裁判例研究
Vol.66
高次脳機能障害の概要と後遺障害等級5級~9級の判断
事例の概要
交通事故による高次脳機能障害の医学的解説、症状、認定のポイントの紹介と、5級~9級認定の裁判例を検討しました。
議題内容
議題内容
・脳の損傷部位と高次脳機能障害の関係
・脳外傷による高次脳機能障害症状の特徴
・高次脳機能障害の認定の9ポイント
・後遺障害等級5級~9級の裁判における認定の判断について
・高次脳機能障害の後遺障害等級認定におけるその他の留意点
参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士、西村弁護士、原口弁護士

羽賀弁護士
今回は、交通事故による高次脳機能障害の概要と、最新の赤い本に、高次脳機能障害5級、7級、9級の認定のポイントと言いますか、裁判官としてはどういうところを見て判断しているかという講演録がありましたので、この2点を併せてご紹介したいと思います。

羽賀弁護士
配布した資料1ページ目の図は、脳を上から見た図で、比較的シンプルで分かりやすいものです。その次の図は、青い本2016年版掲載の、医師の講演録の中からの引用です。脳のどの部分がどういう機能を果たしているかという点と、損傷部位によって、高次脳機能障害のどのような症状が出るということが、詳しく書かれていますので、損傷部位と高次脳機能障害の症状が一致しているかとか、今後どういった症状が出そうか、といったところが問題になりそうなときに、こういうものがあると分かりやすいのではないかと思って引用させていただきました。ざっと見てみますと、前頭葉、つまり脳の前の方をやられると、遂行機能障害や注意障害というのが出ますし、真ん中辺りの海馬をやられると記憶障害、左脳の方では失語症というのがあります。右脳の方だと、特徴的なのは半側空間無視、つまり左側の物を認識できないという症状が出ることもあります。

羽賀弁護士
資料の2ページ目には、頭部外傷の国際分類を載せています。順番に見ていきますと、
頭部外傷には、1.頭蓋骨骨折、2.局所脳損傷、3.びまん性脳損傷の3つがあります。1つ目の頭蓋骨骨折は、骨折箇所によって円蓋部骨折と頭蓋底骨折の2つに分類され、2つ目の局所脳損傷には、急性硬膜外血種、急性硬膜下血種、脳挫傷、外傷性脳内出血があります。脳本体がやられてしまうか、脳本体以外がやられるかによって、症状の程度が異なることがあります。3つ目のびまん性脳損傷は、損傷の程度によって症状が異なり、①軽傷脳震盪、②古典的脳震盪、③びまん性軸索損傷という3パターンがあります。①②は、高次脳機能障害が出にくいだろうといわれる症状ですが、③のびまん性軸索損傷になると、高次脳機能障害が出る可能性があります。ただ、昏睡状態の時間によって、高次脳機能障害が出るか出ないかの確率が異なりますし、高次脳機能障害が認定される確率も変わってきます。

澤田弁護士
弁護士が依頼者の方に医学的な話をすることは多くはないかもしれませんが、医学的な部分を押さえているかは弁護士を選択する上で重要なポイントになると思います。後遺障害の認定などの部分で影響が出ることが十分に考えられます。この研究会のページを見て、弁護士選びの参考にしてもらえるとありがたいですね。

羽賀弁護士
ここからは、平成30年の自賠責の報告書をもとに、脳外傷による高次脳機能障害の特徴についてお話ししていきたいと思います。この報告書の概要とポイントについては、5年前に京都事務所の加藤先生から発表いただいたんですが、改めて簡単に説明させて頂きます。
研究会Vol.15

加藤弁護士
自賠責の高次脳機能障害の報告書ですが、何年かごとに改訂されています。もともとは平成12年に作成されたものですが、平成15年、平成19年、平成23年、平成30年と改訂されてきました。今後も新たな事例や医学的知見の集積等により、改訂される可能性が高いと思います。高次脳機能障害の示談交渉の対応をする弁護士としては、自賠責報告書の改訂に留意していく必要があります。

