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弁護士による交通事故研究会

事例研究
Vol.61

高次脳機能障害が残った事案の示談交渉

本件の担当
羽賀弁護士

2022年10月29日

事例の概要

高齢の被害者の方について、高次脳機能障害などの後遺障害の認定を受け、成年後見申立を行った上で示談交渉を行いました。途中で交渉窓口が保険会社から弁護士に移ったことなどから、解決まで時間がかかりましたが、今後の治療費等に充てるのに十分な示談金を確保できた事例を検討しました。

議題内容

議題内容

・後遺障害等級認定までの経緯

・示談交渉の経緯

・示談交渉時の主な争点と、当方の主張、保険会社・相手方弁護士の判断の比較

参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、大畑弁護士、石田弁護士、西村弁護士、原口弁護士
羽賀弁護士
今回は高次脳機能障害が残った事案の示談交渉について紹介します。
事故が起きたのは令和元年6月、場所は兵庫県です。被害者はMさん、当時80歳で年金生活であった男性です。事故態様ですが、Mさんが、歩道のある道路で車道の左端を歩いていたところ、脇見運転の車に後方から追突されましたというものです。怪我は、外傷性くも膜下出血、前頭骨骨折、環椎骨折など、なんとか一命を取り留められたものの、かなり危険な状態でした。ご相談は、ご本人のある程度症状が落ち着かれた時期である事故から1ヵ月後に、ご家族がお越しになりました。
澤田弁護士
ご家族ということですが、相談にはどなたが来られたんですか?
羽賀弁護士
Mさんのお子さんのご夫婦です。本人はずっと入院されていますので、ご家族が相談に来られました。
Mさんの後遺障害等級は、高次脳機能障害1級、ただし、事故前に認知症があったためで既存障害3級、それとは別に脊柱運動障害8級も認定されました。症状固定後は生涯入院ということで、介護の予定を立てられています。令和4年9月に示談で最終解決しました。
羽賀弁護士
ご依頼から解決まで約3年かかっているんですが、その理由として、①ご依頼から症状固定まで約1年かかったこと、②認知症が既存障害何級に該当するかの調査のために、後遺障害の等級認定に時間がかかったこと、③成年後見の申立を行ったこと、④示談交渉の途中で保険会社が窓口を弁護士に変更し、これまでの交渉の経緯はなしにして一からの交渉にされたことなどが理由です。
澤田弁護士
後見人は、誰がなったんですか?
羽賀弁護士
はい。相談に来られた娘さんに成年後見人になっていただき、成年後見人からの依頼ということで手続きをしました。後遺障害等級が出た時点で、後見人申立をしています。
厳密に考えると、後遺障害申請もご家族からできるかという問題はありますが、自賠責保険では、成年後見人をつけなくてもご家族からの申請でもいけることが多いと思います。
羽賀弁護士
話を戻しますが、Mさんはほとんど意思疎通ができない状態で、症状固定になりました。そして、後遺障害診断書にも記載がありますが、事故前から認知症があったため、既存障害の判断も必要ということで、後遺障害等級認定まで時間がかかりました。
上記の通り、意思疎通がほぼできない状態でしたので、後遺障害等級1級は間違いないと考えられました。主治医の先生には、身の回りの動作能力は全介助・意思疎通不可との診断書を書いてもらいました。
申請に当たって、日常生活状況報告書に、事故前の状況もご家族に記載いただくことになります。通常は、事故前は認知機能の問題はないという記載になるのですが、本件では、ご家族からも認知機能等の問題が一部あったとの記載がありました。ただ、これだけを見ると、認知症はそんなに重症ではなかったかなという風にも思えたんですが、実際はそうではなかったようです。
具体的には、物忘れ、老人保健施設への入所、徘徊等があったとのことです。この辺りはご家族ともいろいろお話したんですが、事実としてはそのとおりだが、そこまで心配しないようにしていたということもあり、書面上そこまで重くないと記載したということでした。
こういった事実関係を踏まえて、高次脳機能障害は1級1号、認知症は既存障害3級、それとは別に、脊柱運動障害も8級2号が認定されました。
羽賀弁護士
示談交渉の概略をご説明しますと、こちらから示談案を提示して交渉を進め、提示案に対して保険会社から回答があり、さらにこちらから提案をした時点で、交渉が難しいということで、保険会社に弁護士が付きました。
最終的には、弁護士から最終的に1,000万円(自賠責保険分を含めると2,320万円)という提案が出まして、これで示談が成立したということになります。
これだけ重篤な状況なので、もともと争点はいくつかあったんですが、途中で交渉窓口が弁護士に移り、それまでの保険会社の主張を引き継がずに、保険会社段階と弁護士段階で異なる点が争点になったのが特徴的でした。
羽賀弁護士
主な争点を挙げますと、1つ目は、症状固定前の付き添い看護費です。当方からは1日6,000円×入院385日で計231万円を請求し、保険会社からは争わないとの回答が得られました。しかし、弁護士が付くと一転して争点化し、3,000円×75日の計225,000円で認定するという回答になりました。相手方弁護士の主張は、入院中にご家族が付き添った日数はそんなに多くなく、丸1日付き添うというのもそんなにはないはずだというものでした。ご家族にこの話をすると、確かに付添の内容は相手方弁護士の主張に近い所があるとのことでしたので、225,000円で合意しています。
