事例研究
Vol.68
耳鳴の後遺障害等級の認定について
事例の概要
交通事故による受傷を原因とする耳鳴の後遺障害等級認定について検討しました。
議題内容
議題内容
・耳鳴の後遺障害等級と等級認定の定義
・12級と14級の認定要件について
・耳鳴の認定の実態
・事務所の事例紹介
参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、大畑弁護士、石田弁護士、西村弁護士
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羽賀弁護士
今回のテーマは、『耳鳴の後遺障害等級の認定について』です。「労災認定必携」によれば、耳鳴の後遺障害等級は12級と14級があり、12級が「耳鳴に係る検査によって難聴に伴い著しい耳鳴が常時あると評価できるもの」。14級は「難聴に伴い常時耳鳴があることが合理的に説明できるもの」と定義されています。
「労災認定必携」には、それぞれの要件についての解説が記載されていますので、まずそれを見ていきます。
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羽賀弁護士
12級の要件に「耳鳴に係る検査」というのが入っていますが、これはピッチマッチ検査とラウドネスバランス検査のことで、ご依頼者には、この検査を受けてくださいとお願いすることになります。ただし、この検査をやっていない病院もあり、お住まいの地域によっては、検査機関を探すのに苦労されるかもしれません。
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羽賀弁護士
「難聴に伴い」という要件が12級と14級共に入っています。これについては、「平均純音聴力レベルは40デシベル未満であっても、耳鳴が存在するであろう周波数純音の聴力レベルが、他の周波数純音の聴力レベルと比較して低下しているもの」とされています。もう一つ、後遺障害診断書のひな型に「聴力損失20デシベル以上の難聴を伴う耳鳴を対象とします」とあることから、こちらも要件になります。
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小川弁護士
「平均純音聴力レベルは40デシベル未満」というのは、具体的にはどういう数字ですか?
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羽賀弁護士
聴力障害の基準を満たさないレベルということです。聴力障害と耳鳴では平均純音聴力レベルの要件が異なることになります。
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羽賀弁護士
さらに、12級の要件に「著しい耳鳴がある」というのがあるんですが、これは、検査結果で判断することになります。次に、14級の要件である“著しい”が付かない耳鳴ですが、耳鳴は常時存在するものの、昼間は外部の音によって耳鳴が遮蔽(しゃへい)されるために自覚症状がなく、夜間にのみ耳鳴の自覚症状がある場合に、14級の対象になります。
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羽賀弁護士
14級のもう一つの要件は「耳鳴のあることが合理的に説明できる」というもので、労災認定必携の記載は、労災では問題ないと思いますが、交通事故にはあまり当てはまらないように思います。具体的に言いますと、耳鳴の自訴があり、かつ、耳鳴のあることが、騒音暴ろ歴や、音響外傷などから合理的に説明できる、仕事の関係先がそういう場所だ、というのであれば労災認定されるんですが、交通事故の場合は普通そういったことはないからです。交通事故の場合、受傷態様・治療状況・症状経過等を総合判断することになると思われます。
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羽賀弁護士
次に、耳鳴の認定の実態について見ていきます。結論から言うと、後遺障害としてはなかなか認定されにくいのではないかということになります。むち打ちの事案で、耳鳴とか聴力障害の主張は時々見られますが、自賠責では器質的原因によるものを障害認定とするので、むち打ちに伴って耳鳴や聴力障害が発生しても、非該当とされることが多いと言えます。裁判例でも同じで、耳鳴や聴力障害だけの評価はなかなかされにくく、神経症状として合わせて評価されるのが一般的です。
また、むち打ちと関連して発生した耳鳴・聴力障害の問題点としてよくあるのが、聴力障害や耳鳴の症状が、事故から一定期間経過してから生じたというものです。その場合、症状があったとしても、事故との因果関係が否定されるケースがあります。そのため、むち打ちで耳鳴が発症したとしても、耳鳴が単独で後遺障害として認定されるケースはそんなに多くはないのではないかと思います。
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羽賀弁護士
その上で、私が担当した事案で、耳鳴で12級が認定された例がありましたので、紹介させていただきます。この事案で私が一番問題だと思ったのは、やはり事故との因果関係です。依頼者の方は、耳には直接怪我をされていなくて、事故からある程度時間が経過してから耳鳴を自覚されました。