羽賀弁護士
加藤先生、報告書の概要の紹介ありがとうございます。それでは、平成30年の報告書の中身を紹介していきます。
高次脳機能障害の典型的な症状として、①認知障害、②行動障害、③人格変化が挙げられます。
①認知障害は、記憶・記銘力障害、注意・集中力障害、遂行機能障害などがあり、具体的には、新しいことを覚えられない、気が散りやすい、計画的な行動ができない、複数の事柄の同時処理ができない、話が回りくどい、といったものです。
②行動障害は、職場や社会のマナーやルールを守れない、行動抑制ができない、といったものです。
③人格変化は、自発性の低下、気力の低下、衝動性、易怒性、自己中心性といったものです。
①②③の症状に関しては、軽重はあるものの併存することが多くあります。

羽賀弁護士
次に、高次脳機能障害の発症の原因および症状の併発について。びまん性の脳損傷の場合、典型的な症状は先程申し上げた、認知障害、行動障害、人格変化といったものですが、脳挫傷や頭蓋内血腫などの局在性脳損傷が原因という場合もあり得るところで、実際の症例では両者が併存することがしばしば見られます。また、認知機能障害等以外にも、身体性機能障害が発生していることも結構あるので、その辺も注意しなければなりません。

羽賀弁護士
次に、高次脳機能障害の時間的経過、つまり症状の経過ですが、急性期に重篤な症状が出ていても、時間の経過と共に回復していく場合がほとんどです。そのため、後遺障害の判定は、急性期の神経学的検査結果ではなく、経時的に検査を行って回復の推移を見ていく必要があります。症例によっては、回復が認めにくく重度な障害が持続する場合もあります。

羽賀弁護士
さらに、先述の典型的な症状が残った場合、社会生活への適応能力が低下します。就労・就学への制約が生じますし、人間関係や生活管理などの日常生活にも制限が生じて、1~2級であれば介護が必要になります。高次脳機能障害は、色々な理由から見過ごされやすいのが特徴です。本人は気付かないこともありますし、ご家族の方も、治った部分はよく見るけれども、悪い部分はあんまり見ていないというケースもあります。ご本人・ご家族は回復したと考えているケースでも、弁護士側から、こういった症例はないですかというような形で確認をする必要があります。

羽賀弁護士
続いて、同じく自賠責の報告書における、高次脳機能障害の認定についての記載部分をかいつまんでお話しします。認定のポイントの1つ目は、“高次脳機能障害の有無の判断”です。
頭部外傷後の高次脳機能障害の症状を医学的に判断するには、まず、意識障害の有無とその程度・持続時間の把握、そして、外傷後ほぼ3ヶ月以内に完成する脳室拡大、びまん性脳萎縮があるかどうかの画像資料による確認が重要です。障害の実態を把握するには、主治医の先生が記載する後遺障害診断書等はもちろん、家族介護者から得られる日常生活状況報告といったものも重要な要素になります。

羽賀弁護士
2つ目は、“脳の器質的損傷を裏付ける画像検査”です。脳の損傷の有無を判断するには、当初はCTが選択され、有用な検査所見になるので、そこを見ていく必要があります。CTの方は微細な脳損傷が検出できない場合がありますので、CTで画像所見が得られないケースで、頭蓋内病変が疑われる場合は、早期にMRI撮影することが重要です。
MRIの検査についての詳細は資料に書いていますので、またご覧になってください。

羽賀弁護士
3つ目は、“画像所見の評価”ですが、これは先程申し上げたとおりで、当初の頭蓋内病変や脳挫傷の有無の確認だけでなく、経時的に脳萎縮や脳室拡大などが起こっているかどうかなどの画像上の異常所見の有無を把握していくことが重要です。

