裁判例研究
Vol.82
兼業主婦の休業損害
事例の概要
交通事故で受傷した主婦の休業損害に関連して、赤い本2025年掲載講演「兼業主婦の休業損害請求」の内容を検討しました。
議題内容
議題内容
・兼業主婦の基礎収入の考え方。
・兼業主婦で、主婦休損が認められるかについて収入別の検討。
・14級程度の後遺障害が残った主婦の休業損害の認定。
参加メンバー
羽賀弁護士、澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士、西村弁護士、原口弁護士、青井弁護士

羽賀弁護士
今回は、赤い本2025年掲載の講演「兼業主婦の休業損害」をもとに検討します。最近、保険会社から、兼業主婦について「基礎収入をどうするか」とか、休業日数について「仕事は休んでないので、主婦休損の認定を低くすべき」と主張されることがあります。そして、今回赤い本で兼業主婦の休業損害に関する講演録が掲載されていましたので、検討をしたいと思います。

羽賀弁護士
講演内容ですが、まずは「兼業主婦の基礎収入の考え方」です。基本的な考えでは、女性平均賃金を採用することになります。ただし、同居人も家事をしていて、それぞれが各自の家事を分担している程度に限られるのであれば、主婦休業は認められません。

羽賀弁護士
それから、家事分担がそこまで少ないわけではないものの、家事分担が限定的なケースでは、女性平均賃金を減額して基礎収入を認定します。そのため、専業主婦の方が休業損害が認められやすく、兼業主婦では休業損害の認定が下がってしまうケースも出てきます。

羽賀弁護士
家事分担の程度は、家庭内の家事の総量と、対象者がどの程度分担しているかで判断しますが、個別の立証は難しいので、ある程度類型化することになります。例えば家族構成、未成熟子の有無や人数、健康状態、介護を必要とする人の有無や介護体制、家庭内で被害者以外に家事を分担できる人が仕事をしているかどうか、といった事情を考慮します。

羽賀弁護士
続いて具体例での検討になります。具体例ですが、「夫と妻と子供1人の家庭で、妻が追突事故で頚椎捻挫の受傷をし、症状固定までの5か月間に、週2回程度通院し、14級9号が認定された」というものです。夫は40歳の正社員で年収600万円、子どもは10歳で、妻は主に収入などで次の5つに分類しています。いずれのタイプも事故後仕事を休まず減収なしの設定です。
(1)専業主婦。
(2)月収10万円程度のパートの兼業主婦。
(3)女性平均賃金程度の年収380万円の正社員。
(4)年収400万円の正社員。
(5)年収800万円の正社員。

山本弁護士
頚椎捻挫、通院期間が5か月で、14級9号が認定されたとの部分が少し気になりました。通院期間が5か月でも14級9号が認定されることはあるとの前提ですが、もう少し通院期間が長い方が後遺障害等級が認定されやすいかもしれません。

羽賀弁護士
そうですね。その部分は少し気になりました。話を本題に戻すと、(1)の専業主婦の場合は、基本的な考え方通りで、特段の事情がなければ基礎収入は女性平均賃金の約400万円で評価します。
(2)の月収10万円程度のパートの兼業主婦の場合は、家事従事者に該当すると考えられます。そして、夫が正社員であることから、妻が主に家事を担っていたと推定され、実収入より女性平均賃金の方が金額が高いので、基礎収入は女性平均賃金になります。
休業期間をどう考えるかですが、基本的には症状の経過等から、家事の支障を割合的に認定するのが基本です。しかしパート勤務を休んでいない部分も事情として考慮しますので、休業日数の認定がやや限定的になる可能性があります。

羽賀弁護士
(3)は、女性平均賃金よりも少し低い年収380万円程度の正社員の場合ですが、夫も妻も正社員の設定なので、家事の分担割合が問題になります。ただこの設定では、夫の方が収入が高いので、妻が家事従事者の認定になる可能性が考えられ、女性平均を基礎収入として評価します。ただし、女性平均賃金程度の収入を得ていて、仕事を休んでいないため、休業損害が否定される可能性が高いと思われます。

羽賀弁護士
それから、(4)の年収400万円の正社員は、実収入は女性平均より高いので実収入を基礎収入とし、仕事は休んでいないので休業損害は否定されるのが基本的な考え方になります。(5)の、年収800万円の正社員の場合は、実収入を基礎収入とし、仕事は休んでいないので休業損害は認められません。

羽賀弁護士
以上のような考え方には、問題点もあります。それは、平均賃金より高収入の人で、小さい子供が複数いるなどの事情から、家事の総量は通常よりも多く、配偶者も多忙で、被害者の努力で仕事と家事を両立させていた場合でも、実収入の範囲でしか休業損害が認められない点です。
示談交渉ではよくあるケースで、仕事をしている人より、主婦(家事従事者)の方が、主婦休損が大きくなる傾向があるように思います。

山本弁護士
今回のモデルケースでは、年収120万円ほどであれば、仕事を休んでいなくても、ある程度は主婦休損が認められやすいことになります。一方、年収380万円ほどであれば、仕事を休んでいない場合、主婦休損は認められにくいことになります。これらの中間的なケースで、年収200万円であればどうか、年収300万円であればどうかの点は気になりますが、現段階では個別に検討していくしかないんでしょうね。

羽賀弁護士
そうですね。気になるところで、今後の課題になると思います。次に、赤い本で紹介されていた裁判例から、主婦休損の認定割合について検討します。
怪我の内容は、頚椎捻挫が多いですが、受傷内容不明の事案、骨折などで最終的に14級が認定された事案も含まれています。

羽賀弁護士
この一覧表を見ていきますと、主婦の休業損害の認定はばらつきが非常に大きくなっています。示談でもばらつきは非常に大きいですが、裁判例でもばらつきが大きいことが分かります。治療期間に対する認定割合は、50%を超えるくらいのものもあれば、10%くらいのものもあります。通院期間が長いケースでは休業期間の割合が下がる傾向があるのと、通院期間等にもよりますが、休業期間が30日を下回っているケースは多くはありません。示談交渉でも傾向は似たところがあります。

吉山弁護士
今回赤い本に掲載されているのは、14級が認定された事例ですが、14級の場合と非該当の場合で主婦休損の認定傾向の差はあるのでしょうか。

羽賀弁護士
非該当の裁判例の掲載はなかったので示談交渉での集計ですが、非該当より14級の方が主婦休損の認定割合が高い傾向はあります。14級の場合、症状固定近くになっても、少なくとも5%の労働能力喪失があると判断される点が影響しているのだと思います。なお、非該当より14級の方が主婦休損の認定割合が高いと言っても、大幅に高いわけではなく、事案によっては逆転することもあります。

羽賀弁護士
最近、保険会社からも、被害者の方が兼業主婦の場合、休業損害について色々と主張が出てくるケースがあります。そのため、兼業主婦の方の場合、休業損害がどの程度認められるか、慎重に検討をする必要があります。少なくとも、これまでと同じ感覚で考えていると、思っていたほど休業損害が出ないケースも出てくると思います。
「みお」のまとめ

休業損害は、保険会社から提案される示談金の項目の代表的なものの1つで、交通事故で怪我をして仕事を休んだ場合だけではなく、家事に影響が出た場合にも、保険会社に請求できます。専業主婦であっても兼業主婦であっても、家事労働は休業損害の対象になりますが、家庭内での家事分担の割合が低い場合、主婦としての休業損害は認められないか、認められたとしても金額が低くなってしまいます。主婦休損は、弁護士が交渉すると金額が増えやすいのが特徴のため、主婦の方は、示談金について、弁護士への相談・依頼をお勧めします。
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