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弁護士による交通事故研究会

事例研究
Vol.73

既存障害(加重)があった場合の示談交渉事例

本件の担当
羽賀弁護士

2024年02月21日

事例の概要

依頼者は11級の既存障害のある86歳の女性で、交通事故で8級の後遺障害(加重)が残り、示談交渉で示談金を増額しました。

議題内容

議題内容

・示談交渉で想定される争点と考え方

<乗合バス内の転倒事故の過失割合>

<主婦休損・逸失利益認定における問題点>

<高齢で既存障害がある場合の基礎収入・喪失率、8級の喪失率>

・示談交渉の経過

参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士、西村弁護士、原口弁護士、青井弁護士
羽賀弁護士
今回は、私が受任した、既存障害があり加重障害が認定された方の示談交渉事例を紹介します。
事故日は2023年10月です。事故の状況ですが、Aさんが友人と乗合バスに乗車され、空いている座席まで移動されたんですが、互いに譲り合っているうちにバスが急発進してしまい、友人が中途半端な姿勢だったので、反動でAさんの方に飛ばされ、上に乗っかる格好になり、Aさんが怪我をされました。
怪我は第10胸椎の圧迫骨折で、後遺障害は脊柱変形で8級認定です。
既存障害は、同じく脊柱変形で11級。11級の後遺障害は10年前の交通事故によるもので、その件も私が示談交渉をしました。
羽賀弁護士
今回の症状固定時は86歳で、50歳代のお嬢さんと同居されており、仕事はされていません。
ご依頼のタイミングは、症状固定されて後遺障害等級8級が認定され、保険会社から示談金の提示があったので、金額が妥当なのか、増額できるかということで、相談に来られました。
羽賀弁護士
この事故で想定される争点を整理します。今回の示談で問題になった点と、問題にならなかった点があるんですが、
①乗合バスの中で転倒事故が起こった場合、過失割合が出る場合がありえます。
次に、②この方は症状固定時に86歳なので、そもそも主婦としての認定はできるのか=主婦休損・逸失利益の認定ができるかの点。
そして、③もし主婦休損や逸失利益が認定された場合、その具体的な金額です。認定された場合、既存障害があるので、基礎収入をどうするのか、喪失率をどうするのか。この方は脊柱変形で8級なので、その点での喪失率をどうするかも問題になるだろうと考えられました。
羽賀弁護士
この3つの争点の考え方を、簡単に説明します。
①の乗合バス内での転倒事故の過失割合ですが、今回の事故に関しては、結論として、保険会社からは何も主張されませんでした。ただ、乗合バスでの転倒事故の場合、過失割合が出るケースが結構多いので、注意が必要です。
裁判例では、過失割合20%~30%の事案が紹介されることがあり、 結構過失割合が大きい印象です。
羽賀弁護士
場合によってはバス会社側が免責されるようなケースもあり得るので、具体的にどういう事故状況だったかは、かなり詳しく聞き取りをする必要があります。そこで今回の事例でも、バスに乗ったとき空席があったかどうか、空席があったのに座っていなかったのであれば、1つのポイントになり得る場合もありますし、その他、手すりやポールにつかまっていたか、転倒直前にどんな体勢を取っていたか、転倒したのは1人だけか、他に転倒した人がいるのか等について詳しく聞き取りました。
澤田弁護士
友人が転倒されて巻き込まれたのであれば、友人に責任はないんですか?
羽賀弁護士
理屈上はありえます。ただ、友人に過失がある場合は、友人と運転手の共同不法行為になるため、友人に請求せず、運転手・バス会社の保険会社に損害の全体を請求すれば問題ありません。
羽賀弁護士
事故状況や過失相殺についてAさんから聞き取りをしていると、そもそも保険会社からは過失相殺の主張はないとのことでした。あと、ご依頼者はポールを持っていて、友人が転倒するのに巻き込まれる形で転倒したことなどから、過失相殺の問題はないだろうと判断して受任しました。
羽賀弁護士
示談交渉と裁判例を比較すると、示談交渉ではそこまで強く過失相殺を言われないケースもあるように感じています。こういったバス内での転倒事故では、示談交渉の時点では過失相殺の主張がなかったのに、裁判になってから過失割合が生じてしまった事案もありましたので、裁判をするには慎重な検討が必要と思います。
羽賀弁護士
それから、②の主婦休損・逸失利益の認定ができるかの問題ですが、ご依頼者の年齢が症状固定時86歳である点と、同居されているのがお子さんで女性である点が問題になり得ます。
ある程度高齢の専業主婦の休業損害・逸失利益については、三庁共同提言というものが1999年に出ていて、裁判所としての見解が示されています。具体的には、88歳で、夫と2人で年金生活をしている専業主婦については、その家事労働は、自ら生活していくための日常的な活動と評価するのが相当であるため、逸失利益は認められないとされています。
羽賀弁護士
三庁共同宣言というのは、1999年11月に東京・大阪・名古屋地裁の三庁で、逸失利益の算定について大体こういう考え方をしましょうということで発表されたものです。正式名称は「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言」です。
吉山弁護士
当時の判例タイムズに載ってますね。
澤田弁護士
88歳ならこう判断する、ということになるんですか?
羽賀弁護士
例えばの記載なので、絶対ではないんでしょうけれども、一応そういった例が載っています。一方で、74歳で夫と2人で年金生活を送っている方の場合は、女性65歳平均以上の7割を基礎として逸失利益を認めるとの記載もあります。なお、1999年頃と現在(2024年)で比較すると、現在の方が健康なまま年を重ねる方も多いと思われるため、88歳以上でも家事従事者としての休業損害・逸失利益が認められるケースも一定程度あるように感じています。
羽賀弁護士
