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弁護士による交通事故研究会

制度研究
Vol.32

交通事故と消滅時効の起算点

本件の担当
羽賀弁護士

2020年02月16日

事例の概要

交通事故の賠償金請求権の消滅時効の起算点の解釈について、文献と裁判例から調査を行いました。

議題内容

  • 文献と裁判例から導かれる、事故の類型別の消滅時効の起算点。
  • 人損事故の消滅時効について、検討対象になりやすい事案。
  • 時効中断について。
  • 消滅時効完成の回避について。
議題内容

・人損で後遺障害が残った事案の消滅時効の起算点。

・人損で後遺障害が残らない事案の消滅時効の起算点。

・物損事案の消滅時効の起算点。

・時効中断する事由としない事由。

・消滅時効完成の回避方法。

参加メンバー
澤田弁護士、伊藤弁護士、小川弁護士、羽賀弁護士、吉山弁護士、田村弁護士、石田弁護士、山本弁護士、加藤弁護士、松弁護士
羽賀弁護士
今日は『交通事故と消滅時効の起算点』のお話しをします。
時効に掛かると、損害賠償請求権が消滅し、賠償金を請求できなくなるので、消滅時効の起算点は重要な問題です。
民法の724条で、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から起算する」とされていますが、具体的にどの時点を消滅時効の起算点とするかは、しばしば争点になります。
そこで、文献と裁判の判例から、一般的な判断を調べてみました。
羽賀弁護士
まず、文献の記載ですが、『消滅時効の起算点』は、事故でどういう損害が生じたか、によって分けられていて、【人損で後遺障害が残った事案】【人損で後遺障害が残らなかった事案】【物損事案】の3つに分けて検討されています。
澤田弁護士
文献はどんなものですか?
羽賀弁護士
大阪弁護士会・交通事故委員会の「交通事件処理マニュアル」(平成30年版)と、日弁連交通事故相談センターの「交通事故相談ニュース41号」(平成30年版)、それと「赤本」(平成14年版)、の3点です。
澤田弁護士
わかりました、ありがとうございます。
羽賀弁護士
まず、【人損で後遺障害が残った事案】の消滅時効の起算点について、先程の3つの文献にあたってみました。
羽賀弁護士
「交通事件処理マニュアル」には、「傷害による損害を含めて症状固定時と一般に解されている」とありました。
「交通事故相談ニュース」でも、「傷害関係・後遺障害関係の損害について、共に、症状固定時・治癒時が優勢だと思われる」との記載がありました。
さらに「赤本」に掲載された裁判官の講演では、「私見としては、傷害関係及び後遺障害関係のもの全てについて、症状固定時と考えます」と述べておられます。
石田弁護士
ということは、【人損で後遺障害が残った事案】については、基本的には、全ての損害について「症状固定時が消滅時効の起算点」とするのが大勢だと判断していいと思われますね。
羽賀弁護士
おっしゃる通りです。
では、2つ目の、【人損で後遺障害が残らなかった事案】についてはどうだったかというと、文献の記載が分かれてしまっていまして、「交通事件処理マニュアル」では、「事故時と一般に解されている」となっていましたが、「交通事故相談ニュース」には、「事例が少ないので、症状固定時か事故時か、どちらが良いか判断できない」、「赤本」では、裁判官の「なお事例の集積を待つ必要があるかもしれないが、私見としては治癒時ではないかと考える」といった具合で、明確な記載はありませんでした。
吉山弁護士
【物損】に関してはいかがですか?
羽賀弁護士
【物損】に関しては、「赤本」には記載が無かったのですが、「交通事件処理マニュアル」と「交通事故相談ニュース」ではいずれも、『事故時』としている記載がありました。
羽賀弁護士
次に、裁判例の傾向ですが、どういった判断がされているかという点を、平成24年2月から平成27年12月までの裁判例文献(交通事故相談ニュース)からまとめました。
羽賀弁護士
まず【人損で後遺障害が残った事案】。これについては文献の時にもお話ししたように、基本的に、『症状固定時』と考えられています。全ての損害について『症状固定時』と判断された事例は、12件紹介された内の11件です。1件だけ、傷害部分は『事故時』、後遺障害は『症状固定時』と、分けて判断された事案があります。ただこの事案は、被害者側から高裁に控訴して、控訴審では全ての損害について『症状固定時』であることを前提とした和解が成立しています。
