裁判例研究
Vol.43
交通事故における死亡慰謝料の認定傾向
事例の概要
弁護士が交渉した場合の死亡慰謝料の基準、赤い本や自保ジャーナル掲載の判例と、「みお」の解決事例から、交通事故の死亡慰謝料の認定について、被害者の属性・年齢等がどう反映されるか検証しました。
議題内容
・死亡慰謝料の弁護士基準
・死亡慰謝料の決定要素
・解決事例検討
議題内容
・被害者の属性別、死亡慰謝料の基準額の比較と変遷。
・平成21年1月~令和2年2月まで判決事例について、被害者の属性と年齢ごとの分布。
・羽賀弁護士の解決事例について。
参加メンバー
羽賀弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士、西村弁護士

羽賀弁護士
今回は「交通事故における死亡慰謝料の認定傾向」というテーマでお話ししたいと思います。最初に、一般的な死亡慰謝料の認定基準を、緑本と、赤い本の2015年版以前と2016年版以降の記載分で見てみます。
2番目に、赤い本2016年版に掲載された死亡慰謝料の裁判例と、その後、自保ジャーナルに掲載された解決事例を集計し、被害者の属性や年齢別の死亡慰謝料の傾向を整理しました。
3番目に、当事務所の解決事例の死亡慰謝料をまとめました。

羽賀弁護士
では最初に、一般的な死亡慰謝料の認定基準をざっと見ていきます。大阪の緑本では、被害者の属性が『一家の支柱』なら2,800万円、『その他』の場合は2,000万円~2,500万円です。一方、2015年版以前の赤い本は属性の分類が若干違いますが、『一家の支柱』の方が2,800万円で、『母親・配偶者』の方が2,400万円。それ以外の、独身者や子どもなどの、いわゆる『その他』の方が2,000万円~2,200万円、となっています。
赤い本2016年版以降では若干変わっていて、『母親・配偶者』の基準が2,500万円に引き上げられ、『その他』の方の基準も、2,000万円~2,500万円に引き上げられています。

羽賀弁護士
赤い本2016年版に掲載された死亡慰謝料の額と、その後の自保ジャーナルに掲載された死亡慰謝料の額を、できる範囲で集計しました。赤い本2016年版掲載は、平成21年1月から平成27年6月までの判決分。自保ジャーナルは平成27年7月から令和2年2月までの判決分です。判決のうち、例えばひき逃げとか飲酒運転などの、慰謝料の加算事由が明確に判決の中に出てくる案件は除外して集計しています。

羽賀弁護士
その集計結果と、「みお」の解決事例を集計したものを基に、『母親・配偶者』に属する方の年齢別死亡慰謝料と、『一家の支柱』『母親・配偶者』に属する方以外の年齢別死亡慰謝料を分布図にして、資料としてお配りしています。『一家の支柱』の方の分布図は作っていませんが、赤い本に出ているものを見ると、2,800万円を中心に上下の幅が見られます。数えると56件ありましたが、2,800万円での認定が30件、2,600万円~3,000万円の幅では51件でした。

山本弁護士
ほとんどの案件がその幅の中で認定されているということですね。

羽賀弁護士
そういうことです。最低認定額が2,400万円、最高が3,200万円で、やはり平均はほぼ2,800万円になっています。平成27年7月以降は自保ジャーナルで調べてみると、ひき逃げとか飲酒とかの加算事由が出ている案件が多く、加算事由のない案件は6件だけでしたが、そのうち5件が2,800万円となっていますので、『一家の支柱』の属性の方については、ほぼ2,800万円という基準通りになることが多いと言えます。

羽賀弁護士
それから、『母親・配偶者』の属性の方の、年齢別死亡慰謝料ですが、お配りした分布図を見て頂くと、基本的には若い方ほど金額が高い傾向があり、年齢が上がるほど平均値は低くなっています。

羽賀弁護士
赤い本のまとめでもやはり、被害者の方が高齢の事案は低額になる傾向にあり、若・壮年の被害者では、2,400万円を下回る事例は少ないので、基準を2,500万円に修正した経緯がある、ということです。全体としては、集計対象が58件で、基準額の2,500万円を認定した案件は9件で、そうは多くありません。2,400万円~2,600万円の中では27件で、2,200万円~2,800万円まで幅を広げても46件で、結構、幅が大きいです。
一番低いのが1,980万円、高いものでは3,000万円台のものもあり、平均は2,400万円台後半になりますので、2,500万円という基準が判決におけるほぼ平均になっていると言えます。

