事例研究
Vol.71
被害者側の過失
事例の概要
交通事故問題の争点の1つとして出てくることがある被害者側の過失について、概要と裁判例、さらに保険会社との間で問題になりやすい点について検討しました。
議題内容
議題内容
・被害者側の過失とは
・被害者側の関係性と過失の斟酌に関する最高裁判例と、関連する下級審判例
・最高裁で判断が示されていない類型についての下級審判例
・被害者側の過失が問題となる事例で派生することがある問題点
・利益相反について
参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士、西村弁護士、原口弁護士

羽賀弁護士
今回は、交通事故問題の争点の1つとして出てくる、「被害者側の過失」について、概要と裁判例、保険会社との間で問題になりやすい点について見ていきます。

羽賀弁護士
被害者側の過失とは、民法722条2項において考慮することができるとされている被害者の過失について、被害者本人の過失だけではなく、本人以外の者の過失を含むのかという問題です。

山本弁護士
資料にありますが、民法722条2項は、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」と定めていますね。

羽賀弁護士
そうですね。それではまず、本人以外の被害者側の過失について、斟酌つまり考慮することができるかできないかを判断した、大審院・最高裁の判例を紹介します。大正9年6月15日の大審院判決では、使用者について、被用者の過失の斟酌を肯定しています。判決の詳しい中身は、お送りしている資料をお読みください。
逆のパターンで、会社代表者の過失ある指揮の下で作業していた従業員が受傷した場合、代表者の過失は、被害者側の過失にはならないとした下級審裁判例があります。これについても資料を添付しています。

羽賀弁護士
次に、最高裁昭和34年11月26日判決。これは幼児が被害者の場合、父母の過失の斟酌を肯定したものです。判決内容を簡単に紹介しますと、「民法722条に定める被害者の過失とは、単に被害者本人の過失のみでなく、ひろく被害者側の過失をも包含することを前提に、被害者の幼児の過失だけでなく、父母に監督上の過失があるときは監督義務者である父母の過失を斟酌しうる」としています。
その他、祖父母や、叔父、伯母などについて、被害者側の過失を肯定した下級審の裁判例があり、先程ご紹介した資料の交通事故相談ニュースに記載があります。

羽賀弁護士
一方、最高裁昭和42年9月27日判決では、幼児について保母の過失の斟酌を否定しています。ここでは、民法722条2項に定める被害者の過失とは「単に被害者本人の過失のみでなく、ひろく被害者側の過失をも包含する趣旨と解すべきではある」としながらも、保母は、両親に幼児の監護を委託された被用者のような関係であり、「被害者と一体をなすとみられない者の過失はこれに含まれない」としています。詳しい内容は後で読んでいただくとして、これ以外にも、幼児を監護する者のうち、近隣の主婦に預けられた場合や、教師の場合に被害者側の過失を否定した下級審の裁判例も資料に添付しています。

羽賀弁護士
最高裁昭和51年3月25日判決では、夫の運転する自動車に同乗していて怪我をした妻について、夫の過失の斟酌を肯定しています。ただし、夫婦だから一律に肯定するということではなく、「夫婦関係が破綻にひんしているなど、特段の事情がない限り、夫の過失を被害者側の過失として斟酌することができる」という内容になっています。これに関連して、事故当時は婚姻関係にあっても、裁判の時点では既に離婚に至っているといったような場合には斟酌しないという、平成18年3月29日の東京地裁判決を資料で添付しています。

羽賀弁護士
最高裁昭和56年2月17日の判決では、同僚間の事故について、「他に特段の事情がない限り、身分上、生活関係上一体をなす関係にあると認めることは相当でない」という理由から、過失の斟酌を否定しています。

吉山弁護士
会社名義の自動車を従業員が運転し、同僚が助手席に同乗中、運転手が事故を起こし同僚が怪我をしたというような事案では、自動車に付帯している任意保険を使うことができますか?

羽賀弁護士
その場合は任意保険を使えません。ただし、個人名義の自動車の場合は使えます。

羽賀弁護士
では次に、恋人関係にある被害者ではどうかといいますと、最高裁平成9年9月9日判決では、過失の斟酌を否定しています。判決では、「3年前から恋愛関係にあったものの、婚姻していたわけでも、同居していたわけでもない」場合に、斟酌が否定されています。一方、内縁の妻については、最高裁平成19年4月24日で、内縁の夫の過失の斟酌が肯定されています。

西村弁護士
内縁関係は、婚姻届は出していないけれど、男女が相協力して夫婦としての共同生活を営んでいるものであり、「身分上、生活関係上一体を成す関係にある」と判断しているわけですね。