倉田弁護士
結論として、【人損で後遺障害が残った事案】は、損害全体について『症状固定時』とする判断が定着していると言えますね。
羽賀弁護士
この、高裁で『症状固定時』が起算点であることを前提とした和解が成立した件は、実は山本先生の事案ですので、簡単にご紹介頂ければと思います。
山本弁護士
この事案は、控訴審で消滅時効の争点についても当方の主張に沿う心証が裁判官から開示され、和解が成立しました。
もともと時効が争点の中心ではなくて、非接触事故であったため、そもそも過失があるかどうかと、過失相殺がどうなるか、という所が主な争点でした。
それともう1点、親指の後遺障害について、お医者さんが、親指の関節可動域の測り方を間違えてしまったという問題点がありました。
山本弁護士
そのために、労災では後遺障害が非該当になっていたんですが、私が改めてお医者さんに確認して、労災が定める正しい測り方をしたらこんな角度になりますよと申し上げて、測り直してもらったりするなど、後遺障害等級を争っていたケースなんです。
消滅時効の起算点は大きな争点にはなっていなかったので、地裁が突然こういう判決を出してしまった印象です。
吉山弁護士
当然、控訴ですよね。
山本弁護士
控訴しました。そして、裁判官からは消滅時効についても当方に有利な心証が開示されました。そのため、正直、判決に行けば勝てると思ったんですけれども、御依頼者が、もう和解で終わらせて欲しいとおっしゃいましたので、控訴審で和解が成立しました。和解金が2,200万円になったんですが、元々の判決の時には、確か1,700万円ですから、消滅時効の争点で削られた分を、控訴審の和解で丸々取り戻した、といった流れになります。
澤田弁護士
すごいなー。
山本弁護士
この件は、加藤先生にもご協力いただきました。
加藤弁護士
はい、そうでしたね。
澤田弁護士
控訴審は判決じゃないけど、判例雑誌に載っているのですか?
山本弁護士
控訴審は和解で終わったため掲載されていませんが、一審判決の段階で載ってしまったんです。
羽賀弁護士
山本先生ありがとうございました。
では引き続き、【人損で後遺障害が残らなかった事案】の文献の記載について見て行きたいと思います。こちらは取り上げられている事例の数で言うと『治癒時以降』と判断されたのが6件、『事故時』とされたのが2件です。
羽賀弁護士
ただ、『事故時』と判断された事例2件の詳細を見てみますと、1件は、商法590条の責任の消滅時効5年が経過していないという事で、結論としては請求認容の判断をしています。交通事故の損害賠償請求権の消滅時効が完成しているという理由で請求棄却と判断した事案ではありません。
羽賀弁護士
もう1件は、自賠責保険会社に対しての請求について、『事故時』が消滅時効の起算点と判断された事案の様ですので、実際問題としては、【人損で後遺障害が残らなかった事案】の、加害者に対する請求という意味では、事例としては不適切ではないかと思います。そのため、文献に出ている範囲では、ほとんどのケースが『治癒時』と判断されているのではないかと思います。
羽賀弁護士
続いて【物損】についての文献記載ですが、起算点を『事故時』と判断したものが7件。『事故時以降』が2件ありました。
『事故時以降』とした2件の内訳ですが、「車両損害の見積もり日と着衣の損害賠償を請求した日」を起算点としているのが1件。それから、「事故当事者の実況見分調書作成日」とされているのが1件です。しかし、この2件も結局、結論として救済した事案ではなくて、この日を起算点と考えたとしても消滅時効が完成していると判断された事案なので、物損は『事故時』から時効が進行すると考えた方が良いと言えます。
吉山弁護士
人損の消滅時効について、検討の対象となりやすいのはどんな事案ですか?
山本弁護士
人損事故では、消滅時効の起算点を『事故時』とするか『症状固定時』とするかの点が取り上げられがちですが、実際にはほとんどの事案で、症状固定後に、保険会社が治療費を払ったり、示談額の提案をして、時効が中断します。そのため、多くのケースで、債務承認時が消滅時効の起算点になります。
羽賀弁護士
ですので、『事故時』か『症状固定時』か検討する必要が生じるのは、保険会社が治療費を払ってくれていないとか、示談額の提案をしてくれない事案。「過失割合が高いので示談額の提案をしません」とか、「加害者側に責任は無いので払いません」といった事案に限られます。

