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弁護士による交通事故研究会

裁判例研究
Vol.11

整骨院における施術費について

本件の担当
倉田弁護士

2018年06月29日

事例の概要

交通事故の損害賠償請求において、整骨院の施術費が認められる、範囲や条件について、検討しました。

議題内容

整骨院の施術費と交通事故の損害賠償請求について

議題内容
  • 整骨院の施術費が損害と認められる範囲
  • 医師の、指示と同意について
  • 脱臼又は骨折と整骨院の施術について
  • 施術費が必要かつ相当と認められない場合の、請求方法について
参加メンバー
澤田弁護士、伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、羽賀弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、大畑弁護士、北名弁護士
倉田弁護士
2018年の赤い本(※注1)に掲載の「整骨院における施術費について」の裁判官の講演をご紹介します。
講演の1つ目のテーマは、「裁判で争ったときに、整骨院で支払った施術費が、損害としてどの範囲まで認められるか」です。
※注1:正式名称は「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」。日弁連交通事故相談センター東京支部発行。カバーが赤いのでこの通称に。交通事故の示談金や損害賠償金の基準に広く用いられている。
倉田弁護士
整骨院における施術費が損害と認められるには、この程度の範囲が妥当ですよ、ということを説明する前提として、まず初めに、交通事故の治療費の一般論を紹介されています。

交通事故との因果関係が認められる治療費の具体的な範囲については、先生方は既にご存知ですが、一応紹介しておきますと、「その範囲とは、被害者が交通事故により受けた傷害の具体的な内容・程度に照らして、症状が固定するまでに行われた「必要かつ相当な治療行為」の費用である」、ということです。
倉田弁護士
ここで言う、「必要かつ相当な治療行為」の費用とは、医学的見地からみて当該傷害の治療として必要性及び相当性が認められる治療行為であり、なおかつその報酬額も社会一般の水準と比較して妥当なものである、というのが一般論としての基準になります。
倉田弁護士
そして、ここから先で、それを整骨院での施術にあてはめた、具体的な基準について解説しています。
まず、「施術費の請求が認められるための要件」として2点あげています。
これには「当然の前提」という註釈が付いており、一応あげてはいるけれど、ちょっと考えたら分かりますよねというレベルのことだということです。
倉田弁護士
その2点のうちの1点目は、
施術は症状固定までに行われたものであること、つまり症状固定後の施術は含まれませんよということです。これはもちろん当然のことですね。
2点目は、施術録に記載された施術が本当になされたこと、ということで、これももちろん当然のことです。
なんでわざわざこんなことを言っているのかというと、最近、整骨院による不正請求がそれだけ多いから、というのがその理由だということです。
ただ、施術録の記載があれば、本当にそのような通院をし、施術がなされたことを、一応推認するということになっています。
倉田弁護士
で、ここから先が、本題である、施術費の請求が認められるための要件、つまり、その施術行為が「必要かつ相当」かどうかの要件という、今回、一番大事なところになります。

「必要かつ相当な施術行為」であると言えるためには、5つの考慮要素を総合的に検討し、その結果、「必要かつ相当な施術」の費用であると認められる場合に、その費用が、交通事故の損害と認められるということです。
倉田弁護士
では、①②③④➄の5つの考慮要素を見ていきます。
まず、「必要かつ相当な施術」の、必要の部分として、
考慮要素①施術の必要性があります。これは、そのとき、身体が施術の必要がある状態だったということです。そしてもうひとつの考慮要素が②施術の有効性です。これは、施術の結果、具体的な症状の緩和が見られることが必要だということです。
さらに、相当性の部分としては、
考慮要素③施術内容の合理性があります。傷の内容と症状に照らして、施術が過剰・濃厚に行われておらず、症状と一致した部位について、適正な内容として行われている、ということです。さらに、考慮要素④施術期間の正当性。これは、受傷の内容、治療経過、疼痛の内容、施術の内容とその効果の程度等から、施術を継続する期間が相当であることです。そして、考慮要素➄施術費の相当性、すなわち報酬金額が社会一般の水準と比較して妥当なものであるということです。
この①から➄の5つの要素を総合的に考慮することで、施術費の請求が認められるかどうかが決まってくる、というのが論旨です。
倉田弁護士
整骨院の施術費が認められるかどうかの基準としてよく挙げられているのが、お医者さんの指示がある場合とない場合という点で、緑の本(※2)に掲載されている大阪地裁の判決基準などにも、この点について記載されています。
※注2:正式名称は「交通事故損害賠償額算定のしおり」。大阪弁護士会交通事故委員会発行。表紙が緑色なのでこの通称で呼ばれている。

