制度研究
Vol.15
自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について
事例の概要
損害保険料率算出機構により取りまとめられ、7月に公開された「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(報告書)の概要とポイントを紹介しました。
議題内容
- 高次脳機能障害の認定システムの現状と損害調査方法の見直しについて。
議題内容
- 現行システムとどう変わったか、変わらなかったか。
参加メンバー
吉山弁護士、羽賀弁護士、小川弁護士、田村弁護士、山本弁護士、加藤弁護士

加藤弁護士
損害保険料率算出機構によって取りまとめられた「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」の報告書が、7月になって損害保険料率算出機構のホームページで公表されましたので、ご報告させていただきます。

加藤弁護士
簡単に、概要だけ紹介させていただきたいと思います。現行の報告書は平成23年に出され、7年近く経つため、去年の段階で国交省から見直しについての要請文書が出されていたので、今回の新しい報告書の公表に至ったという経緯がございます。
結局どうなったかといいますと、報告書の中の、『当委員会における検討・整理』という項目でまとめられていますので、この内容を簡単にご紹介したいと思います。

加藤弁護士
まず、高次脳機能障害の要件に関して、「脳の器質的損傷(※2)を裏付ける画像検査」について、今の判断基準を見直すべきかどうかということが検討されましたが、結論としましては、脳の器質的損傷の判断にあたっては、CTまたはMRIが優良な検査資料であるという従来の考え方に変更はないということになりました。つまり今まで通りということです。※2:エックス線写真、CT画像又はMRI画像で確認できる損傷のこと。

山本弁護士
DTIとかSPECTとかはどうですか?

加藤弁護士
DTIとかfMRIとかMRスペクトロスコピー、SPECT、PETなどの新しい検査方法についても検討が行われたようなんですけれども、こちらについては未だ研究段階ということで、これらの検査のみで脳の器質的損傷の有無ですとか、高次脳機能障害の直接的な判断材料として、まだ確定的には断定することはできないということで、これらの画像が決定的な要素になるというところまでは、今回は至っていないということになったようです。

加藤弁護士
次に、「画像所見の評価」についてですが、これはもう特段目新しい内容はないかなあと思うんですが、一つ、外傷直後からの経時的な把握が重要です、ということを少しふれられていましたので、こういった視点も必要かなという気がいたします。

加藤弁護士
「その他運用における留意点等」でも、結局あまり前回の報告書から内容が変わっていません。その理由としては、被害者のみならず、加害者も納得させる根拠に基づいた判断が、特に自賠責保険では求められますので、脳外傷による高次脳機能障害かどうかという判断においては、現時点ではっきり根拠が認められた医学的資料や判断手法を重視せざるを得ないんだということが述べられております。

加藤弁護士
続いて「現行認定システムの充実」という項目で、今回この見直しで何が変わるのかということについて触れているんですけれど、まず、高次脳機能障害事案として審査の対象と考える事案を、少し拡大というか充実させましょうという提案がされています。具体的に言いますと、MTBIとの診断がなされている事案には、実は、高次脳機能障害が含まれている可能性がありますので、その可能性のあるものが審査対象から漏れることがないように、審査対象として明示している事案の中に、MTBIとか軽度外傷性脳損傷とかいう診断名を例示として付け加えた上で、MTBIや軽度外傷性脳損傷の診断がなされている事案については、認定困難事案として、高次脳機能障害事案同様に本部で審査認定することが適当であるという風に結論づけています。
ですので、今後は、高次脳機能障害という診断名が出ていなくても、こういったMTBIとか軽度外傷性脳損傷という診断名がついていると、自賠責の認定では高次脳機能障害の審査に回されるのかなということになってまいります。ただ、審査に回されるとしても、結論としてMTBIで高次脳機能障害が認定される事案は、個人的には少ないのではないかと思います。

加藤弁護士
次に、「より的確な等級評価に向けた調査様式等の充実」という項目を見ますと、今、高次脳機能障害の資料は、頭部外傷後の意識障害の所見ですとか、神経系統の障害に関する医学的意見という書式で揃えているかと思うんですけれども、その様式が一部改まるようです。具体的にはちょっとまだどういった書式になるのかってのは私は把握してないんですけれども、もしかしたら今後、高次脳機能障害を申請する場合には、この書式で書いてくださいと言われるのが出てくるのかもしれません。あと、必要に応じて、サマリーですとか診療情報提供書の提供を、自賠責としても病院に求めていく可能性がありますということにもふれています。

加藤弁護士
あとは「保険請求におけるその他の課題」ということで、高次脳機能障害者の労働能力をどういう風に評価するかということに、具体的にふれられていたり、症状固定の考え方、中でも小児や高齢者の場合の考え方が示されていますので、こちらもご確認いただけたらと思います。一応この報告書については、今後の高次脳機能障害の認定に直接かかわってくるところかと思いますんで、一通りご一読いただけたらと思って、今回、情報提供させていただきました。取り急ぎになりますが、私からの報告は以上です。

吉山弁護士
ありがとうございます。様式がちょっと変わるかもしれない、変わるけれども具体的な判断基準なんかは今まで通りっていう感じですかね?

加藤弁護士
そうですね。今まではダメだったけれども、今後はこれを出せれば変わるっていうのはなさそうな感じです。

吉山弁護士
羽賀先生、何か今まで、画像所見はちょっと厳しいけども、症状なんかで認定された経験なんかございますか?

羽賀弁護士
私の事案で画像所見なしで高次脳機能障害が認定された事案はないです。

吉山弁護士
山本先生は今まで、画像所見だったり意識障害はなかったけれど、高次脳機能障害に認定されたケースとかありました?

山本弁護士
まったくこれらの要件を欠いていて認定されたというのはないですね。ただ意識障害のレベルの問題に関しては、最近ちょっと甘いのかなという印象はありますね。何ていうか、意識障害のレベルの推移を見ていたら、認定は厳しいかな、といった案件でも、認定されたことはあります。ただ、画像が全くないケースで認定された経験はないですね。
「みお」のまとめ

交通事故による高次脳機能障害の後遺障害認定は、賠償金額を左右し、被害者やご家族の生活に大きく影響しますが、認定要件が複雑・あいまいで、医学的判断も絶対的なものがないため、保険会社との交渉において解決が長引いたり、適正な補償が受けられない原因になったりします。また、国交省は一定期間ごとに、損害保険料率算出機構に、同機構が策定した「高次脳機能障害認定システム」の見直しと充実を依頼しています。今回の改訂でシステム自体が飛躍的に改革されたわけではありませんが、医学の研究・発達により、少しずつ改善されていますので、交通事故で高次脳機能障害を負われた方は、制度改定や最新の医学的知識の情報収集に努めている【みお綜合法律事務所(大阪・京都・神戸)】の弁護士に一度ご相談ください。
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