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弁護士による交通事故研究会

事例研究
Vol.70

高次脳機能障害の等級認定事例

本件の担当
羽賀弁護士

2023年09月09日

事例の概要

高次脳機能障害で被害者請求で9級認定、異議申立でも9級が維持された事例をもとに、高次脳機能障害の等級認定の考え方と、高次脳機能障害の等級認定における意識障害の要件について検討しました。

議題内容

議題内容

・事故後の被害者の状況

・高次脳機能障害について9級が認定された理由について

・異議申立後の後遺障害等級判断の理由について

・高次脳機能障害の等級認定における意識障害の要件

参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、大畑弁護士、石田弁護士、西村弁護士、原口弁護士
羽賀弁護士
今回は、高次脳機能障害で被害者請求で9級認定、異議申立でも9級が維持された事案を基に、高次脳機能障害の等級認定の考え方と、高次脳機能障害の等級認定における意識障害の要件について検討します。
羽賀弁護士
事故の概要ですが、被害者の方が2020年に、青信号の横断歩道を自転車で走行中に、左折して来たトラックに衝突されました。
怪我は、びまん性軸索損傷、右急性硬膜下血腫、左急性硬膜外血種、右外傷性くも膜下出血などです。
症状固定は2年後の2022年です。
羽賀弁護士
事故後被害者の方には、記憶力が落ちた、同時に2つのことができない、事務処理能力が低下して書類や銀行対応などに支援が必要、一人で生活するのは難しく親族の支援が必要、といった症状が残ったため、高次脳機能障害について後遺障害の等級認定の申請をしました。
羽賀弁護士
事故直後の意識障害は、GCS14点で、正常は15点なので意識障害がある中では最も軽度といえます。「頭部外傷後の意識障害についての所見」では、意識清明になったのは事故後1日となっています。
事故前から一人暮らしで、事故後もそのまま一人暮らしをされています。
山本弁護士
今の部分だけを聞くと、高次脳機能障害の中では幸い程度が軽く、回復もされているように思えます。
羽賀弁護士
そうですね、申請結果としても高次脳機能障害としては一番下の9級になりました。
資料として、後遺障害診断書など被害者請求の際に付けた資料一式と、後遺障害等級認定理由書などを配布しています。
9級の理由を概略だけご紹介しますと、①神経系統の障害に関する医学的意見には、身の回りの動作は全て自立とされている。②認知・情緒・行動障害の項目のうち、例えば、「新しいことを覚えられない」「疲れやすくてすぐ居眠りをする」「複数の作業を同時に行えない」などが「中等度/ときどき」である。③日常生活の能力程度や問題行動の頻度の部分について受傷前後の変化がみられる。この3点とその他の神経症状などと併せて、9級が認定されています。
羽賀弁護士
これに対して異議申立を行いました。
一番の理由は、9級の労働能力喪失率35%より大幅に収入が減少しているということです。異議申立をした段階では、短時間勤務をされていて、収入が事故前の2割位にまで減っていました。
このとき提出したのは、異議申立書と、
短時間勤務証明書と勤務状況をまとめた書類。
あと、3年分の源泉徴収票(収入が事故直前は220万円程あったのが、事故後は100万円→68万円と大幅に下がっていると分かるもの)と、日常生活状況報告別紙を最初のときよりさらに詳細な内容にして提出しました。
羽賀弁護士
異議申立書の内容ですが、後遺障害の認定基準と自賠責の補足的な考え方、さらに2023年の赤本の裁判官の講演に、5級~9級の高次脳機能障害の認定を行う基準について述べているものがありましたので、それに当てはめる形で理由を書いていきました。
羽賀弁護士
被害者の方の就労時間及び収入は、事故前の約20%で、大幅な短時間勤務になっており、職場から相当な配慮があったといえます。また、客観的な証明は難しいんですが、新しい資格の取得を諦めたこと、さらに自転車の運転もできなくなったという部分も記載しました。あとは日常生活上の支障などを挙げていきました。
収入を考えると5級になってもいいのですが、何とか7級ぐらいが認定されればいいかなと考えて出しました。しかし、再度の認定も変わらずで9級のままでした。
吉山弁護士
勤務時間や収入の推移を考えると、9級の認定はなかなか厳しいようにも思えますが、いかがでしょうか。
羽賀弁護士
確かにその部分を見ると厳しいように思います。
9級の認定が維持された理由について、詳しくはお送りした資料にまとめていますが、より高位の等級を認定する方向での考慮要素として、シフト時間が事故前の半分以下になって実際に勤務時間が減少していることがあげられています。一方、等級を変更しない方向での考慮要素として、仕事内容自体は変化がないこと、入院時の神経心理学的検査の結果はおおむね良好であること、医師が身の回りの動作能力は自立と記載していること、日常生活については一人暮らしができているということがあげられています。これらを考慮して、9級から変えないという認定となりました。
