事例研究
Vol.13
非該当から胸骨骨折で14級を獲得した事例
事例の概要
- 症状固定時は、痛みやしびれ、筋力低下等の症状が全身に広がっており、中でも気になるのは、左小指の筋力低下・知覚鈍麻。前胸部痛は、時々痛む程度であまり気にならない。
- 後遺障害被害者請求で、頚椎捻挫・腰椎捻挫・胸骨骨折に関する症状はいずれも非該当とされる。
- 診断書と画像資料を精査し直し、異議申立てをして、胸骨骨折後の疼痛で後遺障害14級9号に認定。
- 胸骨骨折後の疼痛が認定されたため、賠償金交渉の入通院慰謝料と逸失利益が有利な金額で認められる可能性が出てくる。
議題内容
- 適正な等級認定を得るための注意点について
- 頚椎捻挫ではなく、胸骨骨折後の疼痛で認定を受けるメリットについて
議題内容
- 奈良県生駒市で事故にあった被害者が追加検査等を望まなかったため、弁護士は既存の画像資料と診断書を精査し直し、明確な証拠となる画像を確認。画像資料の見てほしい部分に印を付けて提出し、異議申立てを行った。
- 胸骨骨折に関する等級認定を得たことで、入通院慰謝料や逸失利益に関する賠償金交渉が有利になった。
参加メンバー
澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、羽賀弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士

羽賀弁護士
被害者請求で、当初、後遺障害非該当の認定を受けたんですが、異議申立てで14級に変更になった事案です。傷病名は、頚椎・腰椎捻挫、胸骨骨折でした。

澤田弁護士
症状固定時の自覚症状は、どんな感じですか?

羽賀弁護士
後頚部痛、両手しびれ、両手握力低下、小指の筋力低下と知覚鈍麻、腰部痛、あと前胸部痛があるとのことでした。依頼者の方が一番気になっていたのは、左手小指の筋力低下と知覚鈍麻ということで、頚椎捻挫に由来する症状です。前胸部痛はあまり気にならず、時々痛いけれども大分治っている状況でした。

小川弁護士
被害者請求時での見通しは、何級位でした?

羽賀弁護士
後遺障害診断書に症状がかなり細かく書かれていて、ヘルニアがあるとか、症状の部位なども細かく書かれていたため、14級9号が認められてもいいんじゃないかと考えて、被害者請求を行いました。

羽賀弁護士
ところが、頚椎捻挫非該当、腰椎捻挫非該当、前胸骨非該当と、全部非該当で返って来ました。その結果を受けまして、異議申立てをするかどうかということで検討を行いました。
ご依頼者は、やはり、小指の筋力低下とか、そのあたりが気になるということだったので、頚椎捻挫の14級9号が認められるんじゃないかと検討したんですが、画像を精査すると、頚椎の画像は、損傷部がそんなにはっきりしていませんでした。
なので、なかなかむつかしいのかなという判断になりましたが、画像をいろいろ見ていると、胸骨骨折の方が結構はっきりした画像が出ていました。

澤田弁護士
その画像を見られますか?

羽賀弁護士
3枚だけ抜粋して来ました。一番わかりやすいのが、この画像です。これは、上の白くT型になっている部分とI型になっているところが胸骨で、I型の部分の上の方に真っ直ぐ亀裂が入っています。これならいけるのではないかと判断しました。

澤田弁護士
自覚症状とは、ずれがありますね。

羽賀弁護士
実際そうなんですが、やってみてもいいんではないかということで、異議申立てを行いました。お配りした資料に14級の認定票を入れていますが、前胸部痛については胸骨骨折が認められ、治療経過や骨折の状態等を勘案すると、14級9号の認定、という結果になりました。

吉山弁護士
追加検査とかして、より上の等級が付く可能性はありませんでしたか。

羽賀弁護士
私もそう思ったんですが、ご依頼者が事故のショックもあって、検査等のためには動けないという状態でした。そもそも、異議申立てをするかどうかも相当迷われたのを、何も動いていただかなくてもいいので、書類でやれる範囲でやります、ということでやらせていただきましたので。追加撮影とかすると等級が違ったかもしれないですが、それはせずにやりました。

