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弁護士による交通事故研究会

裁判例研究
Vol.42

脊柱変形障害の労働能力喪失率

本件の担当
羽賀弁護士

2021年02月26日

事例の概要

2021年版『赤い本』掲載の裁判官の講演、交通事故相談ニュースの事例、当事務所で扱った案件をもとに、『脊柱変形障害の労働能力喪失率』の認定傾向について考察しました。

議題内容

脊柱変形障害の労働能力喪失率の裁判例研究

議題内容

2021年版赤い本掲載の、『脊柱変形障害の労働能力喪失率』の裁判例についての裁判官講演。

・時期別に見た労働能力喪失率認定の傾向。

・「みお」の『脊柱変形障害8級・11級』の解決事例。

参加メンバー
羽賀弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、大畑弁護士、石田弁護士、西村弁護士
羽賀弁護士
今回は、2021年版の赤い本に掲載された、『脊柱変形障害の労働能力喪失率』の認定傾向をテーマにした裁判官の講演と、交通事故相談ニュース、当事務所の解決事例を基に、『脊柱変形障害の労働能力喪失率』について、検討していきたいと思います。
羽賀弁護士
前提として、脊柱変形障害の場合、痛みが残ったことについての支障は分かりやすい傾向があるものの、痛みの部分ではなく脊柱が変形してしまったこと自体による支障は分かりにくいことがよくあり、標準通りの労働能力喪失率を認定できるかどうかという問題意識があります。
羽賀弁護士
これについて、まず赤い本の講演からご紹介します。
脊柱変形障害は6級、8級、11級とありますので、裁判官は、等級ごとに労働能力喪失率をそのまま認定しているか、下げて認定しているかを検討されています。

