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弁護士による交通事故研究会

制度研究
Vol.56

交通事故被害者が破産した場合の示談金の取扱い

本件の担当
羽賀弁護士

2022年07月07日

事例の概要

交通事故被害者が破産した場合の示談金の取扱いについて

議題内容

交通事故被害者が破産した場合の示談金について文献をもとに検討するとともに、個人再生申立前に交通事故被害に遭った事案と、加害者が自己破産を申し立てた事案を紹介しています。

議題内容

・破産手続開始決定前に交通事故が発生した場合の損害賠償請求権の項目別の取扱いについて

・破産管財人による示談交渉

・自賠責保険に対する保険金請求権

・管財人として行使できる損害賠償請求権の範囲

・自由財産拡張の範囲について

・破産と任意整理等の手続き選択

・事例紹介

参加メンバー
羽賀弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士、西村弁護士
吉山弁護士
今回のテーマは「交通事故被害者が破産した場合の示談金の取扱いについて」です。加藤先生から参考事例の紹介がありますが、まずは羽賀先生からお願いします。
羽賀弁護士
テーマに沿って文献をいくつかチェックしました。参考文献は、『破産実務Q&A220問』『破産管財手続の運用と書式 第三版』『破産管財実践マニュアル 第二版』『はい6民です お答えします第二版』『事業再生と債権管理№163』などです。
記載が一番充実していた、『破産実務Q&A220問』から見ていきます。
羽賀弁護士
交通事故被害者が破産した場合に、示談金がどうなるかについては、まず、破産手続き開始決定と交通事故発生の前後関係が問題になります。
破産手続き開始決定後に交通事故が発生した場合は、示談金は全て被害者の手元に残すことができます。
問題は、破産手続き開始決定前に交通事故が発生した場合です。破産前に交通事故が発生していますので、交通事故の示談金・賠償金は、破産手続きにおける配当に充てられ、被害者の手元に残せないのではないかという問題があります。
羽賀弁護士
ただ、交通事故の損害については、被害者の生存・一身専属権に関わる側面・被害者の将来にわたる自由財産に影響する問題があるので、個別の検討が必要になりますし、実質的なところで、重度後遺障害の事案では、全額が破産財団に帰属するとなると、破産者の経済的再生が困難になる一方で、破産債権者に対して、合理的な期待を超えた利益を与える事になりかねないという問題意識があります。
実際の取扱いは、損害の項目毎に検討することになります。
羽賀弁護士
まず、治療費は、保険会社から医療機関に直接支払われるため、破産管財人が破産財団に取り込む事例はほとんどないと考えられます。そうではない場合でも、基本的に自由財産と判断するか、自由財産拡張で対応できるだろうという結論です。
介護費用や入院雑費についても、基本的に自由財産ないし自由財産拡張で対応可能と考えられます。
すなわち、保険会社から直接払われる治療費等は基本的に問題が生じることはなく、被害者が立て替えている治療費も、保険会社から支払いを受ければ、基本的に、手元に残せることになります。
羽賀弁護士
次に、休業損害や逸失利益です。この辺りから色々問題があるんですが、これらは、差し押さえ禁止財産には当たらないので、金銭債権として破産財団に属することにならないかという問題があります。ただし、これらは、破産者の将来の自由財産の減少を補填するものなので、考え方としては、全部または一部について、自由財産の拡張が柔軟に認められるべきで、個別事件ごとに具体的な金額が判断されることになります。
全てが被害者のもとに残らないとしても、ある程度は手元に残せるというケースが多いということだと思われます。
羽賀弁護士
それから慰謝料ですが、これも、明文上は差押え禁止財産ではないですが、行使上の一身専属性という問題があります。結論としては、一身専属性がある状態での慰謝料請求権は自由財産、具体的には、金額が定まっていない時点では、自由財産になります。一方、一身専属性が失われた段階、すなわち金額は確定した段階では、破産財団に帰属することになります。ただし、慰謝料は、被害者の人格的価値の毀損に対する損害の填補であるので、その全てを破産財団に帰属させるのが妥当ではなく、かなりの割合で自由財産の拡張が認められるべきではないか、と考えられます。
慰謝料は、ある程度の割合で被害者の手元に残せるケースが多いということと思われます。
羽賀弁護士
物損請求権に関しては、破産財団に帰属します。破損しなければ、当該資産は破産財団を構成したはずで、その損害を填補するものであるため、という理由からです。
羽賀弁護士
損害項目別の考え方は以上のとおりです。次に、破産管財人が、具体的にどういった流れで手続きを進めるかの問題があります。
破産手続きの開始時点で、示談金・賠償金の額が確定している場合には、破産管財人は財団帰属性や自由財産拡張の範囲について、裁判所や申立代理人と協議しながら回収を図ることになると思われますし、示談金・賠償金の額が確定していない場合には、破産管財人が、保険会社と示談交渉を行うことになります。
羽賀弁護士
慰謝料は、行使上の一身専属性があるので、金額については、破産者や申立代理人と連絡を取りながら交渉進めることになります。
行使上の一身専属性があるので、示談交渉に消極的な破産者の場合には、管財人は行使できません。ですから、その場合には、管財人から、交通事故被害者(破産者)に対し、説明義務があるとか、自由財産拡張が一定程度認められるということを説明して、協力を促すという方向性があるのではないかとされています。
羽賀弁護士
また、自賠責に対する保険金請求権がどうなるかという問題点があります。これに関しては、自賠法の18条で、差押え禁止財産に当たります。
なお、『Q&A』では、もう少し詳しい検討がされています。
羽賀弁護士
これで一通り検討したことになりますが、他の文献にも色々と記載がありましたので、紹介して行きます。
まず『破産管財手続の運用と書式第3版』では、賠償請求権は、拡張の相当性が認められやすいだろうというくらいしか書いていません。そのため、具体的な取り扱いはよく分からないと言えます。
『破産管財実践マニュアル第2版』には、財産的損害に基づく賠償請求権は、破産財団に帰属しうる財産で、自由財産拡張の面でも、拡張適格財産にはなっていないという前提で、休業損害や逸失利益は、財団帰属を特に問題とされない給与の代替的性格を有していることからすれば、自由財産拡張を認めるべきではないかとされています。
また、被害者の治療に直接関係する、介護費用や入院雑費も拡張が認められるべきだろうとされています。
慰謝料請求権は、行使上の一身専属権であるため、金額が確定するまでは破産財団に属しません。破産手続き中に金額が確定すれば、破産財団に帰属することになるので、自由財産拡張の可否の問題になるとされています。
その上で、基本的には拡張がかなり認められるべきではないか、財団から放棄という形で処理しても良いのではないかとされています
羽賀弁護士
次に『はい6民です第二版』ですが、そんなに大きくは取り上げられていません。例えば、自賠責への請求権は法定自由財産に当たるという位で、『Q&A』のような細かい検討は記載されていません。
金額の特定されていない慰謝料請求権は、一身専属性のある権利として自由財産になると記載されています。
治療費や休業損害については微妙な書き方になっていて、本来破産者に直接補填されるべき性質が強いということで、これを債権者に対する引当財産とすることには疑問も残る、という記載です。
実際の運用としては、破産財団から放棄したというような事例とか、不可欠性の要件に関わらず99万円を超える自由財産拡張を肯定した事例もあるということですが、具体的な事例は紹介されていません。
羽賀弁護士
『事業再生と債権管理』には、①管財人はどこまで損害賠償請求権を行使できるか、②自由財産拡張をどのように考えるかということと、実際の事例が1件載っていました。

