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弁護士による交通事故研究会

裁判例研究
Vol.62

逸失利益の定期金賠償に関する最高裁判例

本件の担当
羽賀弁護士

2022年12月13日

事例の概要

事故当時4歳の被害者が、高次脳機能障害3級の後遺障害が残り、後遺障害逸失利益について定期金による賠償を求めた訴訟の最高裁判決について検討しました。

議題内容

議題内容

定期金賠償を認める考慮要素について。

定期金賠償が認められやすくなる事情。

議題事例と年齢や後遺障害等の内容を変えた、仮想事例の検討。

参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士、西村弁護士、原口弁護士
羽賀弁護士
今回は、「逸失利益の定期金賠償に関する最高裁判例」について検討していきます。
対象となる最高裁判決は、令和2年7月9日の判決で、判示事項は、最高裁のホームページから引用しますと、「交通事故の被害者が、逸失利益について定期金による賠償を求めている場合に、逸失利益は定期金の賠償の対象になるか」です。
羽賀弁護士
事案の概要です。事故があったのは平成19年、当時4歳の被害者が、道路横断中に大型貨物自動車と衝突する交通事故に遭い、脳挫傷、びまん性軸索損傷等の重傷を負い、高次脳機能障害3級3号の後遺障害が残り、これによって、労働能力を全部喪失しました。被害者は、後遺障害逸失利益として、18歳から67歳までの労働能力喪失期間について定期金の支払いを求めました。事実審の口頭弁論終結時には、被害者は15歳になっていました。
羽賀弁護士
判決の内容ですが、結論を言うと、「逸失利益は定期金による賠償が認められる可能性がある」というものでした。判決文は資料でお配りしています。
問題となった事案で定期金賠償が認められたかですが、この判決は具体的な規範立てはしてないんですけれども、①被害者は当時4歳の幼児であり、②高次脳機能障害という後遺障害のため労働能力を全部喪失し、③逸失利益は将来の長期間に渡り逐次現実化するものである、といったところを考慮要素として挙げ、定期金賠償が認められました。
羽賀弁護士
逸失利益の定期金賠償が認められるかを検討するにあたって、どのような考慮要素が考えられるかということについては、最高裁の小池裁判官の補足意見が付いています。
「定期金による賠償に伴う債権管理の負担(支払いが長期化するという保険会社側の負担)と、損害賠償額の等価性を保つための擬制的手法である中間利息控除に関する利害(定期金ではなく一時金としてもらうことで賠償額が下がってしまうという被害者側の事情)を、考慮要素として重視することは相当でないように思われる」と書かれています。つまり、被害者側としては、定期金にして賠償額を増やしたいという考えがある場合もあるとは思いますが、その辺はあまり重視しないということです。
羽賀弁護士
最高裁の判決は簡単に言うとこういった内容ですが、赤い本の2022年版に、この判決についてより詳しい解説が掲載されていますので、こちらの方もかいつまんで紹介していきます。
「最高裁判決では、逸失利益について定期金賠償が認められる具体的基準は示されていないが、その判示からすると、予側した損害額と将来現実化する損害額との間に大きなかい離が生じる場合を考えている。具体的に言うと、後遺障害の将来における変化の可能性、すなわち、後遺障害の程度が重いほど、定期金が認められやすいのではないか」といったことや、「4歳の子どもの高次脳機能障害ということから、その後の発達によって、症状の変化が想定される場合がある」といったことが考慮要素になるだろう、としています。しかし一方で、「後遺障害の程度が重かったとしても、遷延性意識障害や四肢麻痺といった障害であれば、被害者が若くても、症状が変化する可能性は低いのではないか」と記載されています。
羽賀弁護士
