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弁護士による交通事故研究会

裁判例研究
Vol.81

独身男性が死亡した場合の生活費控除率と死亡慰謝料

本件の担当
羽賀弁護士

2024年12月01日

事例の概要

独身男性の死亡逸失利益を算定する際の生活費控除率と、死亡慰謝料について、自保ジャーナル掲載の裁判事例と、当事務所での解決事案をもとに検討しました。

議題内容

議題内容

・死亡逸失利益算定の際の生活費控除率の基本的な考え方

・死亡慰謝料算定の基本的な考え方

・独身男性の死亡逸失利益の生活費控除率は基本的に50%であるが、50%を下回る認定をした裁判例はあるか。

・仮に生活費控除率が50%を下回る場合に、死亡慰謝料の金額はどのように認定されているか。

・みお綜合法律事務所の示談解決事例の検討

参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士、西村弁護士、原口弁護士、青井弁護士
羽賀弁護士
今回は、交通事故で独身男性が死亡した場合の生活費控除率と死亡慰謝料について検討します。検討のテーマは、①独身男性の死亡逸失利益の生活費控除率は基本的に50%であるが、50%を下回る認定になるケースがあるか、②仮に生活費控除率が50%を下回る場合に、死亡慰謝料の金額はどのように判断されているか、の2点です。
この議論の対象になる可能性があるのは、Ⅰ.離婚して別居している子どもの養育費を負担していたケース、Ⅱ.まだ結婚してない人が、同居の親や兄弟の生活費を負担していたケースなどが考えられます。
山本弁護士
Ⅰ.のケースは、基本的な流れとして、結婚→子の出生→離婚→養育費の取り決め→養育費の支払いとなりますが、最近は、結婚しない人も多い・結婚しても子はいない人も多い状況です。また、離婚はそれなりにあるとはいえ離婚はしない方が多数・養育費は取り決め自体していないとか取り決めがあっても支払いをしていないケースもよくあります。そのため、子どもの養育費を支払っているからとの理由で生活費控除率をどのようにするかが問題になる事案は、それほど多くないと思います。
羽賀弁護士
確かに、そのような事案はあまり多くないと思います。ただ、議論としてはある程度固まったものがあり、離婚して別居している子供の養育費を負担していた人が交通事故で亡くなったケースについては、赤い本の2009年版の講演録に記載があります。今回の検討対象は、まだ結婚していない人が、同居の親や兄弟の生活費を負担していたケースになります。
山本弁護士
まだ結婚していない人が同居の親や兄弟の生活費を負担しているケースも、それほど多くないと思いますが、結婚しない人も増えているため、今後問題になるケースが増えていきそうです。
羽賀弁護士
死亡逸失利益算定の際の、生活費控除率の基本的な考え方ですが、大阪地裁が主に用いている緑本では、一家の支柱は30%から40%、女性も30%から40%で、独身男性を含むその他の方については50%、年少女子につき、男女全年齢平均賃金を採用する場合は45%となっています。
羽賀弁護士
赤い本では、一家の支柱で被扶養者が1名の場合は生活費控除率は40%、一家の支柱で被扶養者が2名以上の場合は30%で、女性の場合は30%。女子年少者について、男女計の全年齢平均賃金を基礎収入とする場合は40%から45% で、独身男性に関しては50%になっています。
羽賀弁護士
ここで言う一家の支柱の定義ですが、青い本の説明では、「当該被害者の世帯が主として被害者の収入によって生計を維持している場合」を言います。 そのため、独身男性で、主として被害者の収入によって生計を維持しているとは言えない場合は、基本的に生活費控除率が50%になります。
これに対して、親やきょうだいの生活費の援助をしていた、つまり、家族に対する相当程度の経済的支援をしていた場合には、50%を下回る認定をする例があるとされています。
あと、赤い本では、離婚後、元妻と子どもが同居で、男性の方は別のところに住んでいる場合、 養育費を払っているケースであれば50%を下回る生活費控除率を認定することが可能とされています。
羽賀弁護士
次は、死亡慰謝料の基本的な考え方です。緑の本では、一家の支柱は2,800万円、その他であれば2,000万円から2,500万円です。赤い本も同じような内容で、一家の支柱は2,800万円。こちらには加えて、母親・配偶者との区分で2,500万円、その他は2,000万円から2,500万円です。
羽賀弁護士
以上から、独身男性であれば、死亡慰謝料は2,000万円から2,500万円が基準になります。その中で、年齢が高いほど金額は低くなる傾向が若干あります。この後38歳男性の方の解決事例を紹介しますけれど、その年齢であれば、2,300万円ぐらいの慰謝料になると想定されます。なお、事案の内容・保険会社の考え方・裁判官の考え方により若干上下することは考えられます。