羽賀弁護士
最初に『脊柱変形障害6級』の労働能力喪失率ですが、検討対象は3件だけです。標準通りの67%認定が1件。あとの2件は喪失率を下げて認定し、6級と他の障害を併合して5級になり、標準79%で認定されるところが、59%になったものと、50%になったものです。
1件目の、喪失率67%で認定された方は、家事従事者の女性で、80歳ぐらいの高齢の方です。
2件目は、右膝痛の12級13号と『脊柱変形障害6級』の併合5級で、59%という認定になりました。職業はバス運転手ですが、認定のマイナス要素として、可動域制限が無く、既存の障害として脊柱変形11級7号があり、さらに、症状固定後にフルタイムで働けているという事情がありました。ただ、症状固定後に、左半身のしびれを理由に、5ヶ月間に4回入院されているので、これを労働能力喪失率認定上プラス要素として総合的に判断して、5級・59%という認定になりました。
3件目は一人会社の代表者です。月50万円で業務委託契約をされていましたが、解約されました。その後、別会社と契約され、月30万円、その後25万円と、徐々に減収しているという状況です。
被害者には、脊柱変形と胸骨変形で併合5級の後遺障害が残り、愁訴は痛みと痺れがあり、事故後も仕事をしていることも踏まえて、労働能力喪失率は50%という認定になっています。
ただ、3件しか事例が無いので、これだけでは傾向は見えてこないですね。
羽賀弁護士
次に、『脊柱変形8級』の労働能力喪失率の裁判例を、12件あげておられます。
内訳は、標準通りの認定が5件、喪失率を下げるか逓減させた事案が6件、労働能力喪失を否定した事案が1件です。
羽賀弁護士
詳細ですが、標準通りに認定された5件の内、8級単独の認定は2件。他の後遺障害と併合して7級になっているのが3件です。
8級単独の認定で、標準通りの45%で認定された2件は、被害者が16歳と20歳で、若年者でどのような仕事につくかまだ決まっていないというのが影響しているのかもしれません。
羽賀弁護士
喪失率を下げた事案については、35%から14%まで認定はばらばらですが、8級の場合、喪失期間は全件が就労可能期間まで認定されているということです。ただ私が調べた範囲では、労働能力喪失期間が制限された事案もあります。
裁判官のまとめは、『脊柱変形障害8級』については、等級表上の45%の喪失率をそのまま認定するか、40~20%台の喪失を認定している判例が多く、20%を下回る例は少ない、ということです。
山本弁護士
8級の事例の場合、痛み等の神経症状のみの評価であれば14%の認定になってもおかしくないところ、それ以上の喪失率を認定しているケースが多いことからすると、脊柱の支持機能に対する支障も相当程度評価されているということですね。
羽賀弁護士
そういうことだと思います。
羽賀弁護士
単純に、この12件の事案で認定された労働能力喪失率と、私の方でピックアップできた5件の労働能力喪失率の平均値を出すと、25%~30%程度になります。
標準が45%のところを25%~30%程度ということですが、集約できているのが判決にまで至った事案であることもあり、こちらが思っているところよりやや高い認定になっている印象もあります。また、事案によって、全く労働能力喪失を認めないものから45%の認定まであるということで、『脊柱変形障害8級』の労働能力喪失率の認定は非常にばらつきが多い、だから見通しが立てづらいということになってしまうのかなと思います。
羽賀弁護士
私の8級の解決事案をしらべてみると、3件ありました。
1件目は、第12胸椎と第4腰椎を圧迫骨折された主婦の方。この件については喪失率20%認定の裁判上和解です。喪失期間は制限無しです。
2件目は、第12胸椎圧迫骨折の、一人会社の代表の方。こちらは14%で示談解決をしています。14%という数字は低いですが、この方は収入の資料が無くて、源泉徴収票の役員報酬が60万円しかなく、会社の決算書を出せますか?とうかがうと、多分赤字決算なので出せない、といった状況でした。そのような中、保険会社から、基礎収入は年齢別平均を取りますという提案がありましたので、喪失率を争わず、そのまま相手方の提示に乗って解決したという例です。
羽賀弁護士
それから3件目ですが、第1腰椎圧迫骨折の会社員の方。裁判上の和解で27%の認定を受けました。喪失期間の制限はありません。
これは最近解決したばかりの案件で、田村先生と一緒に担当していましたので、田村先生から簡単に紹介をお願いします。
田村弁護士
はい。ご依頼者の方はシステムエンジニアをされている方ですが、脊柱変形障害8級ではあるものの、実際の影響はそこまで大きくないという印象の方です。45%の労働能力喪失率をそのまま認定していいかという問題意識がそのままあてはまる事案と言えます。
田村弁護士
お仕事上の不具合をうかがうと、パソコンに向かって長時間座るのが辛いとか、集中して作業ができずすぐに休憩しないといけないので、非常に効率が落ちているとか、そういったことでした。このように後遺障害の影響はあるものの、45%も喪失しているかというと疑問の余地がありました。また、収入に関しては、現時点では影響が出ていませんでした。そのような中で、結局、労働能力喪失率27%で和解が成立しました。
