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弁護士による交通事故研究会

裁判例研究
Vol.53

交通事故で減収が生じていない場合の休業損害・逸失利益

本件の担当
羽賀弁護士

2022年04月26日

事例の概要

赤い本2022年版掲載の裁判官講演録等から、減収が生じていない被害者の休業損害や逸失利益の認定について検討しました。

議題内容

交通事故で減収が生じていない場合の休業損害・逸失利益

議題内容

・逸失利益の認定状況

・労働能力喪失率認定の特徴

・逸失利益認定の際の考慮要素

・後遺障害が重度の場合と軽度の場合の違い

・休業損害について

・解決事例紹介

参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、大畑弁護士、石田弁護士、西村弁護士
羽賀弁護士
今回は、「交通事故で減収が生じていない場合の休業損害・逸失利益」の裁判例について発表します。
赤い本2022年版下巻に、「減収が無い場合の休業損害・逸失利益」というタイトルの講演録が掲載されており、主にこれを基に検討しました。
羽賀弁護士
テーマは、「症状固定後に減収が無い場合に、逸失利益が認められる場合があるか?」というものと、「事故後に減収が無い場合に、休業損害が認められる場合があるか?」の2つです。このうち逸失利益の問題点は、過去の赤い本や交通事故相談ニュースにも掲載されていますので、それらも含めて話していきたいと思います。
羽賀弁護士
まず、赤い本2008年版下巻掲載の裁判官講演録に、平成10年から平成18年の裁判例52件を対象に調査した、逸失利益の認定状況がまとめられています。
減収が無いという前提で、逸失利益を否定した例が52件中2件、労働能力喪失率を下げて認定した例が38件、労働能力喪失率をそのまま認定している例が12件、となっています。
羽賀弁護士
また、労働能力喪失率認定の特徴として、症状固定から一定の期間、多くは定年までですが、通常の喪失率よりも低い割合で認定し、定年後は通常通りの喪失率で認定をするという裁判例が相当数あり、そのパターンは公務員の場合が多くなっています。その場合の基礎収入は、定年までは実収入で、定年後は賃金センサスを用いる裁判例が多くなります。
民間企業の従業員にも同じような裁判例がありますが、喪失率は変動させないパターンが多くなります。
羽賀弁護士
収入が減っていないけれど逸失利益を認定する場合には、色々な要素を考慮して認定することになりますが、以下のような点が考慮されます。具体的には、減収があるかどうかというのは当然として、昇進・昇給等における不利益、業務への支障、退職・転職の可能性、勤務先の規模・存続可能性等、本人の努力、勤務先の配慮等、生活上の支障等です。
以上が赤い本2008年版の裁判官講演録の内容です。全体としては喪失率を下げて認定することが多いですが、色々挙げられている要素のどれを考慮する場合が多いかについての調査結果は掲載されていません。
羽賀弁護士
次は、2014年10月1日、日弁連交通事故相談センター発行の、交通事故相談ニュース33号の内容です。平成22年から平成25年頃までの裁判例49件が調査対象となっており、重度の後遺障害の場合と軽度の後遺障害の場合に分けて検討されています。
羽賀弁護士
まず重度の後遺障害の場合ですが、後遺障害等級が1級や2級という重い事案でも、実際には収入がそれほど減っていない、かなりの収入があるという場合には、100%の喪失率は認定されていません。ただ、今後の昇級や昇格については不利益が出る可能性もあるため、喪失率を0%にしないものの、通常より低い喪失率を認定しているものが多くなります。
羽賀弁護士
次に、比較的軽度の後遺障害が残っている場合です。例えば10級以下の後遺障害等級の場合の対象は38件あり、その内22件は通常通りの喪失率を認定しています。
通常より低く認定されたのは残りの16件で、その内5件については、後遺障害の内容が、外貌醜状・歯牙障害・偽関節といったものであるのを理由に喪失率を低く認定したと思われますので、後遺障害が比較的軽度の場合は、通常の喪失率を認定するケースが結構あると言えそうです。ただ、後述の赤い本2022年版の記載内容からすると、通常の喪失率が認定されるのは、後遺障害等級14級の場合が中心なのかもしれません。