まず、管財人としてどのように手続きを進めるかという点で、理論的には、一身専属性のある慰謝料=金額の確定していない慰謝料は破産者に帰属する、それ以外は、破産管財人に帰属します。そのため、慰謝料以外を管財人が請求し、慰謝料は破産者が請求するのが理論的です。ただ、実際には破産者や申立代理人と共同戦線を組んで交渉して行くのではないかということになります。それから、万が一破産者が協力しない場合には、慰謝料以外のところだけでも和解を目指すことになるのではないかと記載されています。ただ、慰謝料以外の部分だけの示談に保険会社が応じてくれるかどうかが、大きな問題になるのではないかと思います。
羽賀弁護士
示談で解決できないと訴訟になりますが、管財人だけが原告になって、財団帰属部分だけの一部請求=金額の確定していない慰謝料を除いた休業損害や逸失利益等だけを請求する訴訟になります。その上で、被告保険会社側から、破産者(交通事故被害者)に対して訴訟告知をするとか、債務不存在確認訴訟提起をして、最終的に解決できるのではないかと思われます。
羽賀弁護士
それから、自由財産拡張の範囲については、これも抽象的な書き方の部分もあるんですが、逸失利益については、将来の労働能力喪失に対する賠償なので、破産者の経済的生活の再生確保のために、柔軟に拡張を認めてもよいのではないか、という意見があり、将来介護費も同じような考え方が示されています。
羽賀弁護士
それと、債権者側からすれば、交通事故の示談金が配当財源になることについて、期待可能性が高くないのではないかということで、被害者保護の観点から自由財産の拡張を広く認めてよいのではないか、と記載されています。