羽賀弁護士
4つ目は、“意識障害の評価”、つまり意識障害があるかどうかが、高次脳機能障害があるかどうかを判断する重要なポイントになります。端的に言うと、意識障害が重度かつ長時間持続しているほど、高次脳機能性障害が発生する可能性が高く、例えば、意識障害が6時間以上継続する症例では、高次脳機能障害が生じる可能性が高いとされています。

羽賀弁護士
5つ目は、“症状経過の評価”ですが、基本的には、事故直後は最も重く次第に軽症になっていくのですが、そういう経過を見ていく必要があります。6つ目は、“神経心理学的検査”が挙げられます。障害程度の把握には色々な検査があるので、そういった検査を受ける必要があります。ただし、これらは知能検査で、行動障害・人格変化を評価するものではないので、これらの検査結果のみで等級の判断がされるわけではありません。具体的な検査名は資料に記載しています。

羽賀弁護士
7つ目は、“労働能力の解釈とその評価” です。高次脳機能障害では、障害認識能力、家庭や職場への適応能力、生活の困難さ、支援の有無などの複数の事柄が、労働能力に影響及ぼします。また、認知障害の部分だけではなくて、行動障害、人格障害を原因とした社会的行動障害を重視すべきであって、社会的行動障害があれば、労働能力を相当程度喪失していると考えられます。
具体的な留意事項として自賠責は5項目挙げています。
①知能低下や記憶障害は、当然、就労能力を低下させるものになります。しかし、知能指数が正常範囲であったり、通常よりも高い、例えば100が標準だとして100より高い、というケースでも、行動障害、人格障害に基づく社会的行動障害によって対人関係の形成等に問題があり、社会生活・日常生活に問題が生じているのであれば、相応の等級評価がされるべきである。
②就労が困難である一方、TVゲームやインターネットはできるということが日常生活報告書に記載されている場合、これだけをもって、就労可能と判断すべきではない。
③学生の場合と、既に就職している人の違いには注意が必要である。学校生活での適応能力と、職業生活に求められる職務遂行能力には違いがあり、具体的には、学校では対人関係の選択が可能だが、職場ではそこが難しい。子どもについて将来の就労能力を推測する場合、成績の変化以外に、非選択的な対人関係の構築ができているかを勘案する必要がある
④一般の交通機関が使えるからといって、必ずしも労働能力を喪失していないとはならない。脳外傷の画像所見が軽微であっても労働能力が相当失われているケースがある。
⑤18歳未満の被害者で受傷前に就労している場合は、一般の就労者と同様に取り扱う。

羽賀弁護士
最終的な後遺障害等級は1級から9級までありますが、自賠責において「補足的な考え方」というのがあり、それに基づいて、後遺障害等級が判断されます。その「補足的な考え方」の中身ですが、例えば9級は、一般就労を維持できるが問題解決能力などに障害が残る、といったものです。7級は、一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどで、一般人と同等の作業を行うことができない。5級は、繰り返し作業などに限定すれば一般就労も可能。ただし、新しい作業の学習ができないなどの一般人との差がある、という内容です。

羽賀弁護士
この「補足的な考え方」を見ますと、労働能力喪失率から考えると、後遺障害等級が比較的高く出やすい印象を持ちます。例えば、7級は労働能力喪失率が56%ですが、「補足的考え方」では、「一般就労を維持できる」というのが基本的な考え方になります。ただ、一定の支障があるとはいえ、一般就労を維持できるのであれば、56%も労働能力を喪失しているのかという疑問がないわけではありません。そのあたりが理由になって、自賠責で認定された後遺障害等級と裁判での認定が異なることがあるようにも思えます。
2010~2016年度の自賠責の1級から9級までの認定状況については、資料に表を載せていますので、後でご確認いただければと思います。