吉山弁護士
こういった事案では、実際の処理上では、どんな注意が必要になりますか?
羽賀弁護士
こういった事案では、時効の起算点が早い時点になってしまうのと、保険会社が治療費を払っていないため、保険会社側に診断書とかレセプトがなく、こっちで揃えないといけなくなって、資料収集に時間がかかることから、結果として時効にかかりやすいのが注意点です。
山本弁護士
あと、保険会社が消滅時効を主張する事案というのは、債務の存在自体を否定していて、そのついでのような感じで時効も主張するパターンが多いです。
羽賀弁護士
時効の中断に関して簡単にまとめますと、保険会社から治療費等の支払いや、示談額提案があれば時効が中断します。
場合によっては債務承認書を取得することで、消滅時効を中断させることもあります。
あと、自賠責の被害者請求をしても中断しませんが、これは最高裁の判断です。それから、「紛争処理センター」への申立て、これも時効中断効がないので注意が必要です。
澤田弁護士
紛争処理センターに申立ててもだめだとすると、紛争処理センターで長引くと困るよね。
羽賀弁護士
はい。あまり長引いて、もし時効の問題が生じそうならば、取り下げて訴訟をするしかなくなります。
澤田弁護士
ただ、紛争処理センターで争われていても、相手側が治療費を払っていたり、示談額提案をしていたりすると時効は中断するということでしょうか。
羽賀弁護士
そうですね、支払いとか提案とかがあれば大丈夫です。普通の事案では、交渉の段階で保険会社が金額を出してきて、その最終の提案時点が消滅時効の起算点になるので、基本的には問題は生じにくいと思います。ただ、そこからあんまり時間が経ってると、申立てをしたからといって、時効が止まらないので、注意は必要です。
田村弁護士
紛争処理センターの申立ての中で、相手側の提案が出たら、それは承認になりますか?
羽賀弁護士
そうですね、それは承認ですね。
ただ、相手側の提案でないと駄目で、紛センの斡旋案だったら、駄目だと思います。
澤田弁護士
斡旋手続きに応じていたっていうだけでは駄目?担当者が紛争処理センターに出て来てたっていうだけなら。
羽賀弁護士
そうですね、それだけでは駄目ですね。
羽賀弁護士
消滅時効の回避についてまとめてみます。
2020年4月1日以降は、物損が3年で、人損が5年なので、人損の方が大丈夫だと思っていたら、物損の方が時効に掛かるといったことも、もしかしたらあるかなと思いますので注意が必要です。
事故日、症状固定日、債務承認があるかどうかやその日付、物損があるかどうかの確認をして、物損と人損に分けて時効に掛かる日を考えておかないといけません。3年または5年の消滅時効が近づく前に処理してしまうか、消滅時効が近づいて来たら債務承認証を取る。取れないときは、催告または訴訟提起する。
こういった流れで、消滅時効を回避していくことになります。
澤田弁護士
物損は、人損の前に解決することが多いですよね。
羽賀弁護士
ほとんどの事案がそうですね。物損の方を先に解決しています。
羽賀弁護士
ただ、過失割合で争っていると、物損の先行解決もできませんので、事案によっては物損だけ先行して訴訟を起こす必要が出てきます。
澤田弁護士
物損だけ先行して訴訟起こすってのも、なんか変な話ですね。
羽賀弁護士
そうですね。しかし、その時点では人損の訴訟は起こしづらいと思います。
小川弁護士
実際は、物損の件、弁護士が入る前に解決している事例が多いですよね
羽賀弁護士
ほとんどは相談前に解決していますね、こっちに持ち込まれる案件はそんなにはないです。
倉田弁護士
調停申立てをしたら、時効は止まるのでしょうか。
澤田弁護士
民法151条の規定で、その調停が不調になった場合は、1か月以内に訴訟を提起すれば、時効中断の効力が生じます。
澤田弁護士
2020年4月1日の改正民法の施行により、交通事故の消滅時効期間も変わります。社会の変化に合わせて、法律がどんどん改正されたり新しく作られたりして行きますから、私達はしっかり情報を収集して、対応していかないといけませんね。

「みお」のまとめ

交通事故の損害賠償金の請求権は、時効によって消滅すると、請求できなくなってしまいます。どの時点から時効が進行するかの検討は重要ですが、実際にはテンポよく事件を進めることが、消滅時効完成の回避にとって一番重要であると言えます。時効直前になると弁護士としても事件をお受けできないことがありますので、早めにご依頼いただくのが望ましいと言えます。

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