羽賀弁護士
保険会社は入院時の付添費は争わないパターンがかなりの程度あるのに対し、裁判例だと、1日当たりの単価や付添看護のあった日数などが争われるパターンも多いので、弁護士が付いて考え方が変わったのかなと思います。
羽賀弁護士
2つ目は、将来治療費です。示談金額が相当低くなった理由の1つに、将来治療費の算出方法があり、これについては保険会社も弁護士も反論してきました。こちらからは最初、将来治療費を、健康保険が将来負担する分も含めて算出して、4,800万円請求しました。赤本には、将来の介護費用について、保険が今後どのような制度になるか未確定の所もあるため、保険負担を考慮しない全額を認定するとの記述もありますので、それに基づいて請求をしました。
羽賀弁護士
保険会社からは、将来治療費は420万円で、本人負担分のみ認めます、という返答がありました。そこでもう一度、すでに支払い済みの分は本人負担分のみで、将来分は健康保険負担分も含めてもいいんじゃないか、ということで請求したんですが、やはりそれでは無理だということで、相手方に弁護士が付きました。
羽賀弁護士
保険会社としては、Mさんは終身入院の予定になっているが、入院費用は健康保険を使うし、高齢者なので1割負担であり、高額療養費も利用しておられるので、負担は非常に少ないので争います、ということでした。
弁護士からは、健康保健負担分は認めない、健康保険負担分を請求するのであれば裁判を検討してほしい、との回答がありました。
羽賀弁護士
そこで、将来入院費用の健康保険負担分請求できるかについて、裁判例を調べました。そうすると、生涯ずっと入院する予定の事案に関する裁判例はそんなに多くないんですが、最近7年ほどの間に7件ありました。その内、そもそも原告の請求が自己負担分のみとなっているのが5件で、後の2件は健康保険負担分も請求しており、それは認容されています。
その2件のうちの1件の、大阪地裁の理由付けですが、「今後何割負担になるかといったことは確実とは言えない」ということ以外に、「被害者が保険会社から賠償金を受け取ったときは、その限度で、健康保険の方は、保健給付を行う義務を免れるとされていることからすれば、社会保険などの負担分を含めた治療費全額を認める」という内容になっています。この理由付けだと、健康保険負担分も含めて保険会社から支払いを受けた場合、健康保険を使うことは出来なくなります。病院では、健康保険を使わない前提の費用を支払う必要が出てきますので、保険会社から賠償金をたくさん受け取っても、治療費が大きくなってどちらがいいのかという話になります。
被害者にも過失割合があると、賠償金を受け取るときに過失割合分減額された金額になりますし、中間利息分を減額した金額しか賠償されないことや、平均余命から算定されるライプニッツ係数の期間より長い期間の入院が必要になった場合の自己負担額が大きくなる可能性があることを踏まえると、健康保険負担分も保険会社に請求するのは、被害者にとってリスクが大きいということになります。
羽賀弁護士
本件では、Mさんにもある程度過失割合は出るだろうし、ご家族としても、Mさんが高齢なので裁判は考えていませんでした。そうすると、保険会社から受け取る金額は少なくなりますが、減った分は健康保険から支払いを受けられるので問題はないということで、最終的に自己負担部分のみに金額を修正して、交渉を進めました。交渉の結果、700万円ほどの将来治療費が認められました。
羽賀弁護士
それからもう1つ、そんなに大きな争点ではなかったんですが、後遺障害慰謝料があります。今回は1級の後遺障害と、3級の既存障害が認定されましたので、1級の2,800万円から3級の2,000万円を引いた800万円になります。なお、金額は赤本基準か緑本基準かで若干違います。一方で8級の脊柱運動障害も別に認定されていて、こちらの後遺障害慰謝料の方が少しだけ高い830万円なので、830万円で請求しました。
羽賀弁護士
これに対する保険会社の回答は、1級の2,800万円から赤本基準の3級の2,000万円を引いた800万円で、脊柱運動障害8級については考慮していませんでした。
一方、弁護士からの回答は、830万円で問題ないというものでした。裁判なら、保険会社の主張ではなく相手方弁護士の主張通りになるはずですので、相手方に弁護士がついて妥当な回答が得られたと言えます。
羽賀弁護士
もう1つの争点である、近親者慰謝料にも、意見の相違がありました。
まずこちらからは、裁判例の上限に近い金額として、後遺障害1級なので300万円×親族2人の計600万円を請求しました。
これに対して保険会社からは、2人分の600万円を認めますという回答を得まして、生涯入院予定で介護負担があまりないことを考えると、実は意外とこの部分はゆるいなと感じていました。ところが、相手方に弁護士がつくと、近親者慰謝料は100万円だけ認めますということになりました。1人当たり50万円です。今回のケースの場合、終身入院ということと、そこは看護体制が整っていて、近親者の介護の負担はほとんど無いことから、これだけしか認めないという主張でしたので、そこはやむなしと判断して、示談を進めました。