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羽賀弁護士
事案の中身ですが、事故日が令和2年1月。当初は頸椎捻挫・腰椎捻挫等の診断が出ていて、耳は直接受傷されていません。耳鳴を自覚されたのが令和2年2月、実際に耳鳴に関して耳鼻科を受診されたのが、令和2年3月、事故から50日後です。こういう状況で、主治医の先生に頸椎捻挫、腰椎捻挫、耳鳴という内容の後遺障害診断書を書いてもらい、後遺障害等級の申請をしました。その結果が、資料でお送りしている後遺障害等級認定票です。
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羽賀弁護士
結論としては14級認定ですが、頭部打撲後の頭痛・両耳鳴の症状も、治療状況や症状経過等を勘案すれば14級9号に該当するという判断になっています。耳鳴は後遺障害として認定されないと考えていたので、この時点で、なぜ耳鳴が後遺障害として認定されたのか、よく分からないところがあります。考えられるのは、自賠責保険では、頸椎・腰椎の捻挫で14級を取っていれば、他の症状についても14級が認定されやすい印象がありますので、そういった理由かなと思っていました。
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羽賀弁護士
この認定結果に対し、依頼者の方から、耳鳴がひどいので異議申立をしたいとのご希望がありましたので、資料を色々集めていただいて、異議申立をしました。お送りしている資料にありますが、耳鼻科の後遺障害診断書と耳鳴のラウドネスバランス検査の結果を付けて、異議申立をしたところ、12級が認定されました。耳鳴の検査結果ですが、資料の折れ線グラフで、右の方の下がっている部分が、聞こえづらい、耳鳴がある部分です。8000ヘルツの所ですけれど、ここが、耳鳴が発生しているのと、
ラウドネスバランス検査では90デシベルなので、かなり大きな耳鳴りが発生しているのではないかということが、検査結果から分かります。
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羽賀弁護士
検査としては耳鳴の結果が出ていますが、因果関係を証明するのは難しい可能性があると考えられたため、依頼者の方にもそのように説明した上で、手続きを進めました。
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羽賀弁護士
その結果ですが、資料でお送りしています再度の後遺障害等級認定証の“判断”という箇所ですね。まず、因果関係はあるということで、「受傷態様や症状推移等を勘案すれば、本件事故受傷に起因する症状であると捉えられる」との記載があり、その上で、検査結果では、耳鳴の存在が認められるので、12級を認定します、という回答になっています。検査結果としては出ていたんですが、やはり、受診されたのは事故から50日経過していますし、耳は特に怪我をされているわけではないので、正直、認定されないかなと思っていました。ただ、それでも12級が認定されたので、もしかしたら自賠責は、耳鳴に関しては因果関係の認定が多少緩やかなのではないか、というようにも感じました。
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羽賀弁護士
現在、この結果を前提に示談交渉を進めているところです。
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羽賀弁護士
ちなみに、たまたまこの方が住んでおられる地域がそうだったのかもしれないのですが、耳鳴に係る検査である、ピッチマッチ検査やラウドネスバランス検査を受けられるところが近くでなかなか見つけられなかったとのことです。検査ができる機関が少ないということですね。
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羽賀弁護士
今回の事案から分かるのは、耳鳴の検査結果が出ていると、耳鳴が後遺障害として認定される可能性があることです。また、発症が遅れている場合でも、事情によっては認定されるケースがないわけではないと言えます。ただ、今回の事案だけでは、なぜ認定されたのか、発症が事故発生からどれくらい後になってもいいのかというところはよく分かりません。
「みお」のまとめ
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今回は耳鳴について後遺障害等級が認定された事案を紹介しました。しかし、認定の実態を見ると、多くのケースで耳鳴単独の後遺障害は否定され、むち打ちによる痛みやしびれのみが認定されるか、それに付随して耳鳴も後遺障害として認定されているのが実態です。そのため、基本的にはむち打ちの典型的な症状について後遺障害等級認定を目指しつつ、状況によっては耳鳴について検討するということになると言えます。
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