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弁護士による交通事故研究会

裁判例研究
Vol.51

中高年給与所得者の逸失利益基礎収入の認定

本件の担当
羽賀弁護士

2022年01月20日

事例の概要

日弁連の交通事故相談ニュースに掲載された内容を基に、一般的に収入が高いと思われる中高年サラリーマンが交通事故に遭った場合、逸失利益がどの程度認められるのかについて、検証しました。

議題内容

中高年給与所得者が、交通事故により死亡または後遺障害認定を受けた場合の逸失利益の基礎収入の算定について

議題内容

・定年前(例えば50才代)に事故に遭った場合、定年後の基礎収入はどの程度認められるのか

参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士 、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、大畑弁護士、石田弁護士、西村弁護士
羽賀弁護士
今回は、「中高年給与所得者の逸失利益の認定」について検討します。
中高年の給与所得者が交通事故に遭われて、後遺障害が残ったり死亡した場合、逸失利益の基礎収入をどのように算定するかの問題です。
日弁連交通事故相談センター2019年発行の『交通事故相談ニュース43号』に、50~60才代の方が交通事故に遭われた場合、基礎収入が高いことが多いので、例えば定年後の基礎収入を下げることができるかどうかということが問題点として挙げられています。
羽賀弁護士
『交通事故相談ニュース43号』で検討対象になった裁判例は下記の通りです。判決日が2003年~2018年頃まで、被害者は給与所得者で、事故時または症状固定時に50~65才の方で、後遺障害等級が14級の事例は除かれています。14級の事例を除外するのは、14級だと労働能力喪失期間が5年以下に制限されることが多く、基礎収入の変更が考えにくいケースが多いためと思われます。
羽賀弁護士
裁判例における認定の概要ですが、まず、①死亡案件と後遺障害案件に分類し、②それぞれを定年制度の認定が有るか無いかで分けて、③基礎収入の変更があるかどうか検討しています。結論ですが、定年制度の認定がされたかで基礎収入の認定内容が大きく異なります。
羽賀弁護士
定年制度が認定されたのは、死亡案件で60件中19件、後遺障害案件では134件中50件です。
死亡案件で定年制度が認定された19件のうち13件は基礎収入を下げているのに対して、6件は変更無しです。後遺障害案件で定年制度が認定された50件については、33件が変更有り、17件は変更なしです。すなわち、定年制度の認定が有る場合は、全体の2/3程が基礎収入を下げています。
一方、定年制度認定無しの方は、死亡案件の41件中、5件が基礎収入の変更あり、36件は変更されていません。後遺障害案件84件でも同じような傾向が見られ、3件が基礎収入の変更あり、81件は変更されていません。
羽賀弁護士
以上のことから、裁判例においては、定年制度が認定されているかどうかで結論が変わりやすいと言えます。
その上で裁判例での減額幅の詳細を見ると、死亡案件のうち定年制度があって基礎収入が変更された13件のうち、事故時の収入の7割や8割に減額したものは2件です。
比較的多いのが賃金センサスの平均賃金を使うパターンで、11件あります。その中で性別、年齢別の学歴計が4件。それに対して大卒の方の場合だと学歴別で多少高めの基礎収入で認定するというのが7件ありました。60才で一度下げて、65才で再度下げたという案件もあります。
羽賀弁護士
それから、死亡案件のうち、定年制度は認定しているが基礎収入を変更していない事例6件について、退職金の逸失利益は認定されていないというコメントがありました。ただ、この6件の内の何件が退職金逸失利益を請求しているかはわかりません。
羽賀弁護士
次に、後遺障害事案で、定年制度の認定があり基礎収入が変更されたケースで、どの程度減額されたかですが、これは死亡案件の場合と大体同じです。色々なパターンがありますが、現実収入に対して一定の割合で減額するというパターンと、一番多いのは賃金センサスの平均賃金とするもので、その他は、原告の主張通りとか、再雇用制度での金額を出して認定するなど色々です。
羽賀弁護士
あとは、後遺障害事案で、定年制度の認定があったが基礎収入は変更していないというケース。これについては、退職金逸失利益は認定されていないというコメントはありますが、請求しているのが何件あるかは不明です。
羽賀弁護士
ここで、退職金逸失利益を請求するという事案がどれだけあるのか、疑問を持ちました。退職金逸失利益を請求する場合の算定式は、<①実際に定年まで働いた際に支給されるであろう退職金×②法定利息を控除した現価-③亡くなられたり後遺障害で退職された時点で支給された退職金>になります。ただ、実際のところ、①×②の金額が、③の実際に支給された退職金より小さくなってしまうことが多く、実際、私も請求したことはありません。
羽賀弁護士
さらに、それ以外の問題点として、下記の点があげられます。
①退職しないケース
②退職したとしても退職金制度がないケース
③退職したとしても、重度後遺障害案件・死亡案件でなければ、因果関係を認めにくい