小川弁護士
相手方保険会社は、労働能力喪失率についてどのような主張をしていましたか?
田村弁護士
労働能力喪失率は14%を超えることは無いと。最近の判決で、労働能力の喪失自体を認めなかった事案があるということも主張してきて、この方はせいぜい14%の5年ですっていう主張だったんですが、裁判官から27%の提示があると、揉めることも無く、和解で解決ができたので、いい落としどころだったのかなと思います。ご本人への尋問まで行かなくてよかったです。
田村弁護士
この事案では、後遺障害等級が8級ではなく、11級であるとの主張もされました。レントゲン写真を見ると、変形の度合いがそこまでひどくないというのが理由です。これについては、症状固定時のレントゲン写真、症状固定後のレントゲン写真から前方椎体高と後方椎体高を計測し、やはり半分以上潰れていることを主張立証したところ、相手方は11級が相当との主張を取り下げ、8級前提に手続きを進めることができました。
羽賀弁護士
8級の案件は以上ですので、引き続き、3番目の『脊柱変形障害11級』の労働能力喪失率の認定部分を見ていきたいと思います。
11級については、従来から赤い本など色々な本で検討されていて、今回改めて、2021年版にも詳しい検討が掲載されたということになります。今回は、古い文献から紹介していきたいと思います。
羽賀弁護士
2004年版の赤い本での検討対象は22件。時期は1983年からの20年間と、長期に渡ります。
この時期の『脊柱変形障害11級』の喪失率ですが、喪失率を上げたものと標準通りに認定したものが6件。喪失率を下げた、逓減させた、否定した、というのが計16件ですので、当時は、喪失率を下げる方向が強かったということになります。
羽賀弁護士
ただ、この2004年版での裁判官のまとめで、「原則として喪失率表の定める喪失率を認めるのが相当である」、ただし、「事案によっては、変形が軽微であるとか、若い方であれば疼痛は徐々に治ってゆくという可能性もあるので喪失率を逓減するというやり方もあるのではないか」というまとめ方をされています。
羽賀弁護士
2004年版にこういう掲載があったためか、2004年から2010年頃までの裁判例を掲載した、交通事故相談ニュースNO.26を見ると、認定の内容がだいぶ変わっています。
標準通りの認定が13件に対して、喪失率を下げるか逓減か否定したものは5件という状況で、認定の傾向が逆転したということになり、相談ニュースNO.26は、赤い本の内容の影響が出ているのではないか、喪失率表通りの喪失率を認める傾向がある、と分析しています。ただし、喪失率20%をそのまま認定するというのにはちょっと躊躇を示す裁判例もあって、神経症状等に言及した上で、喪失率表通りの認定をするという方法も見られる、というのが2010年頃の話です。
羽賀弁護士
そこから10年経過してどうなったかということが、今回の赤い本の検討事項です。
赤い本2021年版の11級の検討対象は、2010年~2019年の計41件です。そのうち、標準通り認定したものが16件。喪失率を下げた、あるいは逓減、否定というのは合わせて25件ということなので、また傾向が逆になってしまって、やや下げる傾向が強いようです。
羽賀弁護士
裁判官のまとめとしては、「脊柱変形11級の事案では、等級表の喪失率20%というのは相当程度尊重されているが、6級や8級の場合と違って、喪失率の制限や逓減、喪失期間の制限は一定程度認められる場合がある」、さらに、「神経症状があればそれに因る支障は生じるはずだけれども、神経症状が無いとしても、脊柱の支持機能が低下することで支障が生じる場合があるので、一律に労働能力喪失を否定するのは相当ではなく、仕事や日常生活への具体的な影響を慎重に考慮していくことが重要と思われる」と述べられています。
さらに、「脊柱変形は、脊椎の骨折による器質的障害なので、喪失率の逓減や、喪失期間の制限を認められる事案というのはあるけれども、裁判所としては慎重に判断しているのではないか」とまとめられています。
羽賀弁護士
労働能力喪失期間を制限した事案は、喪失を認めた39件中8件です。喪失率を逓減していって認定したという事案は、39件中7件で、30歳未満4件、30歳代2件、40歳代1件と、ほぼ若い方に集中している、ということで、ここの部分は、赤い本2004年版の影響が出ているのではないかと思います。
羽賀弁護士
労働能力喪失率を、逓減ではなく単純に制限した事案は16件です。喪失率は9%から17%までバラバラですが、14%が9件と突出していますので、制限する場合はそこに集中する傾向があるのかなと思います。
羽賀弁護士
ここで、時期別に見た労働能力喪失率認定の傾向を私なりにまとめてみますと、2004年以前は標準よりも下げる事案が多く、標準通りに認定する事案は25%位しか無いという状態でした。しかし、2004年版の赤い本の影響を受けて、2004年~2010年頃は、70%程度は標準通り認定という傾向があったものの、最新版で見ると、ここ10年はまた、標準通りの認定は40%弱に下がっています。