この講演でも、この点に言及されています。つまり、お医者さんが整骨院での施術を受けるように指示をしているということは、特段の事情が無い限り、先程説明した、①施術の必要性と②施術の有効性、があることを強くうかがわせる事情になる、ということですね。
施術費が損害として認められるためには、原則として医師の指示が必要であると言われることがあるので、お医者さんの指示は①と②に関わってくることから、この点を強調するために、医師の指示について特に言及した、という風におっしゃっています。
倉田弁護士
ただし、これに加えて、施術の相当性の根拠となる、③施術内容の合理性、④施術期間の相当性、➄施術費の相当性が認められるかどうかは、別途検討される必要性がありますよ、ということも述べられていますので、お医者さんの指示があってもそれだけではダメですよ、ということになってしまいます。
逆に、お医者さんの指示がなかった場合でも、先述の①から➄の要素が認められる場合には、施術費が交通事故による損害と認められる場合もありますよ、ということも述べられています。
倉田弁護士
次に、問題のある事案が紹介されています。それは、
この講演のタイトル、「整骨院における施術費について」は、平成15年にも、別の裁判官が講演に取り上げているそうですが、その中で、施術期間の相当性について、初療の日から6ヶ月を一応の目安としてはどうでしょう?と発言されたところ、この6ヶ月というのが、ちょっと一人歩きしているきらいがあるようなんですね。
小川弁護士
事例があるんですか?
倉田弁護士
これを意識したのかどうなのか、交通事故の被害者が、事故直後から頻繁に整骨院に通院し、施術内容も通院頻度もあまり変わらないにも関わらず、6ヶ月を経過したとたんに通院を止め、きっかり6ヶ月分で、しかも、整形外科における治療費の何倍にも上る高額な施術費を請求するといった事例が散見されるそうです。
しかし、6ヶ月というのはあくまで目安でしかないですし、④施術期間の相当性は、「必要かつ相当な治療行為」の相当性を判断する要素の1つに過ぎず、他の①②③➄も考慮して、当然、事故との因果関係が認められないケースもあるということです。
倉田弁護士
次は、2つ目のテーマ、「医師の同意がある場合、脱臼または骨折の場合」です。
先程はお医者さんの積極的な指示がある場合についてでしたが、ここではまず、指示まではされていないけれど、同意はあるだろう、というようなケースについて、次の様に解説されています。
(1)整骨院での施術を受けることについて、医師が積極的に指示している場合と違い、医師の同意はある、というだけの場合は、特段の事情が無い限り、「必要かつ相当な治療行為」の相当性を判断する5つの要素のうちの①施術の必要性と②施術の有効性をうかがわせる一事情になるにすぎない。
(2)これから施術を受けようとしている患者さんに対し、医師が施術の内容などを把握したうえで、はっきりと同意した場合と、既に施術を受けている患者さんに対して、黙認に近いような同意をした場合とでは、①②をうかがわせる度合いも違ってくる。
(3)また、③施術内容の合理性④施術期間の相当性➄施術費の相当性についても、別途検討する必要がある。
倉田弁護士
脱臼または骨折の場合の施術費について言及されています。
お医者さんの同意が無いにも関わらず、整骨院などで脱臼や骨折に施術がなされた場合、施術費が認められる可能性があるでしょうか、という、ちょっとレアなケースかなと思いますが、そういった事案の解説です。
この問題については、柔道整復師法17条に、「柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほかは、脱臼又は骨折の患部に施術をしてはならない。ただし、応急手当をする場合は、この限りでない」という規定があります。この規定の趣旨は、応急手当以外には医師の同意を要求することにより患者さんの体に危害が生じるのを防止するというところにあるので、法17条における医師の同意は、予め医師から包括的な同意を得ておくことは許されず、あくまで患者さんを診察した上で、具体的に与えられることを要します、と。このような医師の同意がなく脱臼又は骨折の患部に施術がなされた場合には、医学的な必要性や、有効性がないこと、つまり、前出の①施術の必要性②施術の有効性の要素がないことを強くうかがわせる事情になりますよ、ということでした。
このように考えると結局、施術費との因果関係がないという判断になってしまい、患者さん(被害者)保護の助けにならないのではないかという批判もあるようなんですが、講師の裁判官は、このように考えても、法17条における医師の同意は、個々の患者が医師から得てもよく、また施術者が直接得てもよく、その形式は書面でも口頭でもよいとされていること、医師の同意を得たことの立証としても、特定の医師から施術について同意を得た旨の記載が施術録にあれば足り、同意書の添付までは要しないと考えられることに照らせば、被害者保護の要件に欠ける点はないとされていました。