羽賀弁護士
12級や14級の事案、特に14級の後遺障害の場合は、実際には給与や業務成績にはそれほど影響がないことも多いと思います。そうなると、ほとんどの場合に減収がないとされて、後遺障害逸失利益を否定することになりかねません。しかし実際には、そのままの喪失率を認定する場合が多くなっています。
なお、14級で後遺障害逸失利益を否定したのは、公務員の事案ばかりだったとのことです。
羽賀弁護士
次は2021年10月1日発行の交通事故相談ニュース47号です。
こちらは、平成27年~令和2年頃までの裁判例77件を対象に、同じような形で調査されていて、逸失利益の認定状況について、喪失率が上がっているか下がっているかそのままか、特段の事情の部分についてどういったことを反映しているか、についての記載があります。
羽賀弁護士
まず認定状況ですが、喪失率をそのまま認定した事案が36件、下げて認定したのが40件、上げて認定したのが1件ですので、そのままと下げたものとが、ほぼ半数ずつになっています。
羽賀弁護士
労働能力喪失率を認定するに当たっての「特段の事情」の考慮要素は、「本人の努力があるか」、「勤務先の周囲の協力があるか」、「業務への支障が具体的にどの様なものか」、といったところが比較的多くなっています。実際の事案でもこういったところを主張すると思いますし、裁判官もこういったところを見ているのだと思います。
羽賀弁護士
考慮要素を個別に見ていきますと、「昇進・昇給の不利益」というのは実際の影響だけではなく、将来的にそういったおそれがあるものについても言及のある案件が比較的あります。「業務への支障」については、具体的な内容を主張立証した方がよいということになります。
羽賀弁護士
「退職・転職の可能性」については、これも、おそれがあるということだけでも、特段の事情で認定しているものがあります。「勤務先の規模・存続可能性等」については、公務員については、実際上勤務先の規模や存続可能性があるかとか、そういった要素を考慮された結果、労働能力喪失率を低く算定されるケースがあるものと思われます。
羽賀弁護士
「本人の努力」というのが非常に多くて47件、調査した判例の半分以上で言及されています。あと、「勤務先の配慮」というのが30件で、半分弱位あります。
さらに、「生活上の支障」というのも、件数は書いていなかったんですが、考慮している案件はあるということです。ただ、それだけに言及して逸失利益を認定したのは1件のみと非常に少なく、「業務上の支障」と絡めて言及するパターンが多いと思います。
羽賀弁護士
ここからが本題で、赤い本2022年版下巻の講演録の内容です。平成26年から令和2年までの裁判例71件を対象にしていますので、おそらく交通事故相談ニュース47号の検討対象の裁判例と重なる部分が多いと思われます。
まず、逸失利益について判断している案件は、71件の内59件あります。
減収が無い案件で、 逸失利益がそのまま認定されているのが22件、下げているのが32件、否定は5件、となっています。
羽賀弁護士
後遺障害等級別にみていくと特徴がありますので、紹介します。
まず、後遺障害等級14級の案件は15件あり、逸失利益を否定したものは2件、逸失利益は否定しないけれども、労働能力喪失率を下げて3%の認定とするのが1件、喪失率をそのまま認定するのが12件です。その12件を、更に喪失期間まで見ていくと、喪失期間3年が2件、5年が7件。5年を超えているのが3件です。ただし、5年超を認定した3件は、後遺障害の内容からそうなったのではないか思います。具体的には、骨の変形があるという理由で14級になった案件とか、骨挫傷後の疼痛の案件などがあるので、一般的なむち打ち症とはちょっと違うパターンで5年を超えているものがある、ということになります。
なお、減収なしで喪失率5%、喪失期間5年という事案がそれなりにありますが、判決まで行った事案ですので、事故から判決まで期間が経過している事案が多く、その時点で症状がまだ残っていれば喪失期間5年が認められやすい傾向はあると思います。そのため、示談の場合に判決の傾向そのままで考えることは出来ないと思います。
羽賀弁護士
それから次は、後遺障害等級12級の場合です。こちらも15件ありますが、14級の場合とは傾向が異なり、逸失利益が否定されている案件が3件、労働能力喪失率が下げて認定されているのが7件、そのまま認定が5件なので、12級になって収入下がっていないとなると、労働能力喪失率をそのまま認定するというのは、そんなに多くないと言えます。
