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弁護士による交通事故研究会

裁判例研究
Vol.8

女子年少者の逸失利益算定おける基礎収入について

本件の担当
加藤弁護士

2018年05月30日

事例の概要

義務教育から大学卒業前後くらいの女性の逸失利益を算定する際の基礎収入について検討しました。

議題内容

・女子年少者の逸失利益算定

・死亡逸失利益と後遺障害逸失利益の差

議題内容

・女子年少者の逸失利益算定にあたって、基礎収入として男女を合計した平均賃金を使用するのは、何歳まで?

・死亡逸失利益と後遺障害逸失利益とでは、その年齢範囲に差があるか?

参加メンバー
澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、羽賀弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士
加藤弁護士
平成30年版の赤本(※注1)掲載の、影山裁判官の講演、「女子年少者の逸失利益算定における基礎収入について」を検討していきたいと思います。
※注1:正式名称は「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」。日弁連交通事故相談センター東京支部発行。カバーが赤いのでこの通称に。交通事故の示談金や損害賠償金の基準に広く用いられている。
加藤弁護士
検討課題の1つ目は、逸失利益の算定にあたって、基礎収入として全労働者の平均賃金を使用する場合、女子年少者の範囲をどう考えるか、ということです。
2つ目は、死亡逸失利益と後遺障害逸失利益とでは、その範囲に差が生じるか、という問題です。
加藤弁護士
現在は、少なくとも義務教育中の女子の逸失利益の算定については、全労働者の平均賃金を使用するという方向で固まっていると思いますので、義務教育が終わった若年女子をどう考えるか、というところが興味深い問題になってくるかなと思います。
加藤弁護士
始めに、問題の所在と、これまでの裁判実務の大まかな流れを、簡単に確認させていただきます。

基本的なことですが、逸失利益算定における基礎収入の認定は、将来得られるであろう、相当程度の蓋然性のある収入額が、証拠等で認定されることが必要になります。

かつては、年少者の逸失利益の算定自体が、そもそも困難あるいは不可能だと判断されたこともありましたが、昭和39年の最高栽判決以降は、賃金センサス(※注2)等から、相当程度の蓋然性のある収入額を認定して、年少者の逸失利益を認める流れになりました。
※注2:労働者の職種、性別、年齢、学歴、勤続年数等による賃金構造の統計調査結果。
加藤弁護士
ただ、昭和40年から50年代の最高裁の判例では、女子の平均賃金を参考にして、逸失利益を算定していたのですが、次第に、逸失利益の金額に男女間で格差が生じることへの問題意識が出て来るようになりました。
しかし、裁判所としては、現実には賃金格差があるという実態もふまえて認定せざるを得ない、という葛藤があり、平成13年には、高裁レベルでも考え方が対立しており、女子の平均賃金を基礎とした判決と、全労働者の平均賃金を基礎とした判決が存在する状況でした。
加藤弁護士
しかし、男女間の賃金格差がこれまでで最小になったという統計結果や、法制度の整備による将来の多様な就労の可能性という点でも、男女間の格差は徐々に狭まっていると言えることから、女子についても、次第に全労働者の平均賃金を使うのが合理的だと考えられるようになり、裁判実務としても一般的になっていったということです。
羽賀弁護士
事故のあった年度の女子労働者の平均賃金を、将来の長期間にわたる逸失利益の算定に使うことは、時代の流れから考えて、理にかなっていない、ということですね。
加藤弁護士
そういうことです。
以上が、今までの大まかな流れになります。
では現在、「女子年少者の逸失利益の算定」がどう取り扱われているか、ということを、事案別に見て行きたいと思います。
加藤弁護士
まず、死亡事案に関しては、将来の多様な就労の可能性を考慮して、男女間の格差をできる限りなくすという観点から、死亡した年の全労働者の平均賃金を用いる、というのが一般的になってきています。
ただしこの場合、男女間の収入格差の調整機能という一面がある、生活費控除率(※注3)を、女子一般に用いられる30%ではなく45%にして、調整を図っているという説明がありました。こうすることで、男子の平均賃金を使用し、独身男子一般に用いられる生活費控除率50%で算定した、男子の場合の逸失利益とほぼ同額になります。

