事例研究
Vol.60
保険会社との休業損害の交渉
事例の概要
保険会社との示談交渉における休業損害の問題点
議題内容
示談交渉において休業損害を請求した際に、休業損害として認定する内容について問題となりやすい事例等を検討しました。
議題内容
・法定有給以外の有給を利用して休業した場合①②
・怪我の影響で夜勤が減った場合
・後遺障害なく治療が終了した後の休業損害
・退職後の休業損害・賞与減額の請求
・復職後に退職した場合の休業損害
参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士、西村弁護士、原口弁護士

羽賀弁護士
今回は、「保険会社との休業損害の交渉」というテーマで、私が過去に受任した事例をいくつか検討していきたいと思います。休業損害は、被害者が会社員の場合、休業損害証明書や賞与減額証明書などがあれば、普通は認められますが、逆にこれに当てはまらない場合、保険会社が認定しないと主張して、支払いを渋ってくることがよくあります。

羽賀弁護士
最初にご紹介するのは、法定有給以外の会社の特別の有給を使用したことが問題になったケースです。ご依頼者は、勤務先で“積立休暇”と呼ばれている、怪我とか病気のときに限定して使用できる、法定外の有給を利用されました。この場合に休業損害が認められるかが問題になりました。この方は、当方に依頼される前に、保険会社に、法定の有給休暇を1日、会社の “積立休暇”を6日使ったという休業損害証明書を提出されていたんですが、それに対して保険会社からは、「休業損害は、法定の有給の1日分しか認めません」との回答が来ていました。

羽賀弁護士
そこでこちらからは、“積立休暇”は法定の有給休暇と類似するものだと主張して、休業損害は“積立休暇”の分も合わせて7日間で請求しました。その結果、保険会社から、7日分を認定するという回答を得ました。

吉山弁護士
保険会社は争ってこなかったんですか?

羽賀弁護士
積立休暇については特に争ってはこなかったんですが、110万円で請求した入通院慰謝料は99万円、同じく110万円で請求した後遺障害慰謝料も99万円までしか出せませんという調整をされました。法定有給は法律で決められたものであるため休業損害が認定されることに問題はないのですが、“積立休暇”は、その中身について、法定有給と類似するものであるか本来的には就業規則等で説明する必要があります。ただ今回は、保険会社は、そこまでは求めない、その代わりと言っては何だけれど、慰謝料の金額を減らしてください、とそんな感じで交渉してきました。

羽賀弁護士
次は、怪我の影響で夜勤が減ったという事例です。先ほどと同じ方のものです。病院で放射線技師をされている方について、夜勤が減ったことが問題になりました。一般的な会社員なら、残業が減ったという内容になります。夜勤手当や残業代は、保険会社が簡単に認定するかどうかなんとも言えないところがあります。夜勤手当や残業代が減っているという事実を証明するために、事故の前と後の給与明細を提出しますが、減った原因が、怪我ではなく、業務の関係や個人的な都合じゃないのかと主張されることがあります。

羽賀弁護士
ご依頼者は、ご依頼前は夜勤についての請求はしておられなかったんですが、受任後に当方から主張しました。これについては22万円の請求に対して、保険会社もそのまま認めるということで、特に反論はありませんでした。この方は病院勤務なので、夜勤が定期的に必要になるのは明らかといえます。怪我が、鎖骨の遠位端骨折(えんいたんこっせつ)で、1人でストレッチャーに乗った重い患者さんに対応するといったことは困難だという理由から、夜勤を大幅に減らしたという事情がありましたので、保険会社も夜勤減の休業損害を認めたのだと思います。

羽賀弁護士
以上の事案は、積立休暇と夜勤減で約44万円の休業損害が認められました。一方、慰謝料は上限の9割で22万円の減額になりました。慰謝料を減らす理由は本来ありませんが、休業損害が緩やかに認められていることと、紛争処理センターへの申立をするほどの金額差ではないことから、上記内容で保険会社と示談が成立しました。

