裁判例研究
Vol.67
家事労働の基礎収入の認定
事例の概要
交通事故被害者の家事労働の基礎収入の認定について、裁判例を検討しました。
議題内容
議題内容
・交通事故相談ニュース第50号掲載裁判例における、基礎収入認定の年代別比較
・当事務所の解決事例における、基礎収入の認定の年代別比較
・有職の家事従事者の認定
・最近の保険会社との交渉の傾向
参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士、西村弁護士、原口弁護士、青井弁護士

羽賀弁護士
今回は、「家事労働の基礎収入の認定」に関する裁判例を見ていきます。参考文献は、2023年3月1日、日弁連交通事故相談センター発行の交通事故相談ニュース50号で、2017年~2021年の227件の裁判例を検討しています。
次に、基本的なことになりますが、家事従事者の基礎収入の考え方を紹介します。基本的には、学歴計・女性全年齢平均賃金を基礎として算定するのですが、年齢・家族構成・身体状況・家事労働の内容等に照らして、女性平均賃金より下がる可能性があります。
仕事をしていて家事労働もしているという方の場合は、実収入が学歴計・女性全年齢平均賃金を上回っていれば実収入が基礎収入になります。実収入が平均賃金を下回っている場合は、家事従事者として、基本的には平均賃金を基に算定をすることになります。

羽賀弁護士
ここから裁判例の傾向の話になりますが、以下の通りです。10才・20才代~50才代までは、女性の全年齢平均賃金を使って算定する事案がほとんどです。60才代になると少し傾向が変わり、年齢別平均賃金を使うことが最も多い一方、女性全年齢平均賃金を使う場合も30%弱あります。
そして、70才代になると女性の年齢別平均賃金を使う場合が約70%。80才代になると、女性の年齢別平均賃金から更に何割か減額する事案が多くなります。表にまとめたものをお配りしていますので、またご覧ください。

羽賀弁護士
各年代の詳細ですが、50才代まででは、先述のとおり、ほとんどの場合女性全年齢平均賃金が使われています。50才代までで減額されている方は、例えば、病気で家事労働能力に制限があるという場合や、他に家事を担っている同居者がいるといった、それなりの事情がある場合が多くなります。60才代になると傾向が変わって、女性の年齢別を使う裁判例がグッと増えています。その理由はおそらく、50才代の年齢別平均賃金は全年齢平均賃金より高い一方、60才代の年齢別平均賃金は全年齢平均賃金より低くなっていることにあります。具体的には、55才~59才の平均賃金は約416万円、60才~64才までは約338万円ということで、平均賃金と比較すると、55才~59才までは上回るけれど、60才以上になると下がるので、その辺りが影響して、年齢別を使うというケースが多いのかなと思います。
60才代の方の特徴として、60才以上の女性の年齢別平均から更に減額している例は8%しかないということです。そのため、年齢別まで下げられる可能性はあっても、特別な事情がなければ、そこからは下がりにくいのかなというところです。

羽賀弁護士
70才代の方については、女性全年齢平均賃金を使っているのは12%しかなく、それ以外は全年齢平均賃金よりも下げると判断されており、ほぼ9割の事案で全年齢より下げられているということになります。ただし70才代の方についても、年齢別から更に減額している事案は12%しかないので、特別な事情がなければ、年齢別より下がることは少ないのかなと思います。

羽賀弁護士
更に80才代になりますと、女性全年齢平均賃金を使っている事案はなく、さらに、年齢別平均賃金を使っている事案も27%しかなく、年齢別から更に下げている事案が64%と多数になります。その理由は、賃金センサスが、70才以上はまとめて集計されていて80才代だけのものがないということが影響しているのだと思います。
80才代になると、70才以上の方々の中でも稼働能力が一般的に低くなると思われますので、年齢別からさらに減額するという裁判例が多くなっているのかなと思います。
裁判例の中には、80才代は年齢別平均賃金の20%という認定の事案もあります。
あとは、家族構成や身体の状況、家事労働の内容等によっては、家事従事者と認定できないケースもありえます。

吉山弁護士
年代別に傾向が異なるということですね。特に60才代以上の方の場合、女性平均賃金よりも基礎収入を下げるべきと保険会社から主張されるケースがあるため、休業損害や逸失利益の計算の際は注意が必要と言えそうです。

羽賀弁護士
次に、60才代・70才代・80才代の家事従事者の方について、私の示談解決事案37件を紹介します。まず、60才代の方17件では、女性全年齢で解決しているのが10件、女性年齢別が7件でした。裁判例は女性年齢別が多数ですので、少し傾向が違うかもしれません。
70才代の方については、女性年齢別を使っているケースが14件中7件で一番多く、全年齢というケースが3件、年齢別から割合減額しているケースが4件ありました。裁判例と傾向は同じように思います。
80才代になりますと、女性全年齢を使っている案件はありません。80才代の場合は、70歳代以上の女性年齢別平均賃金を使っている方が6件中4件と一番多く、裁判例若干傾向が違うかもしれません。

羽賀弁護士
平均すると、家事従事者の方の基礎収入は示談の方が高めに出ているように思います。今回の文献の集計対象が全て判決なので、休業損害、逸失利益などの損害額の認定を少し厳しめに出した上で、遅延損害金と弁護士費用加算で調整しているためかもしれません。