※注3:被害者が生存していれば得られたはずの生活費から差し引く、生存していれば発生したはずの生活費の割合。
羽賀弁護士
逸失利益の計算式は、基礎収入(年収)✕(1-生活費控除率)✕就労可能年数に対応するライプニッツ係数(※注4)ですから、生活費控除率で調整を図っているということですね。
具体的な数字にするとどうなりますか?
※注4:交通事故の後遺障害逸失利益と死亡逸失利益を算定する時に使用する係数
加藤弁護士
実際に、10歳の男子と女子が死亡した場合を、平成27年の賃金センサスで算出した例を見ていただきます。
男子は、男子の平均賃金が547万7,000円で、生活費控除率は50%。
女子は、男女全平均賃金が489万2,300円で、生活費控除率を45%にします。
それぞれ計算すると、男子の逸失利益は3,368万6,156円、女子の逸失利益は3,308万9,144円になります。
羽賀弁護士
ありがとうございます。格差はほぼ解消されますね。
加藤弁護士
過去の後遺障害事案についても、死亡時と同じく、症状固定となった年の全労働者の平均値を使用しているということです。
全労働者の平均賃金を使うのはいつまでかというと、最初に申し上げました通り、
基本的には中学校卒業つまり義務教育修了までですが、個々の事案に応じて、高校卒業時まで使うこともあるというのが、これまでに定着した裁判実務の傾向ということです。
加藤弁護士
さてここから、裁判実務の傾向について、ちょっと突っ込んだ考察をしている部分のご紹介をしたいと思いますが、その前に、あらためて、状況の変化と最近の裁判例をご紹介しておきます。
まず状況の変化としては、男女の格差をなくす法整備がさらに進んで、賃金格差もさらに少なくなってきているという実態があります。
加藤弁護士
最近の裁判例としては、高校卒業までの16歳から18歳位の方の場合でも、女子の平均賃金ではなく、全労働者の平均賃金を採用しているものも一定数あります。
大学進学が決まっている方の場合には、女子大卒や全労働者の大卒の平均賃金を採用した判例もあります。高校卒業後の18歳から25歳位の方に関しては、基本的には学歴に応じた女子の平均賃金を使うんですけれども、実態にそぐわない事情があれば、個別事情に即した判断をしているということです。

では、義務教育終了の方の平均賃金について、年齢別に考察されている部分について検討していきます。
まず、高校生ですが、これまで義務教育が区切りとされてきた理由は、中学校を卒業すると、就職する方もいるし、高校生になれば職業選択の可能性も相応に具体化していると考えられていたので、それなら、個別事情に応じて判断した方がよい、と考えられたためでした。
しかし、今では高校進学は当たり前になっていますし、高校生でも、卒業近くまで、明確な進路が定まっていない方が多いのが実情と思われます。そうすると、現時点では既に、義務教育の修了時点を区切りとする根拠は失われてきているという考え方から、講演をされた影山裁判官のご意見は、「進路が大学進学と具体的に決まっている場合にはそれを前提として考慮するとしても、それ以外の場合には全労働者の平均賃金を使用することを認めてよいだろう」ということです。
加藤弁護士
次は、大学生ですが、進学率が増加しているとはいっても、大学に行かずに就労している方も相当数いらっしゃるということと、高校生と比較すると就労の可能性も相当具体的になっている場合が多いだろうということから、大学生等の場合には、女子の大卒等の平均賃金を基礎とし、それでは実態に合わないという場合に、具体的な事情が存在する場合には、個別の認定によって判断するのが良いではないか、ということです。
加藤弁護士
三番目に、社会人の場合ですが、これは現に就労している以上、若年であっても事故時の職業、稼働状況、現実の収入額を総合して、基礎収入を算定するのが原則になるということですね。
加藤弁護士
最後に、死亡の場合と後遺障害の場合とに違いがあるかということなんですが、
基本的にどちらも全労働者の平均賃金を使うのが一般的であるということは変わりません。
あえて分析すると、死亡事案では、いわばフィクションの逸失利益を算定することになりますので、生活費控除率でバランスをとっている面がありますけれども、後遺障害事案では、事故後の現実の生活状況も見据えて、事情に即した算定が行われているのが実情か、という風におっしゃっています。
吉山弁護士
考察の三番目、社会人のところですけど、現に就労していても30歳未満の女性だったら女性の平均賃金で算定すると考えたら良いですか。
加藤弁護士
そうですね。私もイメージとしては30歳くらいまでだったら、請求としては平均賃金で出すのが多いかなとは思ったんですが、今回そういった30歳くらいまではという言及は特にはなかったですね。
小川弁護士
保険会社に示談提案するときは、30歳くらいまでの方は、平均賃金で逸失利益を請求することが多いでしょうか?
吉山弁護士
30歳くらいまでの方の場合、後遺障害の残存期間が3年とか5年だったら、平均賃金センサスではなく実際の収入を基にすることがありますが、後遺障害の残存期間が長い場合は、平均賃金を基にすることが多いと思います。今後昇給していく可能性がありますので。また、源泉徴収票を見て、平均賃金と実際の収入のどちらが高いか検討することもあります。

「みお」のまとめ

女子年少者の逸失利益算定に使う、基礎収入について検討しました。
女性だから、子どもだから、といった理由で、適正な評価をされないことが多かった、女子年少者の損害賠償ですが、男女間格差をなくそうという社会情勢や、法的制度の整備などもあって、ここに来て、適正な算出方法がほぼ定着したと言えます。
しかしいまだに交通事故の賠償金交渉において、被害者が、女性だから、無職だから、若年だからと、基準以上に低い金額を提示される事例が数多く見受けられます。おかしいな、と思われたら、ぜひ一度、みお綜合法律事務所(大阪・京都・神戸)の弁護士にご相談ください。

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