羽賀弁護士
次も、法定外有給を利用した場合に休業損害が認められるかという、先程のケースと同じ点が問題になった案件ですので、簡単に説明します。“支援休暇”という、時効にかかった法定有給について、病気などの理由で休むときに限定して使える休暇を、どう判断するかというものです。これについては、こちらの主張通り認められたということで、資料をお配りしていますので、見ておいて頂ければと思います。
ご依頼者には、非定型な休業損害の請求なので、必ずしも認められるとは限らないということを、あらかじめ説明した上で示談交渉を進めました。
裁判例では勤務先の有給の病気休暇を使った場合には、休業損害は認められないというものが多いと思われます。そのため、最終的に病気休暇について休業損害が認められなくてもやむを得ない部分はあります。

羽賀弁護士
続いて4番目の事例です。今までの3例に比べて、恐らくそんなにはないケースかもしれませんが、後遺障害がなく治療は終了したけれど、その後も休業が必要になったので、その分の請求ができないかというご相談を受けました。

羽賀弁護士
一般的に、後遺障害なく治療が終了すれば、完治で復職可能ということになりますが、ご相談者には特別な事情がありましたので、紹介します。まず、この方の怪我ですが、事故で肋骨を骨折され、肺気胸になってしまいました。その後、主治医の先生は、骨折と肺気胸は完治したと判断し、治療自体は1ヶ月も経たず終了しました。

羽賀弁護士
問題は、この方のお仕事がパイロットだという点です。肺気胸が原因で、フライト中に体調をくずして事故を起こすと危険だという理由で、勤務先の社内の医師からフライト業務不可という意見が出され、治療終了後も3週間程度、搭乗を止められてしまいました。

羽賀弁護士
保険会社は、「休業損害は治療期間に限って認められるものなので、治療終了後の休業障害は認定しない」として、治療終了までに休業した13日間だけが対象になると主張してきました。ご依頼を受けて、こちらからは「治療終了後も社内の医師に止められて仕事ができなかったんだから、休業損害を支払うべきではないか」として交渉しました。しかし保険会社は、非定型なものなので認めづらいということで、なかなか休業損害として認定してくれませんでした。
当方は、事故時に同乗しておられたご家族の件も合わせて受任していましたので、ご家族の後遺障害の申請中に、休業損害を先行して交渉したんですが、先行しての支払は認められませんでした。その後、ご家族の治療も含めて全て終わった後も交渉を続けた結果、最終的に、社内の医師に止められていた期間も含めて休業損害が認定されました。

羽賀弁護士
ただし、保険会社からは、休業損害は認められましたが、この件もまた、慰謝料については弁護士基準の9割でお願いします、という話が出てきました。この件でも慰謝料を減額する理由は本来ありませんが、慰謝料の減額はわずかで、紛争処理センター等で手続きをするほどではなかったため、上記内容で示談に至りました。なお、休業損害の請求は、本来名目の給与額で請求をしますが、治療終了後の休業損害は手取り金額を基礎に請求する形にしています。
本来であれば、治療終了前の休業損害と同じく、名目の給与額で請求してもいいのですが、ご依頼者がそのように交渉してほしいと希望されていました。そのように希望された理由は、事前の交渉で治療終了後の休業損害の請求が認められず、金額を調整する必要があったためと思われます。その結果、請求額・認定額が若干低くなったので、保険会社側も治療終了後の休業損害を認めやすかったという部分もあるのかなと思います。

羽賀弁護士
次は、退職後の休業損害や賞与減額の請求の交渉です。退職後の請求ということになると、一般論で言えば、退職の理由が交通事故であると認定されるかどうかとか、勤務先が休業損害や賞与減額の証明書をなかなか出してくれないといった問題があります。
ご紹介する事例の場合、勤務先の就業規則では病気欠勤が1ヶ月までしか認められないところ、ご依頼者は入院が3ヶ月ほど必要になるため、当然1ヶ月以内に復職できないということで、交通事故と退職に因果関係があると主張しました。