吉山弁護士
生活費控除率も、死亡慰謝料も、一家の支柱であるかどうかで結論に差が出ますが、一家の支柱とまでは言えなくても、扶養している人がいれば生活費控除率・死亡慰謝料が変わってくる可能性があると言えそうです。
羽賀弁護士
その可能性が考えられます。実際の判断がどうなっているか、自保ジャーナル掲載の裁判例を紹介していきます。独身男性で、親やその他の方と同居しているケースです。
1件目は、広島地裁の平成3年の判決です。被害者は20歳の独身男性で母と同居していて、年収は約206万円。父は、病気で入退院を繰り返しています。以上を基に、一家の支柱とは言えないものの、この亡くなった方が母の家計を支えていた面があることから、45%の控除率となっています。死亡慰謝料は1,800万円で、時期が古い判決なので、やや低くなっています。
羽賀弁護士
次は、岡山地裁の平成5年の判決です。被害者は44歳の男性で、母と同居。726万円の収入があり、母を扶養しているが、元妻や子どもに定期的な仕送りをしているわけではないことから、生活費控除率は40%、死亡慰謝料2,200万円との判断です。 これもちょっと時期が古いので、死亡慰謝料は若干低めの認定になっています。
羽賀弁護士
3番目は大阪地裁の平成13年の判決ですが、被害者は23歳独身男性で、母と、姉1名兄2名と同居の方です。年収は327万円で、母の生活費を一部負担していたと認定されていますが、きょうだい4人で1名を扶養していたに過ぎないので、生活費控除率は50%のまま、死亡慰謝料は2,200万円の認定です。こちらも判決の時期が古いため、死亡慰謝料はやや低めと思います。
羽賀弁護士
大阪地裁の平成17年の判決は、被害者は31歳独身男性で、母と同居、年収は300万円の方です。母の年金が140万円で、自宅の名義はこの亡くなった方になっていることを前提に、生活費控除率は40%、死亡慰謝料は2,800万円。一家の支柱の認定になっています。
羽賀弁護士
次は仙台地裁の平成20年の判決です。被害者は40歳独身男性で、年収は160万円ですが、今後収入が増える見込みがあったとされています。
この方は、収入を全部家計に入れており、母は身体障害があるため、一家の支柱の認定で、生活費控除率40%、死亡慰謝料は2,700万円となっています。
羽賀弁護士
6番目は東京高裁の平成22年の判決です。被害者は31歳の独身男性で、父母と同居、年収は532万円です。姉に当たる人とその子どもの生活費や学費を負担していたとか、家計は相当程度負担していて、結婚を考えていた方がいたとの認定のもとで、 生活費控除率は45%です。死亡慰謝料は、相手側の速度超過が著しいことを考慮し、2,800万円の認定になっています。
原審では、生活費控除50%の認定になっています。家族の生活費をどの程度負担しているか、その負担が一定のラインを超えているかどうかの評価で、ずれが生じたと思われます。
羽賀弁護士
次は、名古屋地裁の平成23年の判決で、被害者は30歳の独身男性の方です。母と弟と同居で、年収は457万円、弟と2人で母を扶養していたとの認定をもとに、45%の生活費控除率、死亡慰謝料は2,500万円になっています。
羽賀弁護士
次は、東京地裁の平成24年の判決ですが、被害者は45歳の独身男性で、収入は903万円。 75歳の父と74歳の母と同居して両親の生活を支えていたとの認定で、生活費控除率40%、慰謝料は2,400万円です。
羽賀弁護士
次は、京都地裁の平成24年の判決で、被害者は47歳の独身男性、父母と同居、679万円の年収です。この方は、父母を扶養していたけれども、父母に年金収入があって扶養家族と言える実情までは認められないとの認定で、生活費控除率は50%のまま、死亡慰謝料は事故態様を考慮して2,600万円と高めの認定になっています。
羽賀弁護士
10番目の、大阪地裁の平成27年の判決は、今まで父母と同居の方が多かったですが、 被害者は25歳の独身男性で、交際していた女性と同居していた方です。
基礎収入が男性としては高額とは言えないことも考慮して、生活費控除率40%、死亡慰謝料2,500万円となっています。
羽賀弁護士
最後の11番目は、大阪地裁の平成29年の判決です。被害者は37歳独身男性で、 実家へ送金をしていたとの主張がありましたが、裁判所は、5万円出金している月はあるが、内容がよく分からないし、仮にこれが実家への送金だとしても、実家への宿泊費とか、父母への情誼として交付していたものとして考えられるので、扶養の性質はないと認定しています。そのため、生活費控除率は50%です。死亡慰謝料は2,500万円ですが、これは、相手側がてんかんの発作の影響で正常な運転ができない状態で衝突されたことを踏まえ、高めの認定が出ていると思われます。
羽賀弁護士