今回の事案では、当事務所への依頼前のAさんへの保険会社からの提案金額は約437万円でした。
示談金額の交渉の経過や細かい数字は資料でお配りしていますが、ざっとご紹介しますと、最初に、休業損害0円、傷害慰謝料約41万円、後遺障害慰謝料396万円で出ています。休業損害も逸失利益も認めないとの内容でした。そのため、今回の交渉では、休業損害、逸失利益が認められるかの部分が問題になると思われました。
羽賀弁護士
そこで休業損害と逸失利益が認められるかについて、相談時にご依頼者に確認しますと、86歳と高齢で、お嬢さんと同居はしているけれど、現に家事はご依頼者が大部分やっていて、お嬢さんは週30時間程度仕事をされているということでした。
羽賀弁護士
交渉を進める中で、Aさんとお嬢さんが同居していることがわかる住民票と、お嬢さんの源泉徴収標、勤務実績表、家事の分担とか支障とかの陳述書等を出して、結果として、休業損害・逸失利益が認められました。
どれぐらいの金額が認められたかですが、まず、休業損害は、保険会社から資料を出してほしいと言われて出した結果、女性の全年齢平均の50%、基礎収入192万9,700円を基にして、通院期間に対して47%、105.3日分の休業損害を認めるとの回答を得ました。
羽賀弁護士
これが、妥当なのかですが、86歳という年齢になると休業損害が認められないケースもありますし、認められるとしても、女性の70歳以上の平均賃金から、例えば7割とかに減額するケースも多くあります。
かつ、本件の場合は、もともと既存障害11級があることを考慮すると、年齢別平均から少なくとも20%程度減額されるのはやむを得ないはずだとところで、基礎収入としてある程度の数字は出ていると考え、問題ないと判断しました。
休業日数は通院期間の47.6%の認定で、8級の場合の労働能力喪失率が45%ですし、そもそも脊柱変形8級の場合は45%が認められない事例がよくあります。そのため、休業日数について通院期間の47.6%の認定であれば問題はないだろうと判断しました。
基礎収入について既存障害を考慮し、休業期間については既存障害を考慮しない形です。
羽賀弁護士
次に逸失利益については、保険会社の見解は、基礎収入が女性全年齢平均の50%の約192万円、労働能力喪失率は8級の45%から11級の20%を引いた25%、労働能力喪失期間は平均余命の半分の3年でした。
羽賀弁護士
これが妥当なのかどうかですが、この計算だと、実は、既存障害が二重に考慮されて金額が低くなっているのではないかと主張し、保険会社と交渉しました。
要するに、基礎収入のところは休業損害と同じ50%なので既存障害を考慮しているし、労働能力喪失率の部分も既存障害があるとして20%差し引いた形にしているため、結局二重に考慮されているんじゃないか、もう少し金額を増やせないかと話をしました。最終的に、基礎収入で既存障害を考慮しない形に変更になりました。具体的には、基礎収入は女性全年齢平均の60%である231万5,640円、喪失率25%、喪失期間3年間となりました。
この基礎収入231万円というのは、女性70歳以上平均賃金の8割になります。86歳であれば、年齢別平均賃金から減額されることが多いことを考えると、年齢別平均の8割が出れば十分と考えました。
既存障害の影響は労働能力喪失率の中で考慮し、8級の45%から11級の20%を引いた25%です。脊柱変形8級の場合、既存障害がない場合で喪失率が30%位と判断されることがよくありますので、既存障害11級がある中で25%であれば十分なものと考えられました。
羽賀弁護士
こちらから出した示談案の逸失利益の計算方法ですが、先程ご説明したように、労働能力喪失率に関して45%から20%を引くという単純な形で算定をしています。赤本の大枠の記載では、実態を見て考える必要があるとされているんですが、実態を見てとなると、判断が難しくなります。また、自賠責における算定方法を考えると、単純に既存障害の喪失率を引く方が、保険会社が話に乗ってきやすいと思われたため、単純に45%から20%を引いた25%を喪失率として計算して提案し、最終解決しています。
羽賀弁護士
お配りした資料の「示談交渉の経過」のところにまとめていますが、依頼前の保険会社の提示は、休業損害0円、傷害慰謝料約41万円、逸失利益0円、後遺障害慰謝料396万円です。後遺障害慰謝料は、8級の自賠責保険金から11級の自賠責保険金を引くと488万円なんですけれども、86歳であることを前提として計算していきますと、大体396万円になりますので、自賠責基準で提示が出ていたことになります。
そこからこちらが入って交渉したところ、初めは、傷害慰謝料と後遺障害慰謝料を増やしたのみで、休業損害と逸失利益は資料を見て考えますと言われました。
羽賀弁護士
そこで、こちらから資料を色々出した結果、休業損害約55万円、逸失利益約136万円が認定されました。そこから逸失利益の基礎収入が何とかならないかと交渉しまして、逸失利益が約163万円に増額、最終の和解金額が、約780万円で示談が成立しました。金額の細かい数字は資料をご覧ください。
羽賀弁護士
加重障害のケースはそんなにはないかもしれませんが、交渉すると、いろいろ検討する必要のあるところが増えていきますので、こういった事例も参考にしていただいて、交渉を進めていただければと思います。

「みお」のまとめ

「既存障害」とは、今回の交通事故で怪我をする前からあった後遺障害のことで、「加重」は、今回の交通事故で既存障害が悪化した場合に認定されます。「加重」と認定されると、自賠責保険の限度額は、既存障害の保険金額を差し引いた金額になります。また、任意保険会社との交渉でも、既存障害分について逸失利益や後遺障害慰謝料から差し引かれます。
このように、加重障害の場合、示談金の計算方法が通常の交通事故のケースより複雑になります。そのため、弁護士に相談・依頼する必要性がより高いといえるでしょう。

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