これまでの交通事故ご相談取り扱い実績 交通事故の相談実績8,000件以上 (~2025年)

運営:みお綜合法律事務所

弁護士による交通事故研究会

裁判例研究
Vol.86

交通事故の素因減額

本件の担当
羽賀弁護士

2025年12月27日

事例の概要

交通事故の手続きの中で時折問題になる素因減額について、文献と裁判例を調査しました。

議題内容

議題内容

・身体的特徴による素因減額に関する最高裁判例。

・身体的特徴別の素因減額の判断について。

・素因減額の割合について。

参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士、西村弁護士、原口弁護士、青井弁護士
羽賀弁護士
今回は、交通事故の素因減額についてお話しをします。
資料は、最高裁判決、赤本2009年版、裁判例になります。順番に説明をします。
羽賀弁護士
1つ目は平成4年6月25日の判決です。
民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用し、被害者の疾患をしんしゃくして、賠償額の減額ができるという内容です。
具体的には、個人タクシーの運転手が、車中で仮眠中に一酸化炭素中毒にかかって2週間入院。その1カ月後に交通事故で追突され、頭部打撲傷の怪我をしましたが、その後、痴呆様の行動や理解力欠如等の精神的障害を呈して入院し、事故の3年後に死亡に至ったという事案です。最高裁の判断内容は、損害の5割を減額した原審の判断を是認したというものです。
山本弁護士
精神障害を呈して死亡するに至ったのは、事故による頭部の怪我以外に、事故前の一酸化炭素中毒にも原因があるとして、損害の5割を減額した事例ですね。
羽賀弁護士
2つ目は平成8年10月29日の判決です。
被害者の方が、事故前から頚椎後縦靭帯骨化症に罹患されていて、治療の長期化や後遺障害の程度に影響した事案です。素因減額はすべきでないとした原判決を破棄して原審に差し戻され、最終的に素因減額3割の判断になっています。
羽賀弁護士
3つ目は、平成8年10月29日、同じ日付のもう1つの最高裁の判決です。
こちらは疾患にあたらないレベルの身体的特徴のみがあったという事案で、素因減額としてしんしゃくはしないという判決内容です。
山本弁護士
被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患にあたらない場合は、賠償額を定めるにあたって身体的特徴を斟酌できないとした判例ですね。
羽賀弁護士
判決では、疾患にあたらない身体的特徴を考慮できない理由として、以下の通り判示しています。
「人の体格ないし体質は、すべての人が均一同質なものということはできないものであり、極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別、その程度に至らない身体的特徴は、個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべきだからである」
羽賀弁護士
素因減額は、疾患ごとに素因減額が認められるか、認められるとしたら何割程度になるかについて、一定の傾向があります。赤い本2009年版に、身体的特徴別の素因減額の判断が掲載されています。
まず、先ほどの判決でも問題になった頚椎後縦靭帯骨化症。こちらについては、因果関係が認められた場合でも、ほとんどの場合素因減額が認められており、2~3割減額という例が多く、中には5割減額を認める例もあります。その一方で素因減額を否定した事例もあります。
羽賀弁護士
次に頚椎椎間板ヘルニアの場合。
こちらも先ほどの頚椎後縦靭帯骨化症と似たような判断になっています。すなわち、因果関係が認められた場合でも、ほとんどの場合素因減額が認められており、2~3割減額という例が多く、中には5割減額を認める例もあります。その一方で素因減額を否定した事例もあります。
ただ、例えば後遺障害12級13号が認定されたケースの場合、頚椎椎間板ヘルニアの疾患が、加害行為(交通事故)と共に原因になって損害が発生したと認められない場合、あるいはその立証がない場合という判断もあり得ると思われます。また、認定された等級が12級であれば、素因減額はそんなに大きくならないのではないかというのが裁判官の意見です。
羽賀弁護士
3つ目が脊柱管狭窄の場合。
こちらは後縦靭帯骨化症や椎間板ヘルニアとは少し違って、素因減額を認めていない事例が相当数あります。
被害者の年齢によって考え方が異なり、20代、30代の若い人が脊柱管狭窄というのであれば素因減額されやすいとしても、50代や60代だったら、事故前から痛みがあって通院していたといった事情がない限り疾患とは評価しづらいのではないかと考えられます。また、疾患と評価できるとしても、加害行為(交通事故)と共に原因となって損害が発生したと言えるかは慎重に検討すべきで、そのように認定できないのであれば素因減額はしないし、仮に素因減額が可能だとしても、減額割合はヘルニアの場合よりも低いのではないかと考えられます。
羽賀弁護士
あと、よくあるのが骨粗鬆症です。
骨粗鬆症の場合、高齢の被害者については概ね減額していません。
高齢の方は骨粗鬆症の人が多いため、骨粗鬆症と診断されたとしても減額をしない傾向にあるということです。これに対し、若い方が骨粗鬆症であれば、疾患に該当するとして減額割合も比較的高い傾向にあるというのが裁判官の見解です。
羽賀弁護士
素因減額が問題になりうる事案の難しい点は、そもそも交通事故と現に発生している症状との間に因果関係があるかの点があげられます。
また、因果関係が認められたとして素因減額をするかどうか、素因減額をするとして何割を減額するかも判断が難しいところです。事例ごとの判断なので、減額割合を明確にするのは難しいところです。ただ、抽象的な判断基準であれば、赤本などに記載があります。