羽賀弁護士
その通りです。次に、最高裁の判断が示されていない類型について、下級審の裁判例にどんなものがあるか見ていきます。夫婦、恋人、内縁関係以外で、婚約者について紹介されている判例は3件ありましたが、いずれも被害者側の過失は否定されています。いずれの判例も婚約者については、いわゆる「財布が一つ」という関係には至っていないとか、「身分上、生活関係上、一体をなす」とみられるような関係にあったということはできないという理由で、過失の斟酌は認められていません。

羽賀弁護士
その他の親族関係は、事例によって判断が分かれています。判断要素は、主に、同居しているか、生計の同一性があるかです。その他、同乗の経緯について、考慮されている場合と考慮されていない場合があります。
資料に事例が24件載っていますが、親子やきょうだいでも、事情によって被害者側の過失を認定したり認定しなかったり、色々あり、事案によって見ていく必要があります。

羽賀弁護士
あと、交替運転や、運転者と被害者らとが実質上いずれも運行供用者にあたる場合、被害者側の過失が認定されている事案があります。これについては、赤い本に記載があって、共同運行供用者については、被害者側の過失として簡単に斟酌できる理由ではないのではないかという趣旨と思われる記載があります。そのため、簡単に被害者側の過失として斟酌されるわけではない可能性があります。詳しい内容は、資料をご覧ください。

羽賀弁護士
最後に、被害者側の過失が問題となる事例で、保険会社との間でイレギュラーな処理が発生する場合をご紹介したいと思います。

羽賀弁護士
1つ目は、保険会社が被害者側の過失を主張してこないケースがあります。私が受任した事案でもありましたので、ご紹介します。
事故は、夫が運転する自動車の助手席に妻が同乗して、交差点で青信号直進していたところ、対向右折の四輪車と衝突したというものです。夫の件の過失割合は、当方20%:相手方80%ということで示談解決しました。妻の方は、遅れて示談交渉をスタートしたんですが、保険会社からは、夫の過失割合20%を考慮しない金額が提示されました。

羽賀弁護士
もう1件、こちらは内縁関係の方のケースです。内縁の夫が運転する自動車の助手席に内縁の妻が同乗し、道路を直進していたところ、路外の駐車場から出てきた乗用車と衝突しました。
基本の過失割合は20%:80%なんですが、内縁の妻について、内縁の夫の過失割合を考慮しない金額が提示されました。

羽賀弁護士
いずれも、さらに交渉した場合には被害者側の過失を主張される恐れがあり、計算するとそのまま和解した方が金額が高くなると思われたため、和解に至っています。

羽賀弁護士
また、被害者側の過失が問題となるケースでは、複数の自賠責が使えるケースがあります。つまり、加害者と同乗運転者それぞれに過失がある場合、加害者が2人いることになるため、加害者側の自賠責に加えて、運転していた夫や内縁関係の人等がかけている自賠責保険も使える場合があります。

羽賀弁護士
この点が問題になった具体的事例ですが、事故は、夫が運転する自動車の助手席に妻が同乗し、交差点を青信号で直進していたところ、対向右折の四輪車と衝突したというもので、夫婦お二人から依頼がありました。示談解決した際の過失割合は、夫婦ともに、当方20%:相手方80%でした。
資料に免責証書を付けていますが、同乗者である妻の和解のときの示談金は1,184,410円で、過失割合20%を考慮した上での数字です。
通院期間180日、通院回数89回で、後遺障害無しということで、治療費・交通費と、主婦の休業損害690,000円、慰謝料はむち打ち・後遺障害非該当で800,000円です。過失割合が20%で過失減額326,667円ということで、示談金1,184,410円で示談がいったん成立しました。

羽賀弁護士
ところが、後日保険会社から、この事案は実は自賠責保険が2つ使えますという連絡がありまして、再度和解をしました。その際、弁護士基準で算定した1回目の和解金額1,184,410円と、2つの自賠責保険を使った場合の金額である1,274,100円のうち、高い方である1,274,100円で解決をしました。

西村弁護士
被害者側の過失で過失相殺される場合に、同乗者と運転者を同時に受任すると、利益相反の問題は生じませんか?

羽賀弁護士
被害者側の過失によって過失相殺される場合は、同乗者と運転者を同時に受任しても、利益相反の問題は生じません。同乗者から運転者に対して請求することがないためです。これに対し、同乗者が恋人といった場合は被害者側の過失になりませんので、第三者である加害者と同乗運転者との共同不法行為になります。同乗運転者に対する請求権も成り立ち、利益相反の問題が生じる可能性がありますので、そういった場合は注意が必要です。
「みお」のまとめ

助手席などに同乗していた人が、交通事故で怪我をした場合、事故状況や運転者との関係性によって、どれくらいの示談金を受けられるかが変わってきます。同乗者については、被害者側の過失が認められる場合や、シートベルト不着用などの場合を除いて、基本的に過失相殺はないために、弁護士に依頼すると示談金額が増額になる可能性が大きいです。そのため、手続きの進め方や示談交渉等について、弁護士に相談されることをお勧めします。
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