現在の傾向は、脊柱変形障害11級は、逸失利益について、労働能力喪失率・労働能力喪失期間など何らかの部分で制限されることが多いのではないかと思います。
小川弁護士
なぜでしょうね?
羽賀弁護士
私自身、ご依頼者とお会いすると、脊柱変形11級の方は、11級にしては症状が軽い印象の方が多いようにと思います。労働能力喪失を20%で認定するのはちょっと難しいかなと感じることが多々あるので、実態の部分がある程度反映されているのではないかと思います。
小川弁護士
赤い本2004年版の影響が弱くなってきているのかもしれませんね。
羽賀弁護士
最後に、私のこれまでの示談や紛争処理センターでの脊柱変形の解決事例で、労働能力喪失率がどんなものであったか、というのを見てみます。
詳細については資料でお配りしていますが、19の事案のうち、標準通りの認定で解決したものが9件で、半分はいきません。それ以外のうち、逓減させたものが1件、喪失率を限定したものが9件です。10%と18%が各1件ありますが、あとは全て14%です。やはり脊柱変形自体は労働能力に影響しないのではないかという主張があって、ただし疼痛はあるので14%でといった発想になっているのではないかと考えます。
喪失率を制限したり逓減したり、喪失期間を制限したりと、何らかの制限が入っている案件が多く、なかなか基準通りにはいかないことが多いと言えます。
解決時期は全て2010年以降のものですので、2020年版の赤い本で紹介されている事案と近いと思います。
私の方からは以上です。
吉山弁護士
ありがとうございます。
羽賀先生の解決事例で、喪失率が標準通りの認定になったものと、下がったものと、どこが判断の分かれ目になったのか、感じられるところはありますか?
羽賀弁護士
14%の方と20%の方との違いですね。あるとしたら、破裂骨折の場合は、比較的20%で認定されやすい感じです。圧迫骨折より程度が重い骨折ですので、20%という認定をしやすいのかもしれません。
吉山弁護士
なるほど。
羽賀弁護士
ただ、はっきりしたことは分からないですね。圧迫骨折の中でも、どういう事案だったら認定が高いかというのは、明確には言えませんね。
吉山弁護士
資料で配っていただいた羽賀先生の解決事例では、労働能力喪失率は、14%か20%という事案が多いですね。
羽賀弁護士
はい、ほとんど14%か20%ですね。
倉田弁護士
先程紹介のあった、赤い本2021年版の裁判官講演のまとめに、「脊柱変形に因る神経症状等があれば、それによる生活上・就労上の支障が生じることが認められることになる。しかし神経症状等が無い場合でも、等級相当の脊柱の支持機能の影響によって、生活上・就労上支障が生じる場合があるため、一概に労働能力喪失を否定するのは相当ではない」といった部分がありましたが、もし神経症状が無い場合には、恐らく、こういった脊柱の支持機能の低下によってこういう支障が出てますよ、という様な内容の陳述書を提出することになろうかと思うんですが、この、神経症状ではなくかつ脊柱の支持機能の影響により日常生活に悪影響が出てますよ、というのはどういう症状を言うのでしょうか?
羽賀弁護士
脊柱なので、例えば重い物を持ちづらいとか、転倒しやすい等ですが、11級だと、目に見えて影響が無く、多分本人も自覚しないレベルという場合が多いのではないかというのが実感です。
だから、支持機能の低下について具体的に上げようとしても難しいことが多いと思います。6級とかだったらおそらく背中が大きく曲がってしまうので、そういう影響が明確に出ると思うんですが、11級だと見た目にも分からないレベルで、どれ位影響があるか、ご本人にうかがっても、別に影響はないですってお答えになる方がほとんどかもしれません。
倉田弁護士
わかりました。ありがとうございます。
羽賀弁護士
やっぱり11級の方は神経症状をメインに言われる方が多いと思います。痛いとは言われるんですけれど、脊柱変形してるからこういう支障があるという内容のお話しを聞いたことがあまり無い、というのが実態ですね。

「みお」のまとめ

交通事故で脊椎を骨折すると、脊柱の変形障害が後遺障害として残る場合があります。脊柱変形からくる痛みについては、仕事や日常生活への支障は比較的説明しやすいのですが、変形自体による支障は、等級が低いと、わかりにくい場合が多く、保険会社との交渉では、後遺障害逸失利益のうち、主に労働能力喪失率が争点になり、場合によっては、労働能力喪失期間も争いになります。
労働能力の喪失率や喪失期限は交渉がむずかしく、被害者の方が弁護士に依頼していないと、たとえ適正な後遺障害等級が認定されていても、保険会社はより低い金額を提示してくる傾向があります。後遺障害等級が11級となると、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料はある程度大きな金額になりますし、弁護士が交渉した場合の増額幅も大きくなる傾向がありますので、脊椎の圧迫骨折や破裂骨折の怪我をされた方は、後遺障害等級申請の手続きや示談交渉等について、一度弁護士に相談されることをご検討ください。

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