記載内容ですが、①疾患の種類・態様・程度、②ⅰ事故の態様・程度、傷害の部位・態様・程度と、ⅱ結果(後遺障害)との均衡等を個別具体的に検討して割合を算定するというものです。具体的な基準を立てるのは困難と記載されています。
羽賀弁護士
新版交通損害賠償算定基準という本にも、一定の記載がありました。
具体的には、①事故の衝撃や受傷の内容・程度が重大である場合には減額されないか、減額率が小さくなる傾向、②素因の寄与の程度(損害の発生・拡大の程度)が大きければ減額率が大きくなる傾向とされていますが、法則性を導くのは困難とされています。
より具体的には、むち打ちで14級、労働能力喪失期間が5年であれば、そもそもが控えめな認定と言えることが多いため、損害の拡大がない等として、減額をしないケースがよくあるとされています。ただし、むち打ち14級でも素因減額されている事案もあります。
むち打ちで14級であれば、認定額がそれほど大きくならないため、減額をするまでもないという発想があると思われます。
山本弁護士
保険会社との交渉でも、素因減額が問題になりそうな事案であっても、後遺障害等級が非該当または14級であれば、素因減額の主張が出てこないことがあります。裁判例と似たような傾向と言えそうです。
羽賀弁護士
次は、私が現在受任している事案に関連してお話をします。
当初は頚椎捻挫・腰椎捻挫等の診断であったものの、ヘルニア・脊柱管狭窄等があり、症状がなかなか治まらず、脊椎固定術を受けるようなことがあります。
羽賀弁護士
仮に、脊椎固定術ではなく、ヘルニアを切除した場合は、後遺障害は14級程度ということが多いと思いますので、素因減額の問題にはなりにくいと言えます。ただし、ヘルニア切除術でも、治療期間の長さや手術費用等の治療費の多寡によっては、因果関係や素因減額の問題になる可能性はあります。そのため、手術費用について健康保険を使った上で、高額療養費の制度も使うなどして治療費を抑え、問題が起こりにくいようにすることが大切です。
羽賀弁護士
一方、脊椎固定術を受けますと、最低でも11級の対象になります。11級となると、損害額が大きくなりますので、保険会社側からは因果関係とか素因減額の主張が出やすくなります。
3個以上の脊椎について椎弓切除術等の椎弓形成術を受けた場合も、最低でも11級の対象になりますので、同じような問題が発生します。
羽賀弁護士
以上のような事案について、裁判例を調査しました。素因減額だけでなく因果関係が問題になっている事案も多く、結論としても因果関係を否定している事案もあります。例えば、事故直後は症状が軽かったものの徐々に症状が出てきたという事案では、脊椎固定術と因果関係はないとされていることがあります。
羽賀弁護士
次に、素因減額の割合がどの程度か調査をしました。
最終認定が11級7号になっている事例が11件あり、事例によって0%から50%とバラバラです。単純平均では20%~30%ほどになります。
個人的には、脊椎固定術が必要になるレベルだと素因の影響がそれなりに大きいように思うんですが、思ったよりは減額していない印象もあります。ただ、そもそも因果関係を否定している事案もありますので、素因減額が問題になる事案で裁判というのは非常にリスクが高いと言えます。
羽賀弁護士
脊椎固定術との因果関係を認めていない非該当または14級認定の事案では、減額率0%の事案もあれば、40%~50%の事案もあります。減額していない事案は、後遺障害等級が低い認定なので、減額をする必要はないと判断されたのではないかと思われます。大きく減額された事案は、症状が徐々に出てきたところが重視されたものもあります。
羽賀弁護士
それから、物損の程度によって減額割合が変わるかどうかに注目してみると、物損が小さいと思われる事案の減額割合は20%~50%と高めになる傾向がありました。
一方、物損が大きいと思われる事案の減額割合は、0%~40%と少し低いように見えます。ただし、物損状況を認定していない事案が多く、また、他の要素によっても減額割合が変わる可能性がありますので、明確な傾向はつかみづらいところです。
ただ、物損が大きいかどうかというのは、素因減額の主張のきっかけになることがよくあるため、考慮要素としては大きいと思います。
羽賀弁護士
事故前に症状や通院歴があったかという点と減額割合の関係にも注目して集計してみました。
事故の直前に通院していた事案は2件あり、40%~50%と高い減額割合になっています。
それから、事故の直前は通院していないが、例えば1~2年前などに同じ部位、例えば腰痛や頚部痛で通院していたという場合。減額割合は0%~40%のものがありました。
また、事故前に通院はないが自覚症状があり、減額割合が20%になったものが1例。
事故前は無症状だったと思われる事案の減額割合は、0%~30%と低めになっているように思われました。
調査対象件数に限りはありますが、素因減額の割合を考える上で、事故直前の症状や通院の有無は、重要な要素になっていると思われます。
羽賀弁護士
最後に、労働能力喪失率の認定ですが、脊椎固定術で11級が認定された事案では、14%か20%の事案が多いです。
脊椎固定術を受けると神経症状が改善されるため、喪失率が低くなるのではないかとも思えますが、圧迫骨折による脊柱変形の場合とあまり変わらない認定と言えます。その理由を考えていくと、神経症状が完全になくなっているわけではない事案も多いですし、脊椎固定術により8級にまでは至らないものの一定の運動障害が出る点も考慮されている可能性があります。
山本弁護士
因果関係が認定され11級になり、素因減額なし、または、ある程度の素因減額にとどまるのであれば、最終的にある程度の賠償になるものと考えられます。しかし、裁判になり素因減額が問題になっているのであれば、結論が出るまでに相当な手続き負担が発生します。
交通事故手続き全般に言えることですが、被害者にとって手続き負担の大きさは無視することができません。手続き負担が可能な限り小さくなるように手続きを進めることも、重要なことだと言えます。