ここのところは、裁判官がおっしゃることなんでそうなのかもしれないですけれど、施術録に医師からの同意があったとさえ記載されていれば良いというのは、ちょっとどうなのだろうかなと。一般的な感覚からは、ちょっと外れているのかなと、正直思いました。
倉田弁護士
最後は、3つ目のテーマ「必要かつ相当な施術行為の費用と認められない場合の損害の範囲」す。
要するに、施術費の全部は認められないけれども、一部は認めるというときに、裁判所はどのような認定の仕方をするのでしょうか、ということです。
これに関しては、大きく2つの考え方、保険基準説と割合説という2つの考え方があります。
保険基準説というのは、施術費について、労災保険や健康保険の金額をベースにして、その1.5倍から2倍くらいまでが上限で、そこを超えるともう因果関係は無し、という判断をする考え方。
割合説というのは、施術の期間や料金、施術の必要性等の種々の事情をしん酌して、施術費総額の何割かという限度で認めるという考え方です。
この2つがあります、ということですが、裁判例を分析すると、平成15年以降の傾向としては、割合説に拠っているものがほとんどですよ、ということでした。
実際に事案を扱っている側としては、割合説的な考え方で処理しているのかなあというのが現場の感覚かなと思います。以上です。
吉山弁護士
ありがとうございました。
どなたか、整骨院の施術費として相当かどうかで争われた件ってあります?
倉田弁護士
意外に払ってくれるんですかね?
羽賀弁護士
交渉では払ってくれますね。
伊藤弁護士
私は、裁判で争われたものはあるんですが、全体からしたら微々たる差でしかなかったんで、他の所で和解でうやむやで終わってしまうということが多いですね。
倉田弁護士
治療中に払ってもらっているにもかかわらず、後々ひっくり返されるってことだけはとにかく避けたいなっていつも思うんですけど、そこまではされてます?
伊藤弁護士
それは主張されたことがあります。
倉田弁護士
やっぱりされるんですね。
吉山弁護士
保険会社も最近は割と、整骨院から請求されたときに、これ過剰じゃないんですかって言って、施術費を削って、整骨院の先生の了解をとって、その金額を払うケースが多いですね。
大畑弁護士
その差額は自己負担で請求するってことですか?
吉山弁護士
いえ、整骨院の先生が、じゃあ値引きしますってことになります。
倉田弁護士
だから、その金額で保険会社と整骨院は話ができてるっていうことになるんですね。
吉山弁護士
そうそう、そうです。
倉田弁護士
被害者の方が、病院と整骨院と両方に行ってらっしゃるときに、病院に比べて整骨院へ通われる割合がすごく多いと、大丈夫かなあって思うんですよね。
今担当させていただいてる件なんですけれど、病院へは月1回行くか行かないなのに、整骨院へは毎日行ってらっしゃるみたいなんで。それって、賠償金に影響ありますか?あんまり関係ないですか?
吉山弁護士
後から通院期間に対する慰謝料をカウントするときに、整骨院の部分を除くという主張はあまりないですけどね。言われるかもしれないなっていう心配ですか?
倉田弁護士
ええ、なんか不安感があるんですよね。もうすぐ症状固定なんですけども。
羽賀弁護士
示談交渉なら、保険会社の了解を得ながら整骨院に行っているのであれば大丈夫なことが多いとは思います。
ただ、訴訟になると争われるっていうパターンかと思います。
吉山弁護士
こういうときって、整形外科って、2,3ヶ月に1回とかは論外として、どれぐらいの頻度で行っておいた方がよろしいですよっていうのは、アドバイスされます?例えば、2週間に1回は行った方がいいですよ、とか。
羽賀弁護士
少なくとも1カ月に1回以上通院してほしいと言いますね。それだけ間を空けると、自賠責の方で引っかかる恐れがあるので、それだけは守ってくださいっていうのと、まあでも、整骨院へ行くより、できるだけ整形外科へ行ってくださいとも言いますね。
倉田弁護士
あとの交渉が有利になりやすいから、やっぱり整形外科へ行ってほしいですよね。
羽賀弁護士
整形外科で、リハビリを併設してるところを探してくださいって言いますね。

「みお」のまとめ

交通事故の損害賠償請求において、整骨院での施術費用を、損害としてどの程度まで請求できるかという問題があります。近年、整骨院による施術費の不正請求が問題になっており、保険会社としても厳しい対応をするケースが増えて来ました。整骨院は、病院より気軽に行け、対処療法的な施術を受けられるので、ついつい整骨院をメインに通院する方も多いようですが、整形外科で必要な治療をきちんと受け、適正な診断書を書いてもらうことは、後遺障害等級の認定や損害賠償金請求に不可欠です。整形外科への通院頻度が少なくなると補償額が少なくなることがありますので、ご注意ください。
整形外科に通院するか、整骨院に通院するかで悩んでいる方もいらっしゃると思います。一度、みお綜合法律事務所(大阪・京都・神戸)の弁護士に相談されることをお勧めします。

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