制度研究
Vol.26
交通事故における無保険車傷害保険
事例の概要
無保険車傷害保険についての全般的解説。
議題内容
- 無保険車傷害保険とは。
- 適用要件と後遺障害。
- 契約時の注意点。
- 利用が少ない理由。
議題内容
無保険車傷害保険と重度後遺障害。
参加メンバー
澤田弁護士、伊藤弁護士、羽賀弁護士、吉山弁護士、田村弁護士、石田弁護士、山本弁護士、加藤弁護士

羽賀弁護士
前回(Vol.25)の発表でご紹介した、無保険車による事故で重度の後遺障害を負われたKさんの場合を例に、「交通事故における無保険車傷害保険」についてお話ししたいと思います。事故当時のKさんの状況や、賠償金の内訳など詳しいことは、Vol.25を参照ください。

澤田弁護士
Kさんは、大阪市内で無免許運転の信号無視でひき逃げされて、しかもその車が盗難車で。気の毒に遷延性意識障害の後遺障害が残った方ですね。

伊藤弁護士
盗難車だから、自賠責保険も任意保険も使えなかったけれど、ご自身が加入されていた無保険車傷害保険で賠償金をもらえたという事例ですよね。

羽賀弁護士
Kさんは、総額2億7千万円の損害賠償金を獲得されました。まず、「無保険車傷害保険」を簡単におさらいしておきますと、自動車保険のひとつで、この保険を契約していると、加害者に対人賠償責任保険が無くて、死亡または後遺障害の結果が生じた場合に、補償を受けることができます。

伊藤弁護士
適用条件があるとおっしゃってましたよね。

羽賀弁護士
はい。無保険車傷害保険には適用条件があり、その結果、問題も出てきます。主な適用条件は3つです。
1つ目は、加害者の対人賠償保険がないか、例えば免責事由があって使えない、というような条件。これは当然の前提です。
2つ目がいちばん難しくて、交通事故により後遺障害が生じた場合、または死亡の結果が生じた場合、という条件が付いています。
3つ目は、被害者の方に無免許運転等の適用除外事由がないことです。
Kさんほどの重症なら、使えることは確実と言えるんですけれども、例えば、むち打ち症とか、骨折とかという事案では、実際、後の方になってみないと、使えるかどうかが分からない保険だということです。

吉山弁護士
後遺障害の認定が下りるまで使えないということですか。

羽賀弁護士
そういうことになります。症状固定前の治療中には使えません。被害者が健康保険なり労災なりを使って、治療費の支払いを考える必要があります。例えばKさんの和解案について言うと、既払金は自賠責の分の4000万円だけで、治療費はその時点では全く支払われていません。

吉山弁護士
他に注意しなければいけないことはありますか?

羽賀弁護士
無保険車傷害保険という名称を付けていても、中身としては人身傷害保険基準になっているものがありますので、注意して見て頂く必要があります。

澤田弁護士
どこの保険会社でも扱ってるの?

羽賀弁護士
多くの保険会社で取り扱いがあります。各保険会社の無保険車傷害保険の内容について、わかる範囲で調べてみました。取扱っている保険会社をリストアップしています。
各社の補償額について、いわゆる弁護士基準が使えるのか、それとも、人身傷害保険の約款で決められた金額しか支払われないのか、比較してみたところ、大半は弁護士基準での支払いを認めます、という内容でした。無保険車傷害保険は、基本的に、弁護士基準での補償を受けることができますので、弁護士に依頼すると、慰謝料とか逸失利益の増額が見込まれると言っていいでしょう。

倉田弁護士
この会社は要注意、というのはありますか?

羽賀弁護士
私の調べた中では、2社ありました。T社は、無保険車傷害保険とは言っていますけれども、中身は人身傷害保険なので、弁護士基準は使えません。S社は、約款をよく見ると、訴外は人身傷害保険で、判決と裁判上和解になると、対人賠償保険型になる、となっています。

倉田弁護士
上限額は決められていますか?

羽賀弁護士
この点もご注意いただきたいのですが、補償に上限額を付けている会社が多いです。上限額は各社それぞれありますが、多くの場合、2億円という条件が付けられており、ときどき、無制限という会社もあります。2億円を超える事案というのは、そうそうないんですけれども、遷延性意識障害のKさんの事案は、無保険車傷害保険の負担が2億3千万円で、自賠責保険が4千万円でした。幸いKさんの保険は無制限のタイプだったので、制限は受けずに、適正な賠償金を獲得することができました。

田村弁護士
契約する前に、確認が必要ですね。

羽賀弁護士
契約をするときに補償のタイプが対人賠償保険型か人身傷害保険型か、確認が必要なのと、上限額があるのかの確認が必要になると思います。自動車保険を契約するときにそこまで見るのは難しいかもしれませんが‥。無保険車傷害保険の特徴については、それまでのいくつかの争点が解決した最高裁平成24年4月27日の判決があります。

澤田弁護士
訴訟になった場合の、遅延損害金とか弁護士費用の補填はどうなるのかな?

羽賀弁護士
普通の対人賠償保険で自賠責の保険金を受け取った場合は、訴訟になると遅延損害金から充当ということになりますが、無保険車傷害保険の場合は、裁判になっても、損害元本のほうから充当されます。また、無保険車傷害保険でも弁護士費用は補填される、というのが基本的な考え方かと思います。

石田弁護士
無保険車傷害が使われる事案はどれくらいあるんでしょうか。

羽賀弁護士
現実問題として、無保険車傷害を使う場合がどれくらいあるかという点も検討してみましたが、実際、そんなに多くはありません。私自身の経験でも、無保険車傷害保険の交渉は、数件しかありません。①加害者が無保険、②無保険車傷害の契約が必要、③被害者の死亡または後遺障害事案という点等をクリアしないといけないので、実際に無保険車傷害を使うことは多くはありません。無保険の自動車はそう多いわけではなく、10%程度なので、まずそこが事例の少ない非常に大きな要因と言えるでしょう。
無保険車傷害保険は、自動付帯ということが多いとは思いますけれども、何より自動車保険を契約していないと話になりません。
それから、人身事故の内、実際に後遺障害が認定されるのは、データから見れば1割くらいなので、それも、事例が非常に少ない要因の1つと言えます。
「みお」のまとめ

加害者の自動車が無保険の場合、賠償金回収の見込みが立たないため、弁護士に依頼するのは実質的に不可能と言わざるを得ません。そんなときの助けとなるのが、「無保険車傷害保険」の制度ですが、利用するための条件や保険の中身などは、利用率の低さもあって、あまり知られていません。無保険車傷害保険での交渉が必要になったという方は、遠慮無く、当事務所の無料相談をご利用ください。
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