一方、否定された3件の内1件は、後遺障害の内容が醜状障害ですので、減収が無いことを理由に逸失利益が否定されたのは2件といえますから、否定される事案もそれほど多くないと思われます。
羽賀弁護士
それから、14級と12級以外の後遺障害の案件が29件あります。これらは、11級や10級、あるいはそれ以上の等級の案件になるかと思いますが、傾向が変わって、逸失利益が否定されている案件は0件です。恐らく後遺障害が重いものなので、逸失利益否定にはなりくいのだと思います。そのまま認定されているのは29件中5件、労働能力喪失率を下げているのは24件ですから、後遺障害が重いと、逸失利益を否定はしないけれども、喪失率は下げられる事案が多いと思います。
羽賀弁護士
次に特段の事情について、どういったものが言及されているかですが、交通事故相談ニュースと同じ様な内容で、業務への支障があるかどうか、本人の努力、勤務先の配慮というのが多く、後は勤務先の規模とか、事案によって色々認定されています。
羽賀弁護士
次が、減収が無い場合の休業損害の認定です。これは、これまでご紹介した3つの参考文献には記載が無く、2022年版で初めて出てきた内容です。
まず、怪我による不自由や苦痛に耐えながら休まずに仕事をしたり、時間を延長して仕事をするといった、「本人の特段の努力があって、収入は下がっていない」という場合ですが、それがあったとしても、休業損害を認めるのは否定的な傾向が強い、というのが裁判官の見解です。怪我による不自由や苦痛は、慰謝料の中で考慮されることになる、というのがその理由です。
羽賀弁護士
次に、「自営業者で、親族が一緒にやっていて減収を回避している場合」です。第三者に外注すれば外注費用が発生するが、親族間でやっているのでお金が全く出ておらず、結果として収入が全く下がっていないパターンですが、そういった場合は、休業損害が認められる余地があります。但し、被害者が休業しているのに減収は生じていない、というのであれば、被害者の方が事故前にどれだけ事業に寄与していたのか、そのパーセンテージや、減収が生じていない理由を具体的に主張立証することも必要だ、という指摘があります。休業損害を立証しようとすると、基礎収入が低くなってしまう場合があることになりますので、このような主張が全体として有益かどうかも検討が必要かもしれません。
羽賀弁護士
参考文献の紹介は以上ですが、次に今回の争点に関連する解決事例を幾つか紹介します。
まず、減収が無い場合の逸失利益について、最近の私の解決事例2件を簡単に紹介します。
なお、示談交渉で、事故後の収入の変化というのは、あまり聞かれていない印象はありますし、訴訟でも意外と聞かれない印象があります。
羽賀弁護士
まず、比較的後遺障害等級が高くて、収入は下がっていないものの、逸失利益は争われなかった、収入の変化を聞かれなかった、という事案が1件あります。 内容は、高次脳機能障害7級と頭部醜状12級で、併合6級という比較的等級の高い事案です。被害者は工事現場で一人親方の方、実質は従業員と同じです。
事故後1年9ヵ月は休業され、症状固定の頃に仕事に復帰されました。お話しをうかがうと、収入は殆ど変わっていないが、高次脳機能障害が残ったので、あまり頭を使う仕事はしないようになったと。図面作成は、職場の配慮もあってやらずに、機械を動かすことはできるので、そっちの方の仕事を中心にやるようになった、ということを事前に聞き取りして、保険会社から色々聞かれた場合に備えようかなと思ったんですが、保険会社との交渉では何も聞かれず、労働能力喪失率について、こちらの主張が認められました。
羽賀弁護士
2件目は、労働能力喪失率が争われた事案です。
具体的な事案ですが、頚椎捻挫で14級が認定されました。被害者は、2,700人規模の比較的大きな会社の50歳代の課長職の方で、年俸制です。今回の事故による収入への影響はほぼ無いとおっしゃっていました。
基礎収入が約1200万円あり、逸失利益が大きくなるため、保険会社も争ってきたのだと思います。
実際の仕事への影響ですが、症状固定までは、通院の為に有給を使って休業したことはありますが、それ以外は特に休業しておらず、症状固定後は通院されていませんでした。収入の減少については、源泉徴収票上は2~3%程度は出ているが、毎年の実績から変動がありうるので、事故の影響ではないと思うと言われていました。