具体的な事案については、和解金のうち、1,500万円弱を拡張相当と認められたものがあるとのことです。ただ、和解金の総額や、何に対して幾ら自由財産を拡張したかといった内訳は書かれていません。
なお、開始決定前に受領した休業損害については、給料が転化したものと考えられ、元々3/4は差押え禁止財産に当たるので、1/4だけ財団組み入れをしたということが記載されています。すでに支払われた休業損害は、現預金になっているので、本来99万円超については手元に残せないはずですが、99万円を超えて手元に残すことを認めたということかと思います。
逸失利益については、開始決定前の部分については財団組み入れして、開始決定後については自由財産にしたとのことです。
慰謝料をどのように処理したかは記載がありません。
羽賀弁護士
文献からのまとめですが、治療費、介護費用、入院雑費に関しては自由財産とするか自由財産拡張で対応が可能と思われます。休業損害や逸失利益も、全額かどうかは分からないものの、自由財産拡張が比較的認められやすい。慰謝料は、金額確定前は自由財産で、金額確定後は自由財産拡張が柔軟に認められるのではないか。物損は破産財団に帰属する、ということになります。
つまり、人損事故に関しては、かなり大きな金額が自由財産になる可能性がありますが、どの程度認められるかは、文献を見てもよく分からないところです。
小川弁護士
破産を考えていたけれど、示談金が入ってくるんだったら、破産はせずに、任意整理の方向で考えたいという方もいらっしゃるのではないですか?
羽賀弁護士
私もそう思って、文献にはなかったんですが、少し検討してみました。
まず、債務額と交通事故の示談金見込額によって方針が変わると思います。怪我が軽く、示談金見込額が数万円~数十万円であれば、ほとんどの場合、破産手続きの方向性は変わらないと思います。
次に、怪我が非常に重く、示談金・賠償金見込額が数千万円~億単位であれば、破産ではなく、任意整理を選択できるケースが多くなると思います。
債務額と示談金の見込額がある程度近い場合は、判断が難しくなります。弁護士としては、経済的なメリットを考えると破産をした方がよい可能性はあるのではないかということを説明した上で、破産手続きの負担などもありますので、依頼者の方がどうされるか、判断していただくことになるかと思います。
羽賀弁護士
あと、破産を選ぶとして、どの時点で最終的に決めるかということですね。実際上、交通事故の手続きを先行させて、破産を遅らせると、破産手続き上問題が生じる可能性もあるかもしれません。段階的に考えていくと、例えば治療中では、後遺障害が残るかもしれないし、どれくらいの賠償金額になるかも分からないというケースは結構あると思いますので、任意整理にするか破産にするか、確定的に判断するのは難しいケースが多いと思います。
ただ、例えば、1000万円~2000万円ほどの負債があり、交通事故の怪我がむち打ちであれば、治療中であったとしても破産を選択する可能性が高いと思います。
一方、負債が数百万円で、交通事故で骨折をして後遺障害が残る可能性があるとなると、判断が難しいかもしれません。
羽賀弁護士
後遺障害の認定後であれば、ある程度、示談金の見込を立てられると思いますが、後遺障害の内容によっては、金額の上下のぶれが大きいので、どの程度になるか確実な見通しが立つとまでは言えないと思います。また、自賠責部分を被害者請求で回収すると、本来的自由財産が現預金になり、自由財産になる部分が減ってしまいますので、どうするかという問題が出てくると思います。
羽賀弁護士
破産になるか任意整理になるか微妙なケースでは、ある程度示談交渉を進めた上で方針を確定する方法も考えられます。
羽賀弁護士
示談解決後に破産申立をすると、示談金額の相当性が問題になる可能性があるのと、現預金に変わっていますので、示談金のうち99万円までしか手元に残せないおそれがあります。どのタイミングで破産か任意整理を判断するかは、個別に検討する必要があると思います。
羽賀弁護士
このように、破産手続きでは示談金額の一部を手元に残すことができますが、手元に残すためには、破産管財手続きという、手間と費用が掛かる手続きになってしまいます。現実的には、この部分が大きなネックになる可能性はあると思います。
吉山弁護士
では、今の羽賀先生の発表を踏まえて、加藤先生の方から、実際に申立人が交通事故の被害者になった事例について発表をお願いします。
加藤弁護士
事例を2つ報告させていただきます。1つ目は被害者の方が住特付個人再生をしたというケースです。破産そのものではないですが、同じ点が問題になります。
2つ目は、加害者が自己破産した事案です。今回のテーマからは外れるんですが、ご参考までに紹介させていただきます。
加藤弁護士
1つ目は、2019年8月に個人再生で受任したMさんが、9月に、後方から追突される交通事故に遭われた件です。
その後、2020年3月になって個人再生の申立をしましたが、交通事故の示談金見込額が清算価値に上乗せされるかが問題になりました。
加藤弁護士
申立時点での交通事故の手続き状況ですが、むち打ちの治療がほぼ終わり、症状はかなり落ち着いていました。
吉山弁護士
交通事故の方は、ご依頼はなかったんですか?