羽賀弁護士
最後は過失相殺の部分です。
こちらとしては、基本過失割合当方20%、夜間の事故だったので+5%、認知症もあるようなので身体障害者等修正がいけるんじゃないかなということで-10%、刑事記録に加害者の脇見運転が記載されていたので-10%、ということで、過失割合は5%くらいになればよいかなと考えて交渉を始めました。
羽賀弁護士
保険会社からの対案は、基本過失割合当方20%、夜間修正+5%、加害者の脇見運転-10%で、15%でした。高齢者、または、身体障害者としての修正はありませんでした。そこで、保険会社には、高齢者または身体障害者としての修正が必要ではないかとして交渉をしました。
相手方に弁護士がついた後は、高齢者の部分だけは認めるが、身体障害者とまでは言えないんじゃないか、ということで、高齢者修正-5%で、過失割合10%を主張してきました。
羽賀弁護士
こちらとしては5%を主張しますということで、身体障害者等修正の該当性について色々主張しました。
①刑事記録に、Mさんは歩行速度が非常に遅かったという記録があって、身体の状況が良くなかったんじゃないかということ、②認知症で3級の既存障害があること、③判例タイムズに杖を携えていて耳が聞こえない者は身体障害者に該当するとの記載があるところ、耳が聞こえない者は後遺障害4級に該当しますので、3級の既存障害があれば身体障害者と認定ができるんじゃないかということ、などです。最終的には、Mさんが身体障害者に該当することを前提に、過失割合を5%までは譲歩するということで解決しました。相手方弁護士としては、早期解決のためという部分もあったようなんですが、5%は認めますということで、全体で997万円程になりますので、最終1,000万円で解決しました。
羽賀弁護士
今回の事案は、保険会社の途中の提案額から、相手方に弁護士がついた後の交渉で下がってしまっています。保険会社から出てきた金額は、近親者慰謝料が大きかったのも原因ですけれども、1,140万円程だったのが、弁護士が入って一旦約850万円になり、最終1,000万円で示談成立しています。
依頼者である成年後見人の方の了解を取り、後見裁判所の方には、意見書を書いて、示談を進めたいということで了解を取りました。
羽賀弁護士
意見書の内容をざっと紹介しますと、判決における遅延損害金と弁護士費用相当額を考慮しないのであれば、金額としてはおおむね妥当であるということを書き、最後に、裁判と比較するとどうか、ということを記載しました。裁判になると、弁護士費用相当額が10%程度、それから、今回の事故日であれば年5%の遅延損害金が加算されます。それで計算していくと、1,450万円程になる可能性があるということになります。
羽賀弁護士
それなら裁判の方が有利なんじゃないかって話なんですけれど、幾つか理由を書いたんですが、弁護士費用相当額の加算は、今回は意味がありません。なぜなら、弁護士費用特約を利用されているので、加害者の保険会社から弁護士費用が支払われたら、その分弁護士費用特約から支払われる分が減るためです。なお、弁護士費用が弁護士費用特約の上限を超える事案であれば、加害者の保険会社から弁護士費用が支払われても、弁護士費用特約からの支払額がそのまま減ることはありませんので、弁護士費用分の加算の意味はあります。また、判決に至ったら上記のような加算ができるけれど、和解だったらそこまでいかない可能性があります。さらに、この部分が一番大きいと思いますが、保険会社側は示談交渉段階で様々な点で争ってきており、事故前・後のカルテの内容の精査とか、そんな話になってくるので、裁判すると多分2年はかかる事案だと思われました。2年もあると、状況が変化して1000万円を確保できるかもわからない可能性があり、現時点で確実に1,000万円をもらって、後見業務に使った方が良いのではないかとして裁判所に意見書を出しましたら、裁判所もOKということで、最終的に1,000万円で示談が成立しました。
羽賀弁護士
なお、1,000万円というのは、自賠責部分を除いた金額で、自賠責部分を含めると示談金額は約2,320万円です。高次脳機能障害1級の事案としては金額が低く感じられるかもしれませんが、依頼者の年齢、既存障害として3級が認定されたこと、健康保険を使って将来治療費を低く抑えられていることから考えると、今後の治療費を賄うのに十分な示談金額が得られた事案です。

「みお」のまとめ

交通事故で高次脳機能障害が残った場合、後遺障害等級が1級・2級であれば将来介護費の請求が認められることが多いと言えます。しかし、障害の内容や生活環境、年齢によって、将来介護の内容は様々ですので、どれくらいの金額が必要か、十分検討する必要があります。また、本件より後遺障害等級が低く、例えば3級・5級の高次脳機能障害の場合は、介護費用が認められるかどうか自体に問題が生じることがあります。問題となる点を見極め、どのような内容で解決すべきかについて、被害者の方やご家族の方だけで判断するのは難しいと思います。そのようなときは、高次脳機能障害の事案に精通した弁護士に手続きを任せることをお勧めします。

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