羽賀弁護士
示談交渉中の保険会社の主張ですが、
①逸失利益が大きくなるので、事故後の収入の推移を見せてほしい、②会社の規模が大きく、課長職で、年俸制で、収入が殆ど変わっていないので、喪失率を争いたい、喪失期間は2年位でどうか、③喪失期間は5年が一応の上限だが、14級としては高い示談額になってしまうので、そこまでは応じられない。というものです。
これに対して交渉した結果、喪失率は5%にしつつ、喪失期間は3年で示談解決しました。
それでも逸失利益は約178万円で、示談総額が475万円なので、通常より高い金額での和解になっています。
羽賀弁護士
次に、減収がほとんどない方について休業損害が認定された事案を紹介します。
事案内容ですが、腱板損傷で肩の可動域制限12級6号が認定された事案です。仕事は、学習塾を経営する個人事業主です。
先程ご紹介した、赤い本2022年版の、「自営業者で親族の援助等により収入減少を回避している場合」に当てはまる事案になります。
ご本人と妻の2人で運営されていた塾で、売り上げの推移を見ると、事故の前年が約2,020万円、事故の年が約2,010万円、その翌年が約2,060万円でほぼ変わらず、症状固定の年は約1,810万円で、少し下がっています。
経費控除した後の所得では、事故前が約740万円、事故の年は約770万円、事故の翌年は約750万円でほぼ変わらず、症状固定の年は約660万円で少し下がっています。
羽賀弁護士
減収がほぼ生じていない事情ですが、幾つかある塾のクラスについて、本人が担当していたクラスを一部妻に変更したり、後遺障害で車の運転はやりづらいので、子どもに車を運転してもらうなどして、事業を維持したというものです。結果、判決では、休業損害は認めるが、所得の内、原告の寄与に掛かる収入は85%と認定されました。その上で、営業を中断せず、営業収入がほとんど変化しなかったのは、原告の妻や子の寄与が貢献している所があったということで、通院期間の前半は約28%、後半は約14%休業したものとして、休業損害が約215万円認定されました。
吉山弁護士
赤い本2008年版の、労働能力喪失率認定の特徴のところで、公務員と民間を比較した場合、民間は定年前と後で喪失率を変動させない事例の方が多い、というのはどういう理由なんですか?
羽賀弁護士
公務員だから、喪失率を下げているパターンが結構あるんじゃないかということですね。民間の場合だと、大企業は別にして、小さな企業だったら、通常通りの喪失率が比較的認定されやすい、多分そういう趣旨と思います。
公務員の場合、退職しなければ恐らく収入が変動しませんが、今後どこまで昇進できるかといった話はあるため、その分だけ認定する。おそらくそんなことなのかなと思います。
田村弁護士
退職転職の可能性っていうのが、交通事故相談ニュース47号の調査の「特段の事情」の中にあったと思うんですが、それは、辞めざるを得なくなった場合を指すんでしょうか。
羽賀弁護士
辞めざるを得なかったっていうパターンもありますが、可能性というパターンもあります。お配りした資料の、交通事故相談ニュースの記述に、「再就職ができなくなる可能性を認めて逸失利益を認めた事案も3件ある」とあるので、実際どうなるか分からないけれど、恐らく大変だろうということで、特段の事情として挙げられたのだと思います。
田村弁護士
公務員として働いてる方でも、違う仕事をしてみたいとか思っていて、転職したかったけど、事故によってできなくなったということもあると思うんですが、そういうことは、ここに含まれるということですね。
羽賀弁護士
そうですね。その可能性が限定されるということから、逸失利益が認定されるケースもあると思われます。

「みお」のまとめ

交通事故で後遺障害等級が認められた場合の示談交渉の際は、後遺障害逸失利益や休業損害を算出する必要があります。保険会社は、被害者の方に弁護士がついていない場合、特に低く算出してくることが多いため、これらの算出や、保険会社との交渉は、弁護士に任せることをお勧めします。後遺障害が認定されていれば、弁護士費用以上に増額するケースが多いので、等級が認定され、保険会社から示談金額の提案があったという方は、みお綜合法律事務所にご相談いただければと思います。

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