吉山弁護士
裁判と示談交渉で傾向が違うことは他の損害項目でも見られることがあります。休業損害や逸失利益を少なくして遅延損害金や弁護士費用で調整するより、休業損害・逸失利益自体を大きくした方が納得感が得られやすいと思われ、そういう意味で示談解決をお勧めする場合があります。

羽賀弁護士
次は、仕事も家事もされているという方についてです。1つ目は、よくあるパターンかもしれませんが、仕事は休んでいないが主婦休損を請求したという場合に、どういう認定になるかというものです。
対象は7件で、仕事は休んでいないので主婦休損も認めないとした事案が2件、仕事を休んではいないけれども、主婦休損を認めたものは5件です。
ただし5件の内4件は、仕事を休んでいないので、家事労働に対する影響も小さいだろうということで、主婦休損の認定を低くしています。そのため、仕事を休んでいなければ、主婦休損が小さくなってしまう傾向にあるということになります。
2つ目は、兼業主婦の場合、就労の収入を勘案した事案もあるということで、月ごとに就労の休業損害と家事労働の休業損害を算定して、月ごとにどちらか大きい方を認定したケースが紹介されています。また、女性平均賃金から就労の収入を差し引いて、残りの部分だけを主婦休損の対象と考え、家事休損の認定を下げた事案もあるということです。

山本弁護士
身体がしんどくても、仕事に穴をあけられないとして仕事は休めないという方は多いと思います。頑張って仕事をすると主婦休損も認められにくくなる傾向があるのは被害者に厳しい印象がありますが、仕事を休んでいるかという客観的な部分からの認定という意味ではやむを得ないのかもしれません。

羽賀弁護士
次に、最近の保険会社の傾向です。まず、保険会社が被害者の収入を明らかにするように言ってくることが多いように思います。そこが明らかになっていないと、主婦休損は取りあえず計上しないという示談案を提示してくる場合もあります。
これについては、こちらから源泉徴収票などを出して、実際の収入が女性平均より低いということが証明できれば主婦として認定されます。しかし、弁護士に相談に来られずに、保険会社の言う内容で示談に応じてしまっている人がおられるんじゃないか、という懸念はあります。なので、主婦の方で保険会社から示談金の提案があったときは、弁護士に相談することが重要と言えます。

吉山弁護士
これまでは主婦であれば特に源泉徴収票等の提出を求められないケースが多い印象でしたが、変化があるということですね。確かに、女性平均より収入が高いか低いかで区分している以上、収入の資料を求められるのは当然といえば当然と言えます。あと、最近は主婦と言いつつ、ある程度収入が高い方が増えているのも影響しているのかもしれません。

羽賀弁護士
今言及いただいた収入がある程度高い方という点ですが、被害者の方がフルタイムで働いているが、収入は女性平均よりも低い場合に特有の問題があります。例えば200~300万円程度の収入がある場合、保険会社が、夫も家事をやってるんじゃないかと主張して、主婦休損は認めません、実収入を基に実際に休業をした分だけ認定します、といった主張をしてくることがあります。また、家事を全面的に負担しているわけではないので、主婦ではあるけれども、主婦休損はそんなに大きく認めません、という主張をしてくる事案が、最近時々あります。

羽賀弁護士
こちらに関しては、記事の中に、現在では結婚後も就労する女性が増加したり、男性も家事を分担したりと、家事労働の担い手に変化が生じ、今後は現在の状況を反映した裁判例が出されることが予想されるという記載がありました。そのため、兼業主婦で、女性平均よりも収入は低い場合に、主婦休損が丸々認められるかというと、ちょっと怪しい事案も増えてきているかなと思いますので、ご注意頂ければと思います。今回は以上になります。

吉山弁護士
年代別の基礎収入の認定の所で、例えば30代・40代でも、休業損害だったり後遺障害逸失利益とかで、特に後遺障害逸失利益が例えば3年とか5年とかで、30代で怪我しても30代でもらうとか、40代で怪我しても40代でもらう場合でも、年齢別ではなく、全年齢で計算するということですか?

羽賀弁護士
そうですね、そのような場合でも、年代別で計算するパターンは非常に少ないと思います。30代・40代であっても、全年齢で計算するのが大半だと思います。

吉山弁護士
有職の家事従事者の所ですけれども、パートタイムで年収が100万円程度という方の場合も、主婦であるかが問題になることがあるでしょうか。

羽賀弁護士
パートタイムで収入が100万円程度であれば、あまり問題になりません。フルタイムで働いている方の方が問題なりやすいですね。フルタイムであれば、家事に割ける時間が短く、同居している人も一部は家事をしているはずだというのが理由です。
「みお」のまとめ

主婦の方が交通事故の被害に遭い家事に影響が出た場合、専業・兼業に関わらず、休業損害が認められます。休業損害算出の基本になるのが“家事労働の基礎収入”ですが、保険会社が、主婦の家事労働の基礎収入を認定しなかったり、認定したとしても低額にとどまる場合があります。弁護士に依頼すれば、主婦休損はもちろん、その他の慰謝料等も増額になるケースが多いと言えますので、家事を担っておられる方が交通事故の被害に遭われたときは、一度ご相談いただければと思います。
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