羽賀弁護士
先程の分散図でもやはり、年齢が高いほど慰謝料は低い傾向にあります。それから平成27年7月以降の裁判例、これは自保ジャーナル掲載分ですが、これは5件しかなく、かつ70歳以上の方しか見当たらなかったんですが、一応平均直線に沿った所には出てきているので、傾向としては、多分、変わっていないんだろうと思います。

小川弁護士
年齢以外の考慮要素としての、『母親・配偶者』というのはおそらく、ほぼ家事従事者という意味だと思うんですが、そうなら、誰と同居しているか、家事をする方が亡くなったことでどれだけの方に影響が出るのか、といったところが多分、慰謝料に影響しますよね?

羽賀弁護士
おっしゃる通りだと思いますが、詳しい検討はできていません。

山本弁護士
『その他』はどういう人になりますか?

羽賀弁護士
『一家の支柱』や『母親・配偶者』に当てはまらない方なので、お子さんとか、独身の方、さらに、ある程度高齢の方になります。赤い本の2015年版以前の基準は2,000万円~2,200万円だったんですが、『その他』(一家の支柱・母親・配偶者、以外)の年齢別死亡慰謝料の分布図を見ていただいたらわかりますが、0歳から30歳位までだと、むしろ2,200万円を超えている案件が多いですので、それで2,000万円~2,500万円を基準にするように変わったのだと思います。

羽賀弁護士
まとめとしては、『その他』では、特に若年被害者に2,200万円を上回る認定例が多く、高齢の被害者も、単純に認定額が低いとは言い切れない。例えば分布図の60歳を超えているところで見ていただくと、2,000万円が一番底で、上は2,500万円位になっている事例もあります。集計対象が143件あり、2,000万円~2,500万円という赤い本と緑本の基準の範囲で認定されているのが115件で、ほとんどが基準内で認定されています。平均すると2,300万円台になります。

羽賀弁護士
お配りした『その他』の年齢別死亡慰謝料の分布図を見ていただくと、若い人の方が金額が高く、高齢になるほど下がっていく傾向があります。単純に年齢で分けて見ると、29歳までの方の平均は2,400万円程度、30歳~59歳の方は2,300万円程度、60歳以上だと2,200万円程度です。

羽賀弁護士
自保ジャーナルからは、12件の比較できる裁判例をピックアップできました。分布図に書き入れると、数が少ないので傾向がつかみにくいんですが、これも一応、平均直線に沿っているように見えますので、慰謝料の傾向は大きくは変わっていないように思います。『その他』の方の場合、先程小川先生からのご指摘にもあった通り、年齢だけでなく、同居人がいるかどうか、いる場合は関係性や人数なども慰謝料に影響があるだろうと思われます。ただ先程も言いましたが、実際に影響があるかどうか、影響があるとしてどの程度であるかの点は検討できていません。

羽賀弁護士
最後に、私が過去に担当した解決事例の死亡慰謝料を見てみたいと思います。1例目Kさん。73歳で妻と同居の方で、属性は『その他』になりますが、死亡慰謝料は2,450万円になりました。
後遺障害等級1級認定後に、長期間入院され、その後亡くなられました。いったん後遺障害が認定された辺りが考慮されて、少し高めになったのかもしれません。

羽賀弁護士
2例目Mさん。66歳で、シルバー人材センターで仕事をされていて、妻と同居。ということで属性は『その他』になるんですが、こちらからは2,500万円という示談金を提示しました。高めの感じですが、この金額で示談が成立しました。

山本弁護士
死亡された場合と、その他の場合では、保険会社の対応に違いがありますか?