もう一つの考慮要素である賃金水準等が変わる可能性に関しては、「労働能力喪失期間が長期間であればあるほど、かい離が生じやすい」ということになりますが、今回の事案に関しては、「就労可能期間が18歳から67歳までの長期に及ぶというところで、大きなかい離が生じることを肯定する方向にはなるが、賃金水準はある程度の増減が予想されるので、労働能力喪失期間が長いからということだけで、定期金賠償を認めるという判断をするのは相当ではなく、後遺障害の程度も考慮することになるだろう」という見解です。
羽賀弁護士
あと、今回の事案は被害者の方が定期金賠償を求めていますが、被害者が定期金賠償を求めていない場合や、加害者の方から定期金賠償を求めている場合は、この判決の射程外になります。
但し、紛争の一回的解決の利益や、定期金賠償の履行確保というのは、被害者側にとっては重要な話になるので、被害者側から定期金賠償の請求があるかどうかというのは、相当性の判断において考慮すべき要素となります。
羽賀弁護士
以上が赤い本の解説部分ですが、さらに、仮想事例を挙げて、結論としてどうなるか、という設問が掲載されています。
まず、今回の事案と一部類似させた3例が出ています。
1例目は、高次脳機能障害3級、但し被害者は高齢の方で、事故時60歳、症状固定時63歳、口頭弁論終結時65歳の、会社員の場合。
2例目は、高次脳機能障害3級、事故時23歳、症状固定時25歳、口頭弁論終結時27歳の、会社員の方の場合。
3例目は、胸髄損傷による両下肢完全麻痺1級、年齢は今回の事案と同じで事故時4歳、症状固定時14歳、口頭弁論終結時15歳の方の場合。
4例目は、大腿骨骨折による股関節機能障害で後遺障害12級が残り、未だ将来に悪化する可能性があり、人工関節手術を予定されている、事故時20歳、症状固定時21歳、口頭弁論終結時23歳の方の場合。
5例目は、正面視の複視で後遺障害10級。事故時18歳、症状固定時19歳、口頭弁論終結時20歳の方の場合。
羽賀弁護士
それぞれについての赤い本の解説を紹介していきます。
1例目の方の場合、ある程度高齢で、後遺障害の変化の可能性は小さいのではないかという点と、就労可能期間は10年いくかどうかでそんなに長期ではないので、賃金水準は変化しにくい、という2点を挙げて、定期金賠償の相当性を認めるのは、この事案では難しいのではないか、ということです。
羽賀弁護士
2例目は、年齢が1例目の方より若い23歳だったらどうか、ということですが、こちらは微妙な書き方になっています。どういうことかと言いますと、23歳の方の後遺障害の変化の可能性は、幼少の子どもに比べると低いけれど、1例目のような60歳の方に比べれば、変化の可能性は十分に考えられる。また、就労可能期間は25歳から67歳と長期になるので、賃金水準の変化によっては大きなかい離が生じる可能性は否定できない。以上のような考慮要素で、最終的には、最高裁判決の事案よりは後遺障害の変化の可能性は小さいけれども、定期金賠償を認める余地がないとまでは言えない、というものです。
羽賀弁護士
3例目は、胸髄損傷による両下肢完全麻痺1級だったらどうか、ということです。この場合は、高次脳機能障害と違い、後遺障害の変化はないだろうということと、賃金水準の変化はあるかもしれないけれど、後遺障害が変化しないという前提であれば、定期金賠償の相当性を認めることは難しいのではないか、とされています。
羽賀弁護士
4例目の方は、将来悪化する可能性があり、人工関節手術が予定されているので、後遺障害の変化の程度は大きいのではないか。また、就労可能期間が長期なので、大きなかい離が生じる余地はあるとしています。しかし、他の考慮要素としては、12級で人工関節手術を受けたとして、10級または8級になりますので、その場合、被害者は、就労して相当程度の収入を得られる可能性は十分あるのではないのか。そうすると、実際に収入を得る見込みはあるので、定期金賠償の必要性が高いと言えるかどうかという問題があり、その点を考慮して相当性を判断することになるという内容で、はっきりした結論は記載されていません。
羽賀弁護士
