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弁護士による交通事故研究会

制度研究
Vol.85

入通院慰謝料の増額事由

本件の担当
羽賀弁護士

2025年12月01日

事例の概要

入通院慰謝料(傷害慰謝料)は、入院日数、通院期間、通院回数が算定のベースになりますが、重傷の場合や、加害者に著しく不誠実な態度がある場合等、慰謝料が加算されることがあります。どのような場合に慰謝料の加算ができるのか検討するとともに、当事務所における事案について紹介します。

議題内容

議題内容

・入通院慰謝料の重傷基準について。

・加害者の著しく不誠実な態度と増額について。

・その他の増額事由について。

参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士、西村弁護士、原口弁護士、青井弁護士
羽賀弁護士
今回は、交通事故の入通院慰謝料の増額事由について検討します。
入通院慰謝料は、基本的には、入院期間・通院期間・通院回数で算定しますが、怪我が重傷と評価できる場合や、加害者に著しく不誠実な態度がある場合には、慰謝料が加算されます。
羽賀弁護士
他に、飲酒運転や無免許運転等でも慰謝料の加算があり得ますが、今回は省略しまして、「重傷の場合」というのがどういう状態を指すのか、「加害者の著しく不誠実な態度」とはどのようなものか、その他の増額できる事由としてどんなものがあるかを検討します。
羽賀弁護士
まず、重傷の基準は、緑本などに書いてありますので、その基準に当てはまるかどうかということになります。
緑本の重傷の基準は、「重度の意識障害が相当期間継続した場合」や「骨折または臓器損傷の程度が重大または多発した場合」等、「社会通念上、負傷の程度が著しい場合」を指し、通常基準から25%増額になります。
羽賀弁護士
それ以外に、重傷基準に至らなくても、障害の部位や程度によって通常基準よりも増額することがあるものとされています。
他の基準本では、赤本では、障害の部位や程度によっては通常基準の金額に20~30%程度増額するとなっています。具体的には、大腿骨の複雑骨折とか複数箇所の骨折等があった場合などが該当すると考えられています。
赤本には、重傷基準からさらに加算する基準として、生死が危ぶまれる状態が継続したであるとか、麻酔なしでの手術など極度の苦痛を被ったときや、手術を繰り返したときなどが挙げられています。
羽賀弁護士
青本にも記載があります。赤本と似ていますが、大腿骨の複雑骨折や粉砕骨折、脊髄損傷を伴う脊柱の骨折など、苦痛や身体の拘束が強い症状の場合は、上限を基準とする、つまり重傷基準が使われます。
その他の通常の傷害については、上限の7~8割程度を目安にする、としています。
重傷基準からさらに加算する基準としては、脳や脊髄の損傷や多数の箇所にわたる骨折、内臓破裂を伴う傷害の場合等で、上限の基準からさらに2割程度増額してもよいのではないかという記載があります。
羽賀弁護士
いくつか基準本を紹介しましたが、重傷基準と言っても、基準本ごとに書いてある内容が少し違います。
東京基準の赤本では、大腿骨の複雑骨折や複数箇所の骨折等が重傷基準の対象になるとされていますので、これは緑本と比べてやや緩い基準といえます。
緑本は、先ほど紹介した通り、重度の意識障害が相当期間継続した場合であるとか、骨折または臓器損傷の程度が重大か多発した場合等という基準なので、緑本の方が基準としては厳しいと言えます。
澤田弁護士
大阪の基準本は緑本なんですね。
羽賀弁護士
そうです、緑本です。ですから大阪の基準の方が重傷と判断されにくいと言えます。
ただし、通常基準の慰謝料、重傷基準の慰謝料は、いずれも赤本より緑本の方が高くなる傾向があります。
緑本の重傷基準は、赤本とか青本の重傷基準からさらに加算する基準に近いように思います。
緑本ベースで考えた場合、死亡、遷延性意識障害、高次脳機能障害、脊髄損傷、手足切断等であれば、重傷基準が適用されると思います。
羽賀弁護士
微妙なのは骨折の場合をどう考えるかというところかと思います。
骨折と言っても、どの骨が折れたか、何本折れたか、完全に折れているのか、粉砕骨折なのか複雑骨折なのかとか、手術の有無や回数、あとは、入通院期間を入れていいのかというのがちょっと微妙ですけれど、そういったことであるとか、実際に生活や仕事にどんな影響があるか、後遺障害の有無や程度などを考慮することになると思います。
澤田弁護士
入通院期間は、ベースになる慰謝料を算定するときに考慮していますからね。
羽賀弁護士
入通院期間は重傷かどうかの判断の時に考慮すべきでないかもしれませんが、入院期間が長い事案は重傷基準が適用されるのではないかと検討することがよくあります。
羽賀弁護士
私が現在受任している事例ですが、事故直後の骨折画像を添付していますのでご覧ください。
この方は腓骨と脛骨が完全に折れていて、さらに開放骨折(複雑骨折)になっています。
最終的に癒合しているんですが、2枚目のレントゲン写真では腓骨は変形してしまっています。
治療状況は、入院が約1か月、通院期間が2年弱、通院回数は約200回です。
羽賀弁護士
後遺障害は初めは非該当でしたが、異議申立の結果、骨折部に疼痛があるということで14級が認定されました。