羽賀弁護士
死亡事故の示談ですと、保険会社は色々考慮してくれることがよくあります。示談では遅延損害金や弁護士費用の加算はありませんが、その分死亡慰謝料などを少し高めに提示してくるということが時々あったりしますので、損害項目それぞれをみると示談の方が高めになることがあります。

羽賀弁護士
3例目のSさんは、57歳で独り暮らしですが、離れて暮らしているお母さんに仕送りをされていました。このような場合、『その他』の方に該当しますが、『その他』の方の中で慰謝料を若干高めに出すと良いんじゃないかというのが文献の記載です。ただ、こちらからは、『一家の支柱』で慰謝料を算定し、交渉の結果、死亡慰謝料は2,800万円になりました。ただし、年金逸失利益は将来の話なので計上せずということで解決しています。

羽賀弁護士
4例目はYさん。75歳で夫と同居されていたとのことなので『配偶者』に当たります。この方は2,500万円で死亡慰謝料が出ています。これも、基準通りと言えば基準通りなんですが、年齢を考えれば若干高めです。保険会社の話では、加害者に、高めで解決したいという意向が非常に強くあったようで、このような結果になりました。

羽賀弁護士
5例目のOさんは、34歳で属性は基準額が一番低い『その他』になりました。妻と同居されているので、当初、一番高い『一家の支柱』ということで主張したんですが、妻も正社員で仕事をしているので『一家の支柱』とまでは言えない、ということで、『その他』であることを前提に裁判上の和解になりました。ただこの件は、加害者に40㎞以上の速度超過がある悪質事案ということで、死亡慰謝料が加算され、若干高めの2,600万円になりました。

羽賀弁護士
6例目はTさん。79歳で妻と同居、年金生活の方で、『その他』に該当します。この方の死亡慰謝料は2,250万円でした。これが標準的な認定に近いんじゃないかなと思います。

羽賀弁護士
最後は姫路市にお住いのNさん。夫と同居されていた77歳の『配偶者』に当たる方ですが、基準より若干低めの2,000万円までしか出ませんでした。保険会社側が、あくまでも77歳の方なのでと主張し、死亡慰謝料としては低めのように思えましたが、ご依頼者の意向もあって、最終的に示談で解決しています。

羽賀弁護士
高齢の方が交通事故で死亡した場合について、赤い本に、「高齢の方ほど慰謝料の低い傾向があるけれども、基本的に慰謝料を減額する事由、例えば相続人と被相続人の方が疎遠であったとか、そういった事情が無ければ、少なくとも判決で2,000万円を下回ることはほとんど無いのではないか」という解説が出ています。私からの発表は以上となります。

澤田弁護士
過失相殺がある場合は、慰謝料は一応認定して、そこから過失相殺で減額ということですか。

羽賀弁護士
そうですね、完全に分けて考えることになっています。

澤田弁護士
示談の場合、赤い本や緑本の金額が上限という感じですか?

羽賀弁護士
そうですね、慰謝料の特別な加算事由がなければ、示談では超えたことはありません。ただ、特に死亡事案だと、保険会社の提案が基準の範囲内で若干ゆるい傾向はあるように感じます。遅延損害金と弁護士費用の加算がないので、その分慰謝料にのせて示談解決に持って行っている傾向があるんじゃないでしょうか。ご紹介した事案でも、66歳の方で2,500万円となったものがあります。

澤田弁護士
加害者の刑事事件との関係で、加害者側から早く示談解決したいとかそういうのはないですか?

羽賀弁護士
多分、刑事事件では示談が成立していなくても、保険会社がついていれば示談見込みで考慮されるはずですので、加害者側から慌てて示談したいっていうのは、私の経験ではありません。

澤田弁護士
裁判で3,000万円超えたりするのは、どのような事情があるか分かりますが?

羽賀弁護士
これは判決文で悪質な要素が出てきてないだけという可能性もある、と赤い本にも書いてあります。おそらくそういう事情と思いますが、明確にはわからないですね。

澤田弁護士
交通事故に遭ってから長期間入院された後に亡くなった場合、傷害慰謝料は別に支払われるんですか?

羽賀弁護士
入院していれば死亡慰謝料とは別枠で入通院慰謝料が支払われます。慰謝料総額としては、入通院期間が長かった方が高くなります。死亡慰謝料自体は特に変わらないと思われます。

羽賀弁護士
慰謝料だけを考えると即死より長期間入院の方が高くなります。ただ、即死の場合だと、もしかしたら、速度超過が著しいといった悪質な事案があるかもしれないので、そっちの方で加算されるということかなと思います。

田村弁護士
解決事例の慰謝料に、ある程度バラツキがあるのは、やっぱり事案によって、悪質性とか、そういった細かい調整が入っていると思うんですが、示談の際に、例えば、速度超過だから金額をのせてくれといったようなことで、交渉することもありますか?