5例目は、事故時18歳と比較的若い方ですが、正面視の複視10級の後遺障害の程度に変化があるとは言い難く、労働能力喪失率も27%だし、就労可能期間の間には賃金の増減は考えられるけれども、結局、後遺障害の変化が小さいという点が重視されているのだと思いますが、定期金賠償の相当性を認めることは困難という結論になっています。
羽賀弁護士
あと、「将来介護費は一時金賠償を求め、後遺障害逸失利益は定期金賠償を求めることはできるか」という設問がありましたので、ちょっと細かな論点になりますが、紹介しておきます。
これはつまり、将来介護費は、途中で亡くなるとその後の分を請求できなくなってしまうので一時金にしておき、後遺障害逸失利益は、亡くなったとしてもその後の分も請求できるので、定期金賠償にする、という形で請求ができるかどうか、ということです。
赤本の裁判官の結論としては、理論的には可能だろうということです。ただし、こういう形で分けて請求するというのは、定期金賠償に相当する判断に影響する可能性があるとも述べています。実際、岐阜地裁の令和2年判決では、そういった請求に対して、結局認めないという結論が出ています。
羽賀弁護士
将来介護費を定期金ではなく一時金で請求するというのは、将来の介護や費用の変化の可能性は小さく、後遺障害の症状の変化の程度も小さいという風に原告側は考えているんじゃないかということになりますので、定期金賠償の相当性を認めることは基本的に困難と考えられます。
ただし裁判官は、「将来介護費と逸失利益は法的性質が異なるので、定期金賠償の相当性の考慮要素も必ずしも同じではなく、統一して請求しないといけないものではない、という指摘は可能である」としています。ですから、もしこういう請求をするのであれば、「なぜ将来介護費を一時金として請求し、後遺障害逸失利益を定期金として請求するのか、その根拠を合理的に説明できるようにしておくことが重要である」という見解なんですが、私としては、どういった理由が考えられるか、正直よく分かりません。
羽賀弁護士
次に、更に細かい話ですが、「逸失利益について判決で定期金賠償が認められた場合、民事訴訟法117条による変更判決が認められるには、どの程度の事情の変更が必要か」という設問があります。この点は、ある程度の結論は記載されていますが、具体的にどのような事情があれば変更できるかはよく分かりません。
赤い本では、民事訴訟法の変更判決を求める裁判例が見当たらないということで、今後の事例の集積が待たれる、という記載になっています。
ただ、大枠の考慮要素としては、民訴法117条の条文の通りで、後遺障害の程度とか、賃金水準の事情等について、「通常の予測の範囲を超えるほどの変化や賃金水準の変動等の事情が認められ、これにより、定期金に金額に比して現実化した損害額が甚だしく増減し、これを維持することが不相当と言えることが必要」という記載があるんですが、正直これだけだとよく分からないという感じはします。
羽賀弁護士
最高裁の小池裁判官の補足意見として、どういった場合に変更判決が可能かの一例として、「後遺障害による逸失利益について定期金賠償が認められ、その後、途中で被害者が亡くなってしまったという場合に、死亡後、就労可能期間の終期までの、遺族等に対する定期金による賠償について、判決の変更を求める訴えが可能ではないか」という趣旨の記載があります。実際に定期金賠償をするケースがどの程度あるかという問題はありますが、以上、定期金賠償を検討する際の参考にしていただければと思います。

「みお」のまとめ

交通事故などの損害賠償金は一括払いによる一時金賠償が原則とされていますが、年1回など定期的に継続して支払う定期金賠償も認められています。将来介護費については定期金賠償が認められている例もありますが、後遺障害逸失利益については、まだ例は少なく、今回紹介した事例は、最高裁が逸失利益について定期金賠償の方法を認めたものです。ただ、定期金賠償を選択すると保険会社との関係が長期化するという問題があり、実際に請求をすることは多くないと言えるでしょう。

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