加藤弁護士
交通事故は別の弁護士に依頼されていて、私はご本人を通じて間接的に状況を聞いている状態でした。
で、この時点でどうしたかといいますと、怪我の内容や通院期間、通院回数を考えると示談金額は高く見ても80万円くらいであること、80万円のうちほとんどが金額の決まっていない状態の慰謝料であること=破産手続きで配当に回らない状態であることを説明しました。
加藤弁護士
その結果、それ以上に裁判所から突っ込んだ指摘を受けることなく、再生計画が認可されました。
ですので、羽賀先生のご報告にあったような、実際どれくらいを自由財産として認められるべきかという議論はありませんでした。
加藤弁護士
次に、今回のテーマからは外れますが、加害者が自己破産したケースです。
Nさんは、2009年に死亡事故を起こしましたが、任意保険に入ってなかったので、被害者側の保険会社が、無保険車傷害特約で保険金を遺族に支払い、加害者であるNさんに対して、求償権を取得しました。
Nさんは、2017年頃迄は保険会社に分割返済をしてきましたが、完済の目途が立たないということで、相談があり、2018年に破産の申立をしました。
加藤弁護士
破産法上、破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(破産法253条1項2号)、破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(破産法253条1項3号)は、非免責債権とされています。
本件では、求償債権という性質上、そもそも、非免責債権にはならないんだという主張と、後は、仮にその原債権の性質を考える必要があるとしても、今回の交通事故は、右直事故だったので、「重大な過失」という条文上の要件には当たらないという二段構えの理屈で、免責は最初から問題ないだろうという判断で受任し、手続きを進めていました。
加藤弁護士
実際問題として、保険会社から、免責に関する意見は提出されませんでしたし、手続きが終わった後も、特に非免責債権であることを前提とする訴訟提起等はなかったので、保険会社も同様の理解だったのかなと認識しています。

「みお」のまとめ

交通事故の被害者の方が破産をしても、示談金のうち一定額は手元に残すことができます。ただ、示談金を手元に残すには、破産手続きの中でも、破産管財手続きという、複雑で費用も手間もかかる手続きを経なければなりません。また、示談金のうちどの程度の金額を手元に残せるか予側するのは困難です。そのため、債務額と示談金の見込額によっては、破産ではなく、裁判所を経ない任意整理を選択して、示談金で債務を支払う方法を希望する方もいらっしゃいます。任意整理は、経済的メリットは小さくなりますが、手続きが破産よりは負担が軽いというメリットがあります。

ご依頼者のご希望や交通事故の被害状況、示談の進み具合なども踏まえた上で、最善の対応を考える必要がありますので、交通事故と借金の2つの問題を同時に抱えてしまった場合は、同じ弁護士に相談・依頼されることをお勧めします。

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