羽賀弁護士
お示しした事案の中で、明確に加算事由があったのは、Oさんの件だけですが、加算事由がある場合には、基準より高い金額を請求しています。

田村弁護士
じゃあ示談でも、ある程度、事案に応じた主張ができる。

羽賀弁護士
そうですね、死亡事案ではある程度言いやすいような気がします。後遺障害事案でも、悪質を理由に加算を主張できるかというと、あんまり相手にしてくれないことが多いんですが、重度後遺障害事案や死亡事案だと比較的通りやすいという印象はあります。

吉山弁護士
示談だったり裁判上の和解でまとまった、死亡慰謝料の金額を教えていただきましたが、保険会社からの当初提示はもっと低かったのでしょうか。

羽賀弁護士
MさんやTさんは、初めは2,000万円で提示があって、それを交渉で増額しました。

吉山弁護士
交渉の中で、金額を交渉する際に、何か工夫された点とかありましたか?

羽賀弁護士
2,000万円というのは弁護士基準の中では最低限ですので、最低限の慰謝料を適用すべき事案ではないことを主張しています。あとはご遺族の方のお気持ちをそのまま伝えることもあります。

澤田弁護士
被害者の方の属性によって慰謝料に差が設けられていますが、これはどういう理由なんでしょうね。

羽賀弁護士
そうですね。例えば『一家の支柱』という属性がありますが、一家の支柱の方が亡くなると、収入が全て絶たれてしまうということを考慮して、慰謝料が高いというのはあるはずです。また、『配偶者』に該当し家事をされている方が亡くなると、遺族の方への影響も小さくないことを考慮して、慰謝料が高めに考えられていると思います。

澤田弁護士
高齢の方で配偶者と同居している場合、亡くなったのが男性であるか女性であるかで金額差がでることはありますか。

羽賀弁護士
そうですね、女性の方が、高く出る場合があります。女性の方が家事従事者として認定されやすいことが影響しています。慰謝料自体は家事従事者との認定を受けても高齢の方であれば大きくは増えませんが、逸失利益で大きな差が出ることがあります。

澤田弁護士
OさんとYさんはどうして死亡慰謝料で500万円の差が出たんですか?

羽賀弁護士
Yさんの方は、加害者の意向が強かったと保険会社から聞いています。

澤田弁護士
加害者の意向ですか。

羽賀弁護士
特に死亡事案では、保険会社から、高めに示談して欲しいという加害者の意向があるのでこれだけ出しています、という話を聞くことがあります。

澤田弁護士
裁判に巻き込まれたくないと考える方や、保険会社の意向とかもあるんでしょうね。

田村弁護士
先程の澤田先生の御質問で確認なんですが、Oさんは共働きなので、『一家の支柱』ではないということになったんですよね?ご遺族から見ると配偶者ではあるけれど、慰謝料の一番低い『その他』になるんですか?

羽賀弁護士
そうです、『その他』になります。ただ、『その他』の認定であっても配偶者がいることは考慮されますので、ある程度の慰謝料が認定される傾向はあると思います。
「みお」のまとめ

死亡事故の慰謝料は、弁護士が手続きをする場合、基準が2,800万円~2,000万円の幅で決まっており、ご遺族が直接交渉されると、これよりも低く抑えられる場合がほとんどです。
死亡慰謝料を算定する際に影響する要素は、
① 被害者の属性
② 相続人等との関係性
③ 年齢
④ 加害者の運転状況
などがありますが、ご遺族の方自身が、示談交渉の中でこれらの要素を判断し、適正な金額を保険会社に請求していくのは至難の技と言っていいでしょう。ご遺族の方には、交通事故解決の経験豊富な弁護士に相談されることをお勧めします。弁護士に依頼すれば、保険会社と直接やり取りせずに済み、示談金額の増額を期待することができます。保険会社と死亡事故の交渉が必要なったときは、一度弁護士にご相談いただければと思います。
死亡慰謝料を算定する際に影響する要素は、
① 被害者の属性
② 相続人等との関係性
③ 年齢
④ 加害者の運転状況
などがありますが、ご遺族の方自身が、示談交渉の中でこれらの要素を判断し、適正な金額を保険会社に請求していくのは至難の技と言っていいでしょう。ご遺族の方には、交通事故解決の経験豊富な弁護士に相談されることをお勧めします。弁護士に依頼すれば、保険会社と直接やり取りせずに済み、示談金額の増額を期待することができます。保険会社と死亡事故の交渉が必要なったときは、一度弁護士にご相談いただければと思います。
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