羽賀弁護士
9級から変更しない理由のうち、神経心理学的検査の結果はおおむね良好という点と、一人暮らしをしているという2点について検討します。
まず、神経心理学的検査の結果がおおむね良好という点ですが、赤い本には、就労を阻害する要因として、認知障害だけでなく行動障害及び人格変化を原因とした社会行動障害を重視すべきであるとされていることもあり、裁判例でも特定のIQの数値であれば特定の等級認定となる傾向にあるということまでは難しいとの記載があります。
そうすると、神経心理学的検査の結果がおおむね良好であることは、高次脳機能障害の程度がそこまで重くないことの理由としては、あまり重要ではないのではないかと考えています。
羽賀弁護士
もう1つの、一人暮らしができているという点ですが、赤い本から裁判例を探したところ、一人暮らしをしているまたは一人暮らしに向けて準備をしているというパターンの事例が4件あり、7級が1件、9級が3件でした。
裁判例の認定からすると、一人暮らしができている場合は5級まではいかず、実際の認定は9級が多いことが分かります。7級認定の1件は、何故7級なのかという点について明確には分かりませんが、実際には一人暮らしではなく、一人暮らしに向けた準備をしているにとどまっていることや、就労しているものの障害者枠での雇用であることなどが影響しているのかもしれません。
吉山弁護士
5級では将来介護費が認められるケースがありますが、一人暮らしをされているとなると、基本的には介護は不要といえますので、一人暮らしの方で5級の認定は難しいといえそうです。一方、7級や9級であれば、将来介護費の請求をしていないケースが多いので、一人暮らしができている方の後遺障害等級はそのあたりになるのかもしれません。
羽賀弁護士
同感です。あともう1点、被害者請求をする前に、高次脳機能障害の認定上問題があるかもしれないと思っていたのが、意識障害の程度と継続時間の点です。「頭部外傷後の意識障害についての所見」では、意識障害ありという項目にチェックが入っているんですが、GCSは14点で1日後には意識晴明になったとされています。
羽賀弁護士
この点、自賠責の2018年の報告書には、「当初の意識障害が、GCSが12点以下で少なくとも6時間以上、もしくはGCSが13~14点で少なくとも1週間以上続いていることが確認できる症例については、高次脳機能障害の診断が行われていないとしても、見落とされている可能性が高い」と記載されています。
山本弁護士
紹介いただいた自賠責の報告書の記載内容からすると、確かに、GCSが13~14点であれば、1週間以上継続しないと高次脳機能障害が認定されないように感じます。ただ、実際にはそこまでの意識障害がなくても高次脳機能障害が認定されている事案があるように思います。
羽賀弁護士
この点ですが、以上の自賠責の報告書の内容から、「GCSは13~14点が少なくとも1週間以上続いていることが高次脳機能障害の認定のための要件であり、意識障害がそれより軽度の場合は高次脳機能障害が認定されない」と言われることもあります。
しかし、自賠責の2011年版報告書には、上記の、「GCS13~14点が少なくとも1週間以上続いている」ということが、「高次脳機能障害の判定基準ではなくて、あくまでも高次脳機能障害の残存の有無を審査する必要がある事案を選別するための基準である」との記載がありますので、それ以下の意識障害でも高次脳機能障害が認定される可能性はあると考えられます。
羽賀弁護士
2018年版の報告書には、「意識障害が重度で持続が長いほど(特に脳外傷直後の意識障害がおよそ6時間以上継続する症例では)高次脳障害が生じる可能性が高い」と記載されています。この内容からすると、6時間以上の意識障害があれば、自賠責では高次脳機能障害が認定される可能性があることになります。
今回ご紹介している案件も、GCS14点で、約1日で意識晴明になったのですが、高次脳機能障害と認定されています。

「みお」のまとめ

交通事故で脳に損傷を負うと、感情のコントロールや記憶、目的の設定・遂行、作業の反復継続といった高度な脳機能に障害が残る場合があります。これを高次脳機能障害といい、第三者にはわかりにくい症状が多く、障害の有無や程度の認定は容易ではありません。就労や一人暮らしが困難になる方も多く、生涯にわたって介護が必要な場合もあるため、ご家族にも大きな負担がかかってきます。そのため、適正な後遺障害等級を得て、障害の程度に見合う示談金を獲得し、生涯にわたる補償を得る必要があります。
後遺障害等級の認定は、後遺障害診断書等に基づいた書類審査で行われるため、診断書の内容は重要で、後遺障害等級の認定要件を把握した上で、問題のない後遺障害診断書を作成してもらう必要があります。また、高次脳機能障害では、ご家族による被害者の方の日頃の状況を詳細に記録した日常生活状況報告も重要になります。後遺障害診断書や日常生活状況報告等の作成には、交通事故問題と医学的知識に精通し、慰謝料請求や後遺障害等級申請の経験豊富な弁護士に相談する必要があります。

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