羽賀弁護士
頚椎捻挫で狙っても、胸骨の骨折で狙っても、14級9号としては同じではあるんですけども、胸骨骨折の方で認定を取れば、入通院慰謝料が増える可能性が高いというメリットがあります。軽度の神経症状ではなくて、通常基準が使えることが多いです。初めの認定結果では胸骨骨折が否定されていますので、軽度の神経症状で入通院慰謝料が減額される可能性が高いです。しかし、胸骨骨折が認定されれば、通常基準が使える可能性が高くなります。実際、示談交渉では通常基準で和解が成立しました。

羽賀弁護士
もう一つは、逸失利益の喪失期間ですね。頚椎捻挫は2年から5年だと、緑本(※注1)にはっきり書かれてしまっています。しかし、胸骨骨折後の疼痛なら、5年を超えるようなことも事案によってはあり得ます。本件は結論として5年となり、5年を超える期間にはなりませんでしたが、頚椎捻挫では5年未満になることもよくありますので、胸骨骨折で後遺障害認定を受けたメリットは逸失利益の面でもあったと思います。※注1:大阪弁護士会交通事故委員会発行の「交通事故損害賠償額算定のしおり」のこと。大阪地域限定の、損害賠償の相場が書かれている。「緑のしおり」とも呼ばれる。

澤田弁護士
画像でこんなにはっきり折れているとわかるのに、お医者さんは何故、単なる挫傷と書かれたのかな?

羽賀弁護士
最初のお医者さんは、胸骨骨折を認めておられました。この後遺障害診断書を書かれた先生は、2人目の先生です。この先生には、主に頚椎捻挫と腰椎捻挫を診てもらっていたので、胸骨骨折の方はあまり診ていなかった、ということで、こういう書き方をされてしまっています。最初に診てもらったお医者さんの診断書カルテには、胸骨骨折と書いてあります。

吉山弁護士
被害者請求の段階で、最初からこの画像とか全部出してたんですか?

羽賀弁護士
はい出しています。出していますが、自賠責保険は最近、画像をあまり見てくれない印象があります。当初の被害者請求では画像ディスクのみを提出しましたが、異議申立では、画像を印刷して骨折部分に○をつけて提出しました。

加藤弁護士
異議申立ての時は、あえて頚椎捻挫の主張とかを指摘しなかったんですね?

羽賀弁護士
そうですね。画像的に見てMRIでヘルニアを認めると診断書に書いてあるんですが、あまりはっきりした画像ではなかったので、胸骨骨折の方がよほど簡単に認められるのではないかと判断しました。また、異議申立の対象を絞った方が審査期間が短縮できる可能性があると判断しました。

澤田弁護士
そういう見立てで、異議申立てをしたんですね。

羽賀弁護士
ええ。異議申立ては、そんなに時間がかかりませんでした。1カ月半位で返ってきました。

石田弁護士
異議申立をするときは12級の見込か14級の見込かどちらの見込だったんでしょうか。

羽賀弁護士
症状固定が平成29年10月で、骨折の画像は平成29年6月までの分しかありませんでした。骨折が徐々に治りつつあり、症状固定時点の画像がないので、12級は難しいと思っていました。

石田弁護士
症状固定頃の画像があって、癒合不全とかが分かるのだったらまた別ですよね。

羽賀弁護士
ということですね、ただ、もし症状固定頃の画像を出したとしてもどちらに転ぶか分かりません。もうキレイにくっついているから、後遺障害に該当しませんってなるか、全然くっついてないから12級にしますって話になるかもしれない、っていうのはあります。

小川弁護士
先ほどの後遺障害の診断書は、骨折がないような書き方になってますけれど、胸骨の骨折は画像上明らかだから、別に訂正してもらったりする必要はないっていうことになりますか?先生の判断はひとつの判断として、診断書はそのまま提出したのですか?

羽賀弁護士
そうですね。画像上明らかだったので、診断書はそのまま出しています。

澤田弁護士
明白な画像資料があれば、一目瞭然ですからね。被害者請求や異議申立では、手間がかかってもちゃんと見てもらう工夫が必要ですね。
「みお」のまとめ

後遺障害の等級認定は、賠償金の交渉を有利に進める上で重要なポイントです。また、同じ等級を得ても、認定される中身によって入通院慰謝料や逸失利益の金額が変わってくることがありますので、弁護士は、診断書や検査結果から総合的に判断して、どの症状を主に訴えるかを検討します。
この事例では、検査画像を精査し直すことで、新たな事実を掘り起こし、異議申立てをした結果、交渉に有利な認定が得られました。
この事例では、検査画像を精査し直すことで、新たな事実を掘り起こし、異議申立てをした結果、交渉に有利な認定が得られました。
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