制度研究
Vol.28
交通事故と民法改正
事例の概要
2020年4月1日施行予定の新民法について、交通事故の賠償金問題解決に関係する改正点や新制度を挙げて検討します。
議題内容
- 時効期間の変更
- 法定利率・遅延損害金の変更
- 不法行為相殺禁止の規定の変更
- 新制度「協議を行う旨の合意による時効の完成猶予」
議題内容
民法改正により、交通事故の問題処理にあたってどのような変更があるか。また、保険会社との交渉に際しての注意点など。
参加メンバー
澤田弁護士、伊藤弁護士、羽賀弁護士、吉山弁護士、田村弁護士、石田弁護士、山本弁護士、加藤弁護士、松弁護士

羽賀弁護士
今回のテーマは、「交通事故と民法改正」です。平成29年5月26日に民法の一部を改正する法律が成立し、2020年4月1日に施行が予定されています。この改正民法が、交通事故の処理に影響する点を順次簡単にご紹介したいと思います。

澤田弁護士
まだまだ先のことだと思っていたけど、あっという間ですね。

羽賀弁護士
まず最初は、民法改正で「時効期間」が変更になるという点です。人損(人身損害)の損害賠償請求の時効期間が、3年から5年に延長されたところが、交通事故の処理上では大きいと思います。なお、物損(物件損害)の方は3年のままです。

田村弁護士
除斥期間も変わりますね。

羽賀弁護士
はい。ただ、こちらは20年と長い話なので、実務上の影響はほとんどないのではないかと思います。

伊藤弁護士
適用時期はどうなるんでしょうか?

羽賀弁護士
今回一番影響のあるのが人損の短期消滅時効ですけれども、施行される2020年の4月1日時点で、既に3年の消滅時効が完成していた場合は適用しないが、2020年4月1日時点で消滅時効が完成していない場合は、消滅時効は5年になる、ということになります。除斥期間は消滅時効に変更になり、適用関係は短期消滅時効と同じですが、先程申し上げたように、実務上はあまり関係ないかと思います。

吉山弁護士
実務上の処理としてはどのように変わりそうでしょうか?

羽賀弁護士
どの時点で保険会社に債務承認を求めるか、というところが変わってくると思います。また、人損と物損で時効期間が変わってくるので、2つを混同しないよう、注意する必要があると思います。以上が、時効期間の変更点についてです。

羽賀弁護士
次、2番目ですが、「法定利率・遅延損害金」が変更になります。今の法律では5%ですが、新法では3%に変更になります。その後、3年ごとに1%単位で変動する可能性があります。

山本弁護士
適用関係は、事故日で決まりますね。

羽賀弁護士
ですので、実際上の注意点としましては、事故日がいつなのかということを、損害金計算の際逐一確認しないといけない、ということになります。それによって利率が何パーセントになるのかで、ライプニッツ係数が変わってきますので、逸失利益とか将来の介護費とかそういったところの計算が変わってくるということになります。

伊藤弁護士
理論的には、3%になるとライプニッツ係数が上がりますから、逸失利益と将来の介護費は増えていき、そうなると示談金額が増えるはずだということになりますね。

吉山弁護士
その一方で、訴訟になった場合は、基本となる損害額は大きくなるけれども、遅延損害金が3%と小さくなりますので、示談との差は出にくくなりそうですね?

羽賀弁護士
そうですね。ただ不確定要素として、保険会社がどういう主張をしてくるのか、ライプニッツ係数が増えても示談金の支払いが増えないように、示談交渉がちょっと渋くなる可能性があるのではないかと思います。なので、示談解決の方に振れるのか、訴訟解決の方に振れるのか、そこはちょっとわからないな、というところがあります。

吉山弁護士
どれくらい差が出るんでしょうね?

羽賀弁護士
ライプニッツ係数の表を作ってみましたので、ご覧ください。今の5%と、新たに3%になる分と、4%の場合、2%の場合を試算しています。実際の所、むち打ち症などで、労働能力喪失期間が5年となった場合は、ライプニッツ係数はほとんど変わりません。4.32くらいなのが4.57に変わる程度です。10年でも、7.7が8.5になるくらいなので、比較的軽傷の事案で労働能力喪失期間が制限されているものについては、実はそんなに大きな変更にはならないのかなと思います。ただし、例えば、若い人で非常に重傷で、労働能力喪失期間が40年とかになってくると、17くらいのライプニッツ係数が23くらいに変わりますので、これは相当な差が出てきます。あと、介護料が60年必要だとか言うと、18が27になるので、そういった重度の事案で特に大きな差が出てくると思います。