羽賀弁護士
8つ目は、高次脳機能障害の“症状固定時期”です。基本的には、1年以上経ってから、症状固定・後遺障害診断書作成になります。ただし子どもの場合は、受傷後1年経過しても後遺障害の等級判断は難しい場合があります。1~2級の場合なら、非常に重いので認定はできると思われますが、3級より軽度の場合には、適切な時期まで症状固定時期を遅らせることも考えられます。まだ保育園や幼稚園にも行っていないのなら、少なくともそこに入ってどんな感じなのかとか、保育園・幼稚園くらいの年齢だったら小学校へ行ったらどうなるかといったところまで見た方が、より適切な後遺障害等級の認定がしやすいと思われます。

羽賀弁護士
高齢者の場合も、基本的には1年経ってからになりますが、症状固定後一定期間経過して状態が安定した時点の障害程度をもって障害等級の認定が行われます。

羽賀弁護士
9つ目は、他覚的所見がなく、“高次脳機能障害と判断ができないケース”です。この場合は、高次脳機能障害としては認定されないけれども、場合によっては、頭痛、失調・めまい・平衡機能障害、受傷部位の疼痛等で等級認定がされるケースはあります。

羽賀弁護士
自賠責保険における高次脳機能障害の考え方は以上の通りです。交通事故の手続きでは、症状固定をしたら自賠責調査事務所による後遺障害等級認定を受けることになりますし、高次脳機能障害であっても示談で解決する事案の方が多数と思われますので、交通事故の依頼を受けた弁護士としては、自賠責の考え方を踏まえて後遺障害等級認定を行う必要があります。

吉山弁護士
インターネットでは、裁判における考え方を前提に記載されているページが多いと思いますが、交通事故は弁護士に依頼しても示談で解決できるケースの方が多数です。裁判の考え方と保険会社の実務は類似しますが、異なる部分もあります。そのため、裁判における考え方を押さえる必要はありますが、自賠責の考え方、任意保険の実務を押さえて事件処理を進めることがより重要ですね。

羽賀弁護士
ここまでは、自賠責の後遺障害等級認定の話でしたが、ここから、赤い本の裁判官の講演録を基に、裁判例の検討をしていきたいと思います。前提となる自賠責・労災における高次脳機能障害の等級認定方法ですが、自賠責保険の方は先程、高次脳機能障害の認定のポイントの7つ目(労働能力の解釈とその評価について)で解説したとおりなので割愛します。
労災保険の方は、自賠責とは異なる認定方法になり、①意思疎通能力、②問題解決能力、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力の4つの能力の喪失の程度による等級評価を行います。

羽賀弁護士
この自賠責と労災の等級認定の関係ですけれども、自賠責でも労災の認定基準も参照しています。ただし労災については、基本的に勤労者が対象になるのに対して、自賠責では、雇用関係下にある人だけではなく、就労していない高齢者や子どもも含まれるということで、労災基準とは必ずしも一致しません。そのため、労災基準を適宜修正しつつ、自賠責保険と労災保険における障害評価に相違が生じないように、自賠責の「補足的な考え方」を参考に等級評価を行い、更に労災保険の認定基準による評価を行って、認定の妥当性を検証するのが自賠責の考え方です。

羽賀弁護士
裁判では裁判官の考え方でバラバラになります。実際どういう形で認定しているかということですが、①自賠責の認定基準で考える、②労災の認定基準で考える、③自賠責と労災の両方の基準によって判断する、④単純に自賠責の認定が妥当だと判断する、というように色々あります。

羽賀弁護士
講演録の裁判例の検討内容を紹介していきます。検討対象は5級~9級相当を認定したもので、時期はここ10年くらい。
後遺障害等級と労働能力喪失率のいずれも争いがない案件は除外して、対象案件は71件あります。
5級を認定したもの、7級を認定したもの、9級を認定したもの、それぞれの事案を自賠責と比較して表にまとめて、資料の中に掲載しています。
例えば、裁判所の方では5級を前提とした認定について自賠責と比較した場合、自賠責より上位の等級として5級を認定した事案というのはほとんどありません。