この状態で重傷基準が適用されるかですが、赤本・青本の基準で言うと、大腿骨の複雑骨折、粉砕骨折と、複数箇所の骨折というのは、重傷基準に該当する可能性がありますので、今回のような腓骨脛骨骨幹部開放骨折は、重傷基準に該当する可能性があると思います。しかし、最終認定が14級なので、重傷基準が適用できるか微妙なところもあると思います。
羽賀弁護士
緑本ですと、骨折の場合の重傷基準は「骨折の程度が重大であるか多発した場合等、社会通念上、負傷の程度が著しい場合」となっていて、先に紹介したように赤本や青本よりも、厳しいので、おそらく脛骨、腓骨の2箇所の骨折だけでは多発とまでは言えないと思います。ただ、開放骨折つまり複雑骨折なので、重大と言える可能性もありますが、入院は1ヶ月程度ですし、後遺障害は14級なので、なかなか難しいかもしれません。
そのため、重傷基準ではなく、「上記の重傷に至らない程度の傷害についても、傷害の部位・程度によっては、通常基準額を増額することがある」という基準を適用するかどうかが問題になると思われます。
羽賀弁護士
具体例の2つ目は、先ほどと同じく腓骨脛骨開放骨折ですが、骨が15個ぐらいに割れて粉砕骨折の状態になっていますので、より重傷です。
入通院の状況は、入院が約5カ月、通院期間は約15か月です。
後遺障害等級は、足関節可動域制限10級と右足第1趾可動域制限12級で、9級相当の認定を受けました。
示談交渉では、こちらからは重傷基準で提示しましたが、相手側からは、重傷とまでは言えないのではないかと主張があり、通常基準と重傷基準の中間で提示を受けました。
羽賀弁護士
結局、示談解決ができなかったので、紛争処理センターに申立をしました。
斡旋では、骨が15個ぐらいに粉砕しており、入通院期間の長さや9級の後遺障害が認定されたこと等も踏まえ、重傷基準に該当するという斡旋案が出て、解決しました。
以上の2つの事例を見ていただいたら、どの程度の怪我であれば重傷基準が適用されるかが、ある程度見えてくると思います。緑本では、一般的な感覚でいうとかなりの重傷でないと、重傷基準が適用されないといえます。
山本弁護士
一般的な感覚でいうところの重傷と、入通院慰謝料算定における重傷では程度が異なる点は重要と思います。実際の事例でも、重傷基準を使うケースは限定的な印象があります。
羽賀弁護士
加害者の著しく不誠実な態度も、増額事由になっています。
赤本の基準では、「加害者に故意もしくは重過失または著しく不誠実な態度等がある場合」となっていて、これに該当する場合は入通院慰謝料を増額することになります。
青本では、「事故態様が、飲酒運転や赤信号無視など悪質であったり、事故後の行動が、ひき逃げ、証拠隠蔽、被害者に対する不当な責任転嫁など極めて悪質であると評価できる場合には、基準額を上回る慰謝料額が認定される傾向にある」とされています。
羽賀弁護士
では、どういった場合がこれらに該当するかですが、面会、見舞、謝罪、遺族に対する言動や刑事手続きでの刑事責任に関する主張などでは、かなり問題がある言動がないと増額事由として考慮されにくいと考えられます。
羽賀弁護士
赤本等の事例でどのようなものがあるか調べてみましたが、例えば、謝罪がないというだけで慰謝料が加算されている事案はないようです。
身代わりの犯人を出頭させたとか、加害者が被害者を罵倒する発言をした、事故状況が映っているドラレコが提出されたのに過失を否認し続けたというような事案で、慰謝料が加算されたものが掲載されています。
羽賀弁護士
加害者から謝罪がないということを依頼者の方から時々聞きますが、謝罪がないというだけでは慰謝料は加算されないと考えられます。謝罪がないだけでなく、加害者が被害者を罵倒する発言をしたのであれば慰謝料が加算される可能性がありますが、証拠の有無の問題は出てくる可能性があります。
山本弁護士
加害者の著しく不誠実な態度も慰謝料の加算事由になりますが、謝罪がないだけでは加算されません。赤本にあげられている内容は相当不誠実なものになりますし、実際の事案でそこまでの不誠実さが認定できる事案はあまりない印象です。
羽賀弁護士
その他の増額事由ですが、被害者が幼児を持つ母親であったり、仕事の都合など被害者側の事情により特に入院期間を短縮した場合には、増額の可能性があります。また、入院待機中の期間やギプス固定中などの安静を要する自宅療養期間は、入院期間とみる可能性があります。ただし、状況によって、入院期間と評価できるものから、慰謝料の増額事由にとどまるものまであると考えられます。
羽賀弁護士
また、欠勤で勤務先を退職せざるを得なかったり、学生等で出席日数が不足して留年したり、入学試験や資格試験を断念したような場合には、加算の対象になる可能性があります。
今回は以上で終わります。

「みお」のまとめ

交通事故に遭って怪我をし、入院や通院が必要になった場合、入通院慰謝料が認められます。入通院慰謝料は、精神的苦痛を慰謝するものですが、主観的な苦痛の大きさで金額が算定されるわけではなく、怪我の程度、入院日数、通院期間、通院日数等の客観的な事情から金額が算定されます。今回の記事に記載したような事情があると、慰謝料が増額になることがありますが、怪我の程度、入院日数、通院期間、通院日数等の方が算定要素としては大きいと言えます。
交通事故で怪我をして適正な慰謝料を受け取りたいとお考えの場合や、示談金を提示されたときは、早いうちに弁護士に相談されることをお勧めします。

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