吉山弁護士
なるほど、よくわかりました。

羽賀弁護士
3番目に行きまして、民法改正では、「不法行為の相殺禁止」の規定が変わります。現行法では人損も物損も相殺禁止ですが、それが人損と物損に分かれまして、人損は今まで通り相殺禁止のまま、物損の方は相殺できる、というように変わります。これの適用時期は、やはり事故日で、2020年3月31日までの事故は、旧法を適用。2020年4月1日以降の事故については、新法の適用、となります。

吉山弁護士
ただ、実際、相殺するっていうのは、交通事故のなかでは、ほとんど物損の事案でなされているように思います。実質は今までもほとんど、合意で相殺するか、それぞれ支払うかっていう選択をしていたので、実際上ほとんど変更はないのかなと思います。

羽賀弁護士
私も同感です。あと4番目ですが、民法改正で「協議を行う旨の合意による時効の完成猶予」という制度が新設されました。
消滅時効が完成しそうなときに、これで対応できる場合があるという規定です。
今までは、加害者側か保険会社の方に債務承認してもらうか、催告して訴訟を提起するかという対応だったのが、「協議を行う旨の合意による時効の完成猶予」という制度ができましたので、これで対応できる場合があります。

澤田弁護士
すいません、協議って、どんな協議ですか?

羽賀弁護士
あまり実務的に交通事故では使わないと思ったので、詳しく言及しませんでしたが、赤い本140ページに合意書のひな型があります。こういう合意書を作成して、時効を完成しないようにするという方法がある、という事なんですけれど、実際は、ほとんど債務承認で対応してることが多いと思いますし、保険会社はあまり消滅時効は援用しないという運用をされているようですので、この制度を交通事故で使うことはあまりないのかなと思います。

澤田弁護士
期限を切るって言っても、期限切れたら、また協議しないといけないから。

羽賀弁護士
そうですね。再度やらなければいけないので、結局あまり使い勝手はよくないと思います。

澤田弁護士
さっきの法定利率が3%になる件ですが、適用時期が交通事故日という根拠規定はどの条文になりますか?後遺障害確定日とかじゃなくて、事故日なんですよね?

羽賀弁護士
そうです。新法の419条1項本文で、「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める」とありますので、不法行為時点、つまり事故日ですね。

澤田弁護士
法律に書いてあるんですね。

羽賀弁護士
はい、そういうことです。中間利息控除も同じで、「請求権が生じた時点における法定利率」(新法417条の2、722条1項)となりますので、不法行為時点、つまり事故日、ということになります。時効の更新と完成猶予、これも交通事故に関連することなので、赤い本には一応書いてあるんですけれども、ほぼ交通事故で使うことはないかなと思いますので省略させていただきます。
簡単ではありますが、以上で終わります。何かご質問はありませんか?

山本弁護士
新民法を見ると、「協議を行う旨の合意」を書面で行った場合に、いずれか早い時までってあって、3つ設定がある中の1つに、「合意があった時から1年を経過した時」っていうのがあるんですね。合意から1年を経過した時だから、これ、仮に1年以上先の合意点の設定をした場合であったとしても、1年経過した時に時効が完成するってことになりますね。

羽賀弁護士
そうですね。

澤田弁護士
協議を行う旨の合意をしても1年以内に動かないといけないということですね。

羽賀弁護士
そうですね。1年経過前に再度更新する。再度もう一度協議して猶予するか、裁判する。

澤田弁護士
話し合いは1年以内に終わりなさいってことですね。

山本弁護士
そうですね。

山本弁護士
お互い勘違いして、2年先の終了日を設定した場合とか危ないですね。

澤田弁護士
保険料金が上がるって保険会社が言っていますよね、ライプニッツ係数が上がるからかな。新民法になると支払いが増えるっていう前提なんかな。

田村弁護士
示談であんまり出さないように、保険会社は渋ってくるでしょうかね。基準が上がるわけですから。

澤田弁護士
来年の4月1日施行ですか。

羽賀弁護士
そうですね。2020年4月1日施行です。
「みお」のまとめ

明治以来120年ぶりと言われる民法の大改正に伴い、交通事故問題の処理に関する部分も色々と改正されます。時効年数や利率など、細かい数字の部分も含めて色々変わることがあり、新しい制度等も追加されますので、2020年4月1日の施行日に向けて、ご相談者の皆様を確実にサポートできるよう、準備を進めてまいります。
交通事故に限らず、相続、離婚、債務など、身の回りに関する法律改正について、不安なことがございましたら、遠慮無く「みお綜合法律事務所(大阪・京都・神戸)」にご相談ください。
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