以上11の裁判例の生活費控除率は、40%~50%の範囲になっており、同居家族等を扶養していると、扶養の程度によっては、生活費控除率が低くなるケースがあるといえます。ただ、生活費控除率30%の認定になっている事案はありません。青い本には、自保ジャーナルに掲載されていない裁判例が3件ありましたが、これも生活費控除率は40%で、30%の事例はありませんでした。被扶養者2名となると相当な額の負担になりますので、独身男性が家族と同居している場合に、被扶養者2名に相当するだけの生活費を負担していたとの認定が出るケースはあまりないと思われます。
羽賀弁護士
それから、生活費控除率と死亡慰謝料の関係の検討です。死亡慰謝料については、古い時期の分については基準自体が低めなので、比較対象から除外し、また、特別な加算理由で死亡慰謝料が上がっていると思われるものについても除外して検討しました。
それをまとめた結果ですが、死亡慰謝料は、一家の支柱として認定されているものは2,700万円~2,800万円。一家の支柱ではないものの生活費控除率を50%から引き下げた事案は、2,400万円~2,500万円となっています。そのため、一家の支柱ではないものの生活費控除率が低く認定された場合、死亡慰謝料は、基準の範囲内でやや高めの認定になる傾向があると思われます。
以上が自保ジャーナルの裁判例の紹介です。
山本弁護士
今回の検討で分かるのは、①独身男性が家族と同居して生活費を負担している場合、生活費控除率が低くなるケースがあること、②生活費控除率が低くなった場合、死亡慰謝料が高くなる傾向があることですね。
羽賀弁護士
そのようになります。
続いて、私の担当した解決事例を紹介します。
事故状況は、簡単に言うと追突事故です。被害者の方がバイクで信号待ちをしていて、後方に加害者のトラックが止まった。で、青信号に変わったところ、トラック運転手から被害者が見えていなかったようなんですが、トラックがバイクに気付かず先に発進して、バイクに追突し、被害者の方をひきずったまま走行を続け、被害者の方は即死されました。トラック運転手はバイクに追突したことに気が付いていなかったため、救護義務・報告義務が履践されなかったのですが、主観的要件の問題でひき逃げは不起訴になっています。
被害者の方は38歳独身の方で、両親と同居されていました。両親の年金は合わせて80万円ほど、被害者の方は年収200万円強、自宅は父名義です。
羽賀弁護士
この状況を前提に、相手方保険会社に示談案を提示しました。
基礎収入は実際の収入より高めに出し、生活費控除率は一家の支柱前提の30%で出しました。
慰謝料は、一家の支柱2,800万円を基本にして、事故態様を考慮し3,000万円で提案しました。
生活費控除率については、女性の場合ほぼ自動的に30~40%の控除率になるところ、今回の基礎収入が女性平均より低いことも踏まえ、低くしたところもあります。
羽賀弁護士
これに対する保険会社からの提案内容ですが、逸失利益の生活費控除率は通常の独身男性と同じく50%。死亡慰謝料も、38才の独身男性の通常程度の金額である2300万円でした。
羽賀弁護士
本件は、確かに、一家の支柱と認定できるかどうか微妙なところです。両親には年金収入があり、被害者の方の収入は200万円強なので、両親が自身の生活費をある程度負担している面があります。また、自宅は父名義であることも踏まえると、一家の支柱の認定は難しいところもありますが、収入状況から、被害者の方が両親の生活費を相当程度負担していたのは明らかだと思われるので、生活費控除率は高くても40%ではないかと反論しました。
羽賀弁護士
また、死亡慰謝料についても、一家の支柱とまでは認定できないとしても、被害者の方が両親の生活費を相当程度負担しており、かつ、事故状況も踏まえると、2,500万円を下ることはないのではないかと主張しました。
羽賀弁護士
以上の主張について、保険会社側も、生活費控除率40%、死亡慰謝料2,500万円を認定し、最終的な示談金額は5,700万円になりました。裁判例の傾向に沿う形での解決になったと言えます。
羽賀弁護士
独身男性で父母と同居している方は結構いらっしゃると思いますので、こういった形で生活費控除率を下げたり、死亡慰謝料は上げられる事案は他にもあると思います。それにより示談金額が増額になりますので、適切に主張・立証することが重要と言えます。

「みお」のまとめ

交通事故で被害者の方が死亡した場合、請求できる示談金の項目は、葬儀費、死亡逸失利益、死亡慰謝料などがあります。死亡逸失利益算定の際は、被害者の収入・性別・家族状況などを基にした生活費控除率が問題となりますし、弁護士に依頼しなければ保険会社からは低い金額での提示になることがほとんどです。そのため、家族が交通事故で亡くなった際は、交通事故問題に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。

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