羽賀弁護士
自賠責より高い等級を認定している裁判例は71件中2件だけで、これらは元々、自賠責で高次脳機能障害が否定され、裁判所が高次脳機能障害の認定をした事案です。逆に、自賠責よりも低い認定をしているケースは19件あります。判決に至った事案なので、比較的争いが大きいケースが多いと思われますが、それでも71件中19件なので、低く認定されている事案が結構多いように思います。また、自保ジャーナルを見ると、等級を下げた案件はよく見ますが、等級を上げた案件はほとんど見ない印象がありますので、一般論としてはということですが、高次脳機能障害で裁判をする場合は、自賠責の後遺障害等級が維持されるかどうかという点を、かなり留意しておかないと危ないのかなと思います。

羽賀弁護士
後遺障害等級認定に当たって、障害の残存した脳機能の種類・程度、知能検査の結果との関係をどう判断するかということですが、基本的には自賠責の「補足的考え方」と労災の「高次脳機能障害の基準」を参照して、等級が認定されます。認知機能がそれほど重篤でなくても、社会行動能力に制限がある場合には、相応の等級評価はする傾向があります。知能検査については、自賠責でも同様ですが、特定のIQであれば特定の等級認定になる傾向があるとまでは言い難いものの、少なくとも神経心理学的検査の方に問題があれば、記銘力や注意力の低下の有無という部分での認定は可能とされています。以上から、障害の残存した脳機能の種類・程度、知能検査の結果との関係についての基本的な考え方は、自賠責保険と裁判は同じと言えます。

羽賀弁護士
次は、「被害者の属性(職業・年齢)」です。会社員や個人事業主、会社役員ならどうなるか。5級が認定された事案は10件あり、パターン化した繰り返し作業ならできる、職業訓練所であれば作業が可能、軽易な労務を扱う部署に配置転換されても十分な改善ができなかった、といったケースがあげられています。最後のケースは、自賠責の「補足的考え方」をベースにしていると言えそうです

羽賀弁護士
7級の事案は会社員等で15件あり、そのうち10件は復職して、断続的にではあるが就労しています。そのうちの5件は、復職後、配置転換や降格といった役職の変更があり、業務状況の改善が見られ、7級に認定されています。7級についても、自賠責の「補足的考え方」に近い認定をしている裁判例が多いと言えます。

羽賀弁護士
9級の事案は9件あり、比較的単純な測量補助業務に就いてトラブルを起こすことなく継続できているケースや、復職の際に、職場に対して労務の制限が必要ということは説明していないケース、職場に高次脳機能障害の申告をしていないケースなどがあります。就労における問題はそんなに大きくないだろうということで、9級と認定されており、これも自賠責の「補足的考え方」に近い認定している裁判例が多いと言えます。

羽賀弁護士
裁判官のまとめとしては、復職を含む断続的な就労の有無、業務内容、勤務先での問題行動、職場からの配慮の有無・程度等を考慮して、復職できないとか、単純作業に従事しているなら5級。復職後の役職変更で、業務状況の改善がみられれば7級。職場監督の配慮がなくても業務継続ができれば9級といったところです。裁判例における基本的な基準は自賠責と類似すると思います。そのため、自賠責の認定通りの事案が71件中50件と多数を占めますが、19件は自賠責の認定より下げており、裁判所の認定は自賠責より厳しい部分があることがうかがわれます。
個人事業主・役員等は8件ありますが、会社員等の場合と考え方は同じです。

羽賀弁護士
次は、主婦の場合です。兼業主婦の場合は、就労状況をもとに等級認定が可能ですが、専業主婦の場合は、職務状況の証拠が何もなく、家事への影響の証拠は日常生活状況報告だけという、客観性が乏しい部分もあるので、等級認定は難しいケースがあるということです。確かに、家事への影響について客観性を担保するのは難しい部分があります。ただ、高次脳機能障害では「神経系統の障害に関する医学的意見」を主治医の先生が作成します。その書類は客観性の高いものと言えるため、それに矛盾しない範囲で等級を検討していくということはあると思います。
裁判例としては、5級認定が3件で、その内2件は日常生活において時に援助や介助を必要とする状態であることを前提としています。7級認定は、日常生活動作には問題はないが就労はできないとか、軽易な労務だったら復職可能だといった場合。9級になると、繰り返し作業とは言えない電話オペレーター業務にフルタイムで復職し、事故前と同程度の給料を受け取っているといったケースもある、といったところです。兼業主婦の場合、復職の有無、業務内容、フルタイム勤務の可否等により、7級と9級が区別される傾向にあるようです。

