裁判例研究
Vol.35
外貌醜状の後遺障害等級表の改訂と逸失利益・慰謝料への影響
事例の概要
後遺障害等級表改訂の前後の、外貌醜状の裁判例を比較して、逸失利益や慰謝料認定への影響、主張・立証上の注意点などを検討しました。
議題内容
「外貌醜状の後遺障害等級表の改訂と逸失利益・慰謝料への影響」について
議題内容
・外貌醜状の後遺障害等級表の改訂について
・改訂前・後の裁判における労働能力喪失率・逸失利益の有無の認定について
・改訂前・後の裁判における慰謝料の増額幅の変化
・主張・立証のポイントと注意点
参加メンバー
伊藤弁護士、吉山弁護士、小川弁護士、山本弁護士、羽賀弁護士、倉田弁護士、田村弁護士、加藤弁護士、石田弁護士
伊藤弁護士
後遺障害等級表が平成23年5月2日に改訂され、外貌醜状の男女の区別がなくなり、平成22年6月10日以後に発生した交通事故に適用されています。今回は、外貌醜状の後遺障害等級表の改訂と逸失利益・慰謝料への影響について、赤本掲載の講演を参考にしながら検討していきたいと思います。

倉田弁護士
「後遺障害等級表に男女差があるのは憲法違反だ」との訴えを認める判決が出て、障害等級表の男女の区別が廃止されたんでしたね。

伊藤弁護士
判決を受けて、従来の等級表では、女性は、著しい外貌醜状が7級、単なる外貌醜状が12級。男性は、著しい外貌醜状は12級、単なる外貌醜状が14級とされていたものが、男女共通して、著しい醜状が7級、相当程度の醜状が9級、単なる醜状が12級と改訂されました。

倉田弁護士
”相当程度の醜状”が、9級として新たに設けられたんですよね。

伊藤弁護士
はい。改訂前の基準は、5cm以上の線状痕は女性で7級・男性で12級とされていましたが、現在では性別にかかわりなく9級です。

伊藤弁護士
そこで、外貌醜状が残った場合の逸失利益や慰謝料の判断はどう変わったか、検討していきたいと思います。等級表改訂前の判例では、外貌醜状は、それ自体が身体機能の低下を招くものではないということから、逸失利益が認められないケースが多くありました。
ただし、逸失利益が認められない場合であっても、精神的苦痛が大きいと認められる場合には、慰謝料を通常の水準よりも上乗せして認められていたケースもありました。

小川弁護士
逸失利益については、特に女性に対して、それも、芸能人とかモデルやホステスといった、いわば印象重視の職業の方に、例外的に認められていた、という印象です。慰謝料の増額はどの程度でしたか?

伊藤弁護士
100万円~200万円程度の増額が多かったようです。改訂前の裁判例については、東京地裁交通部判事の次のような講演が赤本に紹介されています。

伊藤弁護士
具体的な中身ですが、逸失利益の認定にあたっては、醜状の内容及び程度を前提として、被害者の年齢、性別、職業等を考慮し、①労働能力に直接の影響がある場合、例えば、醜状のために配置転換された、職業選択の幅が狭まった等の事情が認められる場合には、労働能力の喪失を肯定し逸失利益を認める。②労働能力への直接的影響は認めがたいものの、間接的な影響がある場合、例えば、対人関係に消極的になる等の場合には、後遺障害等級に応じて通常想定される精神的苦痛ではなお評価しきれないものとして、慰謝料額を増額する。③労働能力に直接的にも間接的にも影響を及ぼさないと考えられる場合には慰謝料の増額はしない、というものです。

伊藤弁護士
次に、改訂後の裁判例について見て行きたいと思います。逸失利益の判断基準自体は、改訂の前と後で異ならないとされていますが、改訂後の裁判例では、男女の区別なく逸失利益が認定される場合があり、男性についても労働能力喪失が認められる事案が出ています。

加藤弁護士
労働能力喪失率については、等級の高いものほど喪失率も高く認定される傾向にありますが、外貌醜状それ自体は身体機能の低下を招くものではない、という考えがまだ根底にあるためかどうかわかりませんが、等級表上の喪失率に比して、低く認定されることが多いように思います。喪失期間に関してはいかがですか?

伊藤弁護士
労働能力喪失期間については、外貌醜状が器質性障害として将来完治しにくいという特質があることもあって、67歳までの期間が認定されることが多くなっています。また、慰謝料については、逸失利益が認定された場合の損害額を超えない範囲で認定され、かつ、等級が高いものほど増額幅も大きい傾向にあります。

吉山弁護士
具体的にはどれ位の増額になりますか?