羽賀弁護士
賞与については、退職後に一度、当初1回分の減額証明書を書いてもらったんですが、ご依頼者から、退職した勤務先に何度も書類作成を依頼するのはなかなか大変だというお話がありました。そこで、元勤務先に賞与の見込額1年分をまとめて書いてもらい、現在これに基づいて順次支払ってもらっています。

羽賀弁護士
退職後の賞与減額分の請求は、保険会社が、非定型的でこんな請求をあまり見たことないですとか言って、支払を渋っていました。しかし、賞与減額証明や就業規則などの資料を出して、最終的には認められました。

羽賀弁護士
ただしこの事例でも、休業損害や賞与減額の支払について、保険会社から一定の留保がつけられました。それは、一般的には休業損害の支払の際は過失割合を考慮せず支払われることが多いと思うのですが、本件は、過失割合が40%程度見込まれるとして、40%減額した金額を受け取ることになりました。あと、いつまで休業損害や賞与減額を払ってもらえるのかという問題があり、これから怪我が回復していくと、どうなるかなというところはあります。

𠩤口弁護士
退職後の休業損害は、再就職するとどうなりますか?

羽賀弁護士
再就職すれば支払いが止まるか、少なくとも再就職先の給与分を差し引いた金額になると思います。また実際には、再就職が決まらなくても、怪我の回復具合を見て、症状固定前でも打ち切られることが多いと思います。なお、今回の依頼者の方は、怪我が重く退職後再就職はされていません。

羽賀弁護士
非定型な休業損害は、保険会社から認定されたとしても、一定の留保がつけられることが多いように思います。被害者側にとって、非定型な休業損害は全てが思い通りになるとは限らないことに留意が必要と言えます。

羽賀弁護士
最後は、復職後に退職してしまった事案です。ご依頼者は、交通事故でくるぶし辺りを骨折されて、入院・通院が必要になりました。いったん3ヶ月ほど休業され、その後復職されたんですが、やっぱり仕事の負担が重いということで退職されました。示談交渉では、退職後の休業損害が認められるか、認められるとすればいつまで認められるか、という点が問題になりました。当方からは157万円ほど請求しましたが、保険会社からは、復職する前の休業損害は認めるけれども、復職後に辞めた分は休業損害として認めないという回答がありました。

羽賀弁護士
その他の部分も金額が低かったので、交渉を打ち切って紛争処理センターに持ち込みました。その結果、退職後の休業損害については、転職のための必要期間として1ヶ月だけ認定するという斡旋案が出まして、当方も受け入れて解決しました。

吉山弁護士
事故で脊椎の圧迫骨折をされて、今は症状固定したばかりなので、これから後遺障害等級認定をとって、示談交渉を進める予定のご依頼者がいらっしゃるんですが、その方、介護の仕事をしていて、戻ってこられてもその間を穴開けられたらシフトを組まれないから辞めてくれって勤務先に言われて、入院中に退職させられちゃったんですね。ただ、この方は主婦でもあるんで、退職後も家事労働で休業損害の請求ができないかなって、お話聞いてて思ってたんですが。

羽賀弁護士
そうですね、家事労働でいけるんであれば、退職したかどうかってのはあまり関係なく請求できるはずですね。保険会社がその理屈で退職後の休業損害を認めるかは何とも言えないですが。

吉山弁護士
ありがとうございます。
「みお」のまとめ

交通事故によって生じる休業損害にも様々なものがあります。被害者の方が会社員であれば、通常の休業損害と賞与減額の請求は比較的認められやすいですが、その他は弁護士に依頼したとしても認められにくいケースがあることを念頭に置いて、手続きを進める必要があります。弁護士による交渉では休業損害以外の慰謝料等が増額になる可能性があるので、休業損害が問題になっている方もなっていない方も一度弁護士に相談されることをお勧めします。みお綜合法律事務所では、交通事故の示談交渉を数多く行っていますので、一度お問い合わせいただければと思います。
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