羽賀弁護士
被害者の属性のうち、年齢がどう考慮されるかですが、自賠責の考え方と同じということになると思います。小児の場合、症状改善や就労における対人関係構築の可否などを含む将来予測の判断を求められますが、裁判例の傾向は、将来の症状の改善可能性に期待して低い等級を認定することには慎重であると考えられます。
裁判の場合、症状固定をしてから判決に至るまでに時間があり、症状固定後の状況も相当程度反映されることになります。小児の場合、比較的高い等級が認定されていることが多いですが、高校・大学に進学して優秀は成績を収めていることなどを考慮して、自賠責より低い等級が認定されている事案もあります。

羽賀弁護士
年齢が高校生以上になってくると、症状固定後に仕事に就いているというケースもあるので、そういったところも踏まえて判断することになります。実際に就職してきっちり就労できているんだったら、自賠責より後遺障害等級が低くなることも考えられます。

羽賀弁護士
それから、事故前後の被害者の生活・就労・就学の状況のどんな事実が考慮されるかですが、それぞれについて具体的にかなり細かく挙げられていますので、後で資料の方を見て頂ければと思います。

羽賀弁護士
高次脳機能障害の裁判の場合、保険会社が反証として、『行動調査動画』というのを撮影して出してくることがあり、 日常生活状況報告書と、この動画の内容が整合しない場合には、下位の等級が認定されるというケースがあります。

伊藤弁護士
反証としての『行動調査動画』っていうのは、誰がどんな風に撮るんですか?探偵さんとか、保険会社の調査部門の人とかが、隠し撮りをするんですか?

羽賀弁護士
当事務所のご依頼者の場合は、具体的にそういうことをされた例はないんですが、おそらく隠し撮りだと思います。

羽賀弁護士
さらに、資格の取得や、自動車の運転といった話も挙げられていまして、特に自動車運転について、運転は相当色々な認知機能が高くないとできないので、運転ができるのであれば、あまり高い後遺障害等級が認定できませんという考えになります。運転が可能なのであれば7級や9級くらいはあるけれど、5級というのはなかなか認定されていないということかと思います。

羽賀弁護士
次に、裁判では自賠責の認定はどれくらい重視しているか、という話ですが、裁判官は、基本的には自賠責の認定を尊重する傾向にはあると記載があります。ただ、やはり、感覚的には、自賠責が若干高い等級を付けてくる印象があるのが正直なところで、自保ジャーナル掲載の判決を見ていても、2級繰り下げて認定しましたといったケースが結構出ている印象があります。そして、裁判例の傾向としては先程お話ししたとおりで、自賠責と同一の等級認定が多いけれども、等級を上げた事例は2件だけ、下げた事例は19件となっています。

羽賀弁護士
それから、労災認定との関係についても裁判官の記載がありましたけれども、一般論で言うと、労災の方が自賠責より有利な後遺障害等級認定をする傾向があるとの指摘があります。ただ、高次脳機能障害については、意外と自賠責が緩い認定になっている印象もあります。自賠責が認定した等級について、示談交渉で任意保険会社が疑問を持ってくるケースもありますし、実際に裁判例では争われているケースがかなりの件数あります。後遺障害等級を維持するという観点では、紛争処理センターは訴訟移行要請が認められなければ自賠責が認定した等級を維持しますので、紛争処理センターにおける斡旋・裁定は検討する価値があると言えます。