伊藤弁護士
裁判例では、9級や12級が認定された事例では数十万円~200万円の増額が多く、7級が認定された事例で200万円の増額が認められたものが1件ありました。

倉田弁護士
こういった裁判例を見た上で、では、ご依頼者の代理人として、どういった点を主張・立証していくか、ということですね。

伊藤弁護士
はい。まずは、醜状の内容及び程度をしっかりと主張・立証していきます。後遺障害等級の該当性に加えて、醜状痕の位置だとか大きさ、醜状痕が将来改善する見込み、頭髪等で隠れるのかどうか、さらに、他者に与える印象等を主張します。
立証方法としては、診断書や後遺障害等級認定票に加えて、医師の意見書や醜状の写真、動画を用いることも効果的です。

吉山弁護士
この前の、和解で終わった事例なんですが、傷跡のところは写真で出すようにと言われました。結局、写真の撮り方ですよね。カメラの角度とかによって、傷が目立ちやすい、目立ちにくい、というのがあるので、そのあたり、上手く撮ってもらったのが良かったと思います。撮り方に一工夫すると、印象が変わると実感しました。

小川弁護士
醜状によって業務に直接的影響が生じるんだということを、主張・立証することも重要ですね。例えば、被害者の方の職業が、モデルや接客業など、容姿や印象重視のものであること。醜状による転職・配転・減収、あるいは転職への支障が大きいこと。未就労の方なら、希望職業への就職制限等の事情がある。こういったことを挙げて、業務内容に直接的な影響が生じることを主張していく。

伊藤弁護士
業務への直接的な影響が認められない場合でも、先程紹介された講演にもありましたが、裁判例では、間接的影響が認められる場合には慰謝料が増額される場合もありますので、被害者の方本人の陳述書や事故後の診療録といったものも利用して、醜状による精神的苦痛を主張・立証していく必要があります。

伊藤弁護士
その他の裁判例も資料としてお配りしていますので、また、それらもご確認いただければと思います。

吉山弁護士
今回の改訂で後遺障害等級について男女の区別がなくなりましたが、逸失利益を認めるかどうかや認めるとしてどの程度認めるといった点について、私としては大幅に認められるようになったという印象はあまりないんですけれど、いかがですか?

山本弁護士
私も、あまり変わらない印象ですね。

吉山弁護士
等級認定の時に、後遺障害診断書に怪我の絵を書いてもらったり、実際に自賠責の方で面談してもらって後遺障害等級が付いても、その後傷が薄くなったりして、裁判がしにくくなっているケースが多いのかな、とも思っています。先生方、何か工夫された点とかありますか?

加藤弁護士
交通事故から時間が経つと少しずつ傷が小さくなることがありますので、早めに症状固定して示談を進めるようにしています。

吉山弁護士
被害者の方としては、やっぱり、治療を受けて早く醜状痕を薄くしたいっていうお気持ちがありますから、なかなかタイミングが難しいというところがあるんですけれど。

羽賀弁護士
早めに症状固定するとその後の治療費は自己負担になりますが、健康保険を使えば自己負担額は小さくて済みます。後遺障害等級が認定される可能性が高くなることを考えれば、治療費を自己負担することの問題は小さい場合が多いように思います。

山本弁護士
最終的には自賠責の面談調査の時に顔を見せることになりますので、被害者の方が女性の場合は、必ずお化粧をきっちり落として来ていただかないと、傷が見つからないという事にもなりますので、注意が必要ですね。ファンデーションなどで、傷を綺麗に消して来られる方がいらっしゃいますので。
男性の方でも、髪の毛に隠れたりすることがないように、傷が分かりやすいようにしておく必要はあると思います。

倉田弁護士
隠せる程度か、と思われてしまいますものね。
「みお」のまとめ

顔など人目につきやすい部位に傷が残ってしまった醜貌障害による逸失利益は、裁判例においても低く認定されたり、否定されることが少なくありません。しかし、実際は、男女の別や職種に関係なく、精神的苦痛や仕事への影響は何かしらあるはずですので、慰謝料や将来にわたっての労働能力喪失に伴う逸失利益を、主張し請求する必要があります。醜貌障害でお悩みの方は、等級認定申請を含めて、経験豊富な「みお綜合法律事務所(大阪・京都・神戸)」にご相談いただければと思います。
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