④定年まで勤務を継続していた蓋然性を認定できなければならない
⑤将来において現在の支払い基準通りの退職金が支給されるか蓋然性があるか
⑥将来の退職金見込額を算定することができるか
大企業であれば配置転換等で退職に至らないケースも多いでしょうし、中小企業では②④⑤⑥の部分が問題になるケースも多いと思います。この①~⑥の問題をクリアしたうえで、さらに、算定上も退職金逸失利益を請求できる事例は非常に限られると思います。
羽賀弁護士
次に、定年制度が認定されていない事案についての文献中のコメントを紹介します。
定年制度があると認定されていない事案は125件あり、このうち基礎収入を変更したのは8件だけなので、定年が過ぎたというだけで減額している事案はほとんど無いと言えます。一般論として、定年後は収入は下がると思いますが、それでも変更していないのは、事故後に昇級する場合も有り得るとか、退職金逸失利益があまり認められていないことを踏まえているのではないか、とされています。
羽賀弁護士
2013年の、『リーガルプログレッシブ』という文献の中の裁判官の見解も紹介されていました。内容は、「一般的には基礎収入は60才過ぎても同一ということも多いが、定年までの収入が相当高額で、定年後それだけの収入を維持することが難しいとみられる場合には、定年後について、60才以降の平均賃金と現実収入の一定割合を基礎収入として採用することがあるのではないか」というものです。
他の文献にも「67才まで実収入を基礎収入とすることが多いが、実際の収入が平均賃金より相当高額の場合には、年齢別平均賃金や実収入の7~8割を基礎収入とすることが多い」という裁判官の見解が掲載されています。
羽賀弁護士
これは私の個人的な見解ですが、定年制が認定されたのが35%程度である点について、実態はほとんどの場合定年制がありますので、必ずしも実態を反映していないように思います。人事院の調査では99%以上が定年制度を設けているという結果が出ていますし、定年の年齢も60〜64才が約87%なので、裁判例とは大きくかけ離れているように思います。なぜそうなったのか、可能性として考えられるのは、基礎収入がそんなに高くない方が原告になっているケースが多く含まれているのではないか。また、時々交通事故であるのは、他に大きな争点、例えば加害者に責任がないとか、被害者の過失が高い等の主張がある場合、加害者側は基礎収入の部分について争ってこないことがありますので、そういうパターンもあったりするのかと思います。ただ、定年制が認定されている割合が実態とは異なる理由ははっきりとはわかりません。
羽賀弁護士
また、裁判例では思ったほど定年後の基礎収入の変更はされていませんでしたが、保険会社側がこの主張を頻繁にするようになると、傾向が変わる可能性は高いように思います。
羽賀弁護士
示談案件との比較ですが、傾向としては似ています。ただ、示談の方が定年後の基礎収入の変更を主張されるケースが多いようにも思います。これは、示談案件は、基本的に責任を争うとか、過失割合の主張が大きく異なるなどの事案はなく、逸失利益の基礎収入が争点としてクローズアップされやすいことが影響していると思います。
澤田弁護士
今は、60才を過ぎても、65才とか70才とかまで働く方が多いですが、就労可能期間の上限は基本的に67才のままなのでしょうか?
羽賀弁護士
交通事故では67才までか、平均余命の半分のいずれか長い方までまでという扱いになっています。現在も特に変更はありません。
澤田弁護士
今回は基礎収入を現実収入より引き下げられるかという議論でしたが、反対に現実収入より引き上げられるかという議論はありますか?
羽賀弁護士
一般的に、30才未満の方であれば、今後の昇給等を考慮して、平均賃金を参考にして基礎収入を定める場合があります。
吉山弁護士
示談交渉で、相手の保険会社が、定年後の基礎収入を下げるべきだと主張してくることは多いですか?
羽賀弁護士
よく言われます。労働能力喪失率が低い事案では主張されないこともありますが、労働能力喪失率が大きい事案ではより主張されやすいように感じます。
澤田弁護士
退職金に関してですが、退職金逸失利益を請求できる事案はどれくらいありますか。
羽賀弁護士
請求できる事案はあまりないと思います。理由は、先ほど述べた通りで、支給されるであろう退職金から法定利息が控除され、退職時に支給された退職金の方が大きくなることが多い点が大きいです。ただ、法定利息が3%になり、控除される金額が小さくなりますので、上記①~⑥の点をクリアできるのであれば、請求可能な事案も多少増えるかもしれません。

「みお」のまとめ

不幸にも交通事故で後遺障害が残る(あるいは死亡に至る)事故に遭われた方に対しては、逸失利益が支払われます。逸失利益は、将来得られたであろう収入金額を予測して計算するという性格のものだけに、算定方法が複雑であると同時に、金額の妥当性についての判断が被害者側と加害者側で齟齬が生じやすい傾向があります。
社会の高齢化が進む現実を踏まえ、交通事故の被害に遭われた中高年の方に、こういった視点からのサポートにも取り組んでいます。

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