「みお」のまとめ

交通事故では、大きな争点があると解決金額の見通しが立てづらく、低額での解決になるおそれがあり、また、解決までの期間も長くなりがちであるなど、争点があること自体が被害者にとって不利益になってしまいます。そのため、可能であれば、争点が発生しないようにする、争点が生じたとしても深刻な問題にならないようにすることが重要になります。
今回紹介した素因減額の問題も、解決が困難になりがちであるため、被害者側としては素因減額の問題が生じにくいようにすることも必要です。例えば、手術費用について健康保険を使うなどして治療費を抑えれば、保険会社から素因減額の主張が出てくる可能性を一定程度抑えられる可能性があります。

弁護士のご紹介

弁護士吉山 晋市
弁護士小川 弘恵
弁護士羽賀 倫樹
弁護士山本 直樹
弁護士倉田 壮介
弁護士田村 由起
弁護士加藤 誠実
弁護士西村 諭規庸
弁護士石田 優一
弁護士伊藤 勝彦
弁護士澤田 有紀
弁護士𠩤口 柊太
弁護士青井 一哲

増額しなければ
弁護士費用はいただきません!

  • 初回相談無料
  • 着手金無料
  • 弁護士費用後払い
  • 弁護士費用特約利用可能

※弁護士特約の利用がない場合

tel 0120-7867-30
タップして電話をかける

受付時間年中無休/9:00~20:00 
※ケータイ電話からも通話無料!

事務所案内

みお綜合法律事務所 大阪事務所 / JR「大阪」駅直結
〒530-8501 大阪市北区梅田3丁目1番3号 ノースゲートビル オフィスタワー14階(ルクア大阪すぐ近く)
TEL. 06-6348-3055 FAX. 06-6348-3056
みお綜合法律事務所 京都駅前事務所 / JR「京都」駅から徒歩2分
〒600-8216 京都市下京区烏丸通七条下ル東塩小路町735-1 京阪京都ビル4階(京都ヨドバシすぐ近く)
TEL. 075-353-9901 FAX. 075-353-9911
みお綜合法律事務所 神戸支店 / 阪急「神戸三宮」駅から徒歩すぐ
〒651-0086 兵庫県神戸市中央区磯上通8丁目3番10号 井門三宮ビル10階(神戸国際会館すぐ近く)
TEL. 078-242-3041 FAX. 078-242-3041