示談解決が困難になる点が大きいように思います。
羽賀弁護士
脳挫傷痕が残るだけで12級が認定されるんですが、症状がない事案がよくあります。実際、ご相談者の半分ぐらいは、症状が何もない印象があります。脳挫傷痕の逸失利益の認定には、関連する症状の有無に注意が必要と思います。

「みお」のまとめ

交通事故で頭部を負傷し、脳室拡大・脳萎縮があり、脳機能に障害が残る場合、高次脳機能障害が認定される可能性があります。これに対し、脳室拡大や脳萎縮がない場合は高次脳機能障害は認定されず、脳挫傷痕がある場合に12級13号の後遺障害が認定されます。
ただ、脳挫傷痕は関連する症状がある場合とない場合があり、その点が後遺障害逸失利益の労働能力喪失率認定の際に重要な要素になります。なお、脳挫傷痕が残る事案では、嗅覚障害や味覚障害など別の後遺障害が残存するケースもよくあり、後遺障害の手続きを慎重に進める必要もあります。示談金額も大きくなりますので、頭部を負傷したというケースや、脳挫傷痕で12級が認定されたという方は、弁護士への相談・依頼をお勧めします。

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