羽賀弁護士
裁判の場合、カルテも検討され症状が軽いことうかがわせる記載があるケースもあることや、びまん性軸索損傷では、軸索部分は細胞体と比較すると回復しやすく、時間の経過とともに軸索が修復・伸長するため、裁判を進めて時間が経過するとともに高次脳機能障害が軽くなることもあること等から、後遺障害等級の認定が厳しくなることがあります。後遺障害等級の認定が変わると示談金・賠償金が大きく変化します。例えば、5級から7級に認定が下がると、賠償金の大部分を占める逸失利益の労働能力喪失率は79%→56%、後遺障害慰謝料は1440万円→1030万円となり、全体として30%程度減額になります。また、7級から9級に認定が下がると労働能力喪失率は56%→35%、後遺障害慰謝料は1030万円→670万円となり、全体として35%程度減額になります。以前から高次脳機能障害について、自賠責より裁判の方が等級認定が厳しい傾向があると考え、裁判に移行するのは慎重にしていましたが、今回の裁判官講演録を見てやはり裁判への移行は慎重にする必要があると改めて感じたところです。

羽賀弁護士
あと、私の方で「高次脳機能障害の後遺障害等級認定におけるその他の留意点」というのをまとめました。高次脳機能障害の場合に、総合判断の対象になる症状や、他に認定される可能性のある症状についてまとめたものです。高次脳機能障害の場合、身体性機能障害つまり、手足が痺れるなどの症状があるケースがあります。その場合、高次脳機能障害と身体性機能障害の程度、介護の要否・程度を踏まえて、総合的に等級判断がされます。

田村弁護士
一般的な併合の方法で、等級を決めるのではないんですね?

羽賀弁護士
そうですね。例えば、高次脳機能障害が5級、身体性機能障害が7級である場合、併合の方法を用いて3級とするのではなく、全体病像として、1級・2級・3級のいずれかを認定することになります。身体性機能障害もある場合は、認知障害、行動障害、人格変化だけでは後遺障害の程度を測れなくなります。

羽賀弁護士
後は、てんかんが併発するケースがあり、この場合も総合判断なので、高次脳機能障害の認知行動障害、行動障害、人格変化だけでは後遺障害の程度が測れなくなります。てんかんの場合、発作が年に何回ありますといったことで、少なくとも何級が認定されるという推測は可能かなと思います。
その他で気をつけておきたいのが、味覚障害・嗅覚障害や、眼の障害、例えば視野が欠けるとか複視など。さらに、醜状障害・関節の機能障害とかでも等級が繰り上がることが結構ありますので、そういった所にも注意して、後遺障害等級認定申請をするのが重要かと思います。

吉山弁護士
味覚障害・嗅覚障害・醜状障害の併合があっても、労働能力喪失率(後遺障害逸失利益)には影響しづらい場合もありますが、後遺障害慰謝料が数百万円ほど増額になる可能性があります。また、目の障害や関節機能障害では、後遺障害慰謝料のみならず、後遺障害逸失利益にも影響が出やすいと言えます。そのため、高次脳機能障害だけではなく他の障害の有無についても確認できれば、示談金・賠償金に大きな差が出る可能性があります。他の障害の可能性というのは、解決実績が豊富であるからこそ気が付きやすい部分かもしれないですね。
「みお」のまとめ

交通事故が原因で高次脳機能障害の後遺障害が残ると、被害者はもちろんご家族の人生にも大きな影響を及ぼしかねません。適正な示談金・賠償金を得るためには、適正な等級認定を得る必要がありますが、認定の判断基準が複雑で、保険会社、自賠責保険、裁判所で考え方が異なるところもあり、医学的にも絶対的基準がないので、解決に時間がかかったり、適正な賠償金を得られない場合もあります。みお綜合法律事務所では、高次脳機能障害の医学・認定システム・判例の最新情報収集と研究に努めており、解決経験も豊富ですので、交通事故で脳に損傷を受けた方や、高次脳機能障害の診断を受けた